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天空の追跡者

「……計算外だな。この荒野の残滓どもに、これほどの執念があるとは」


バルバトスは冷笑を浮かべたまま、手の中で黒い結晶を粉砕した。その瞬間、空に浮かぶ『堕ちた玉座』から凄まじい震動が響き渡る。街を飲み込もうとしていた影が急速に収束し、要塞が強引に空間を断絶して転移を図ろうとしていた。


「逃がさない!」


ルカが叫ぶ。彼は倒した騎士の残骸を踏み台にし、全速力で空中の要塞へと跳躍した。しかし、重力に抗う術を持たない彼の手が届くはずもない。


その時、背後に巨大な羽音が轟いた。

ロンドが猛然と加速し、ルカの背中を掴んでそのまま上昇したのだ。オリビアもまた、ロンドの背で新しい短剣を掲げ、風を操って要塞の移動を妨害する。


「ロンド、加速して! 奴の転移術式ゲートを閉じる前に、懐へ飛び込むわ!」


『承知した、オリビア! 全力で突き抜けるぞ!』


ロンドの翼が銀色の光を纏い、要塞が作り出した空間の歪みを強引にこじ開ける。ルカは空中で身を捻り、魔鉄の短剣を要塞の基部――転移の要である動力核へと突き立てた。


「そこだ!」


火花が飛び散り、転移術式が物理的に砕かれる。要塞はバランスを崩し、転移の失敗によって生じた衝撃波で、カエルムの集落から遠く離れた「沈黙の荒野」へと強制的に墜落を開始した。


轟音と共に、要塞が荒野の岩山に突き刺さる。

舞い上がる砂煙の中、オリビアとルカはロンドから降り立ち、燃え盛る要塞の残骸を見据えた。


「……バルバトスは生きている。奴は死に際に、この要塞の全魔力を集約して逃げ延びようとしている」


ルカの言葉通り、要塞の中心部から、異様なほど濃密な影の塊が這い出していた。それはバルバトスの本性――人の形を捨てた、巨大な「澱みの集合体」だった。


「追うわよ、ルカ。奴を倒さなければ、この光は守れない」


「ああ。……それにしても、まさか死神とエルフが肩を並べて、幹部を追い回すことになるとはな。我ながら笑えてくるぜ」


二人の前には、沈む夕陽に照らされた荒野が広がっている。

要塞の残骸から溢れ出した魔力が、周囲の砂を黒く染め上げていく。バルバトスが逃げ込んだ先は、かつて世界樹の根が完全に死に絶えたとされる『最果ての峡谷』。


そこは、この世界の「絶望の淵」とも呼べる場所だ。

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