銀の霧に刻まれた因縁
地下から地上へ這い出たオリビアとルカを待っていたのは、集落カエルムを包囲する不穏な空気だった。
かつての仲間たち――かつて死神ルカのパーティを構成していた戦士・ガルドと、水晶球の術者・リナが、門の前に立ちはだかっていた。彼らの装備には、魔王軍から与えられた禍々しい深紫の紋章が刻まれている。
「……ルカ。生きていたか」
大剣を地面に突き刺し、ガルドが低く唸る。彼の瞳は、かつての信頼の光を失い、魔力に汚染された濁った赤色に染まっていた。
「死神の看板を捨て、エルフの小娘と仲良くごっこ遊びか? あの黄金の光……世界樹を起動させたんだろう。おかげで魔王様からの評価が地に落ちたぞ」
「評価だと?」
ルカは短剣を抜き放ち、一歩前に出る。かつて自分が背を向けた仲間に対し、もはや迷いはなかった。
「お前たちが魔王軍に魂を売った理由を、今なら理解できる。力に飢え、過去の罪を忘れるために、その紋章に縋ったんだろう。……だが、俺はもう逃げない。お前たちが踏みにじった『調べ』を、俺が正す」
「戯言を!」
ガルドが猛然と突進し、大剣を振り下ろす。ルカはそれを避けるのではなく、魔鉄の短剣を交差させて受け止めた。金属の悲鳴のような音が響き、周囲の空気が振動する。
オリビアはロンドと共に空を舞い、リナの放つ魔法の弾道を見極めていた。リナが水晶球に魔力を集中させる。
「ルカだけじゃない、そのエルフも消し飛ばす……! 世界なんて、どうなろうと知ったことじゃない。私たちはただ、強くなるだけでいいのよ!」
リナの杖から放たれた紫色の奔流が、集落の土壁を粉砕する。オリビアはその軌道を予測し、短剣で空間の「綻び」を突く。――《静謐の調律》。
その一撃は、魔法の魔力循環を強制的に遮断した。リナが目を見開き、水晶球が手から滑り落ちる。
「あり得ない……私の術式が、消えた?」
「術式じゃないわ、不協和音を正しただけ」
オリビアは冷ややかに告げると、ロンドの背から飛び降りた。地上に降り立つと、彼女はルカの隣に並び立つ。守護者と元死神。二人の調律師が、かつての仲間を前にして並ぶ姿は、もはや「冒険者」というよりも、世界を正すための執行者のようだった。
「ルカ、行くわよ。この霧が、私たちの調べに同調している。この力を使えば、彼らの魔力回路を一時的に閉ざせるはず」
「……ああ。手間賃にもならんゴミ掃除だが、今回は特別だ。終わらせるぞ、オリビア」
ルカの短剣が黄金色に輝き、それに呼応するようにオリビアの短剣も輝きを増す。
かつての仲間という枷を捨て、二人は「守護者」としての調べを奏で始めた。
それは、過去との決別であり、未来への宣戦布告でもあった。




