表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略済みの戦国世界に転移した私、無双して明智光秀を救ったのに歴史がズレ始めた  作者: 西住


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

第八話「傾奇者」

風が、軽かった。


戦のあととは思えないほど、空は澄んでいる。


(……勝った、んだよね)


春日部は空を見上げながら、ぼんやりと考える。


池田城は落ちた。

あの異様な城も、もうない。


でも——


(なんか、実感ないな)


その時だった。


「——派手にやったもんだな」


声。


振り向くより早く、影が視界に入る。


いつの間にか、そこにいた。


高い場所。

崩れかけた石垣の上。


一人の男が、座っている。


片膝を立て、頬杖をついて。


まるで最初からそこにいたみたいに。


「……誰?」


春日部が目を細める。


男は、にやりと笑った。


「噂は聞いたぜ」


軽い声。


だが、その目は笑っていない。


「城を“見ただけ”で落としたってな」


間。


風が吹く。


「嘘なら笑える。本当なら——」


ゆっくりと立ち上がる。


「もっと笑える」


地面に、音もなく降りる。


その動きは軽い。異様なほどに。


(……この人)


直感が告げる。


普通じゃない。


「名は?」


問われる。


「春日部」


短く答える。


男は一瞬だけ考え——


「そうか」


とだけ言った。


名乗らない。


(あ、これめんどくさいタイプだ)


春日部は小さくため息をつく。


「で、何?」


男は肩をすくめる。


「試しに来た」


「は?」


「本当に面白いのかどうか」


その一言で、空気がわずかに張り詰める。


「……何それ」


「そのまんまだ」


男は笑う。


(あー、これ)


(戦うやつだ)


春日部は一歩引く。


だが——


その瞬間。


「やめておけ」


低い声。


明智光秀が前に出る。


「無用の争いは——」


「無用かどうかは、俺が決める」


被せるように言う男。


——そして。


視線が、春日部に戻る。


舐めるように、ゆっくりと。


ふ、と笑う。


「……なるほどな」


一歩、距離を詰める。


「城を落とした妖術使い、って聞いたが」


肩をすくめる。


「随分と、小せぇ」


間。


わざとらしく首を傾げる。


「その細腕で——」


にやりと笑う。


「よくもまあ、あの荒れくれどもを御したもんだ」


「その者に何の用だ」


光秀が一歩前に出る。


男との間に入る。


視線がぶつかる。


空気が、一気に冷える。


「……お前」


光秀がわずかに目を細める。


「ただ者ではないな」


「そりゃどうも」


男は笑う。


その笑みは——どこか歪だ。


「じゃあ見せてくれよ」


一歩、前に出る。


「“未来”ってやつを」


春日部の心臓が跳ねる。


(来た)


試されてる。


完全に。


「……いいよ」


口が先に動いた。


怖い。


でも——


ここで逃げたら終わり。


ポケットに手を入れる。


スマホ。


(これ見せれば——)


取り出す。


画面をつける。


——暗い。


「……え?」


もう一度。


押す。


反応なし。


(は?)


嫌な予感。


何度も押す。


動かない。


(ちょ、待って)


頭が真っ白になる。


「どうした?」


男の声。


完全に見ている。


(やばい)


(やばいやばいやばい)


「……それが、“未来”か?」


笑っている。


試す目。


(電池……!?)


理解する。


遅すぎる理解。


「……っ」


言葉が出ない。


終わる。


そう思った、その時。


(……いや)


止まる。


(まだ)


ポケットの中。


指先に触れる。


小さな、別のもの。


(これ……!)


顔を上げる。


「——これでも、いい?」


男の眉が、わずかに動く。


春日部は取り出す。


小さな、金色のボタン。


制服の、ただの飾り。


「なんだ、それ」


「知らないの?」


春日部は、にやりと笑う。


さっきまでの焦りは、消えていた。


「じゃあ——見せてあげる」


一歩、踏み出す。


「未来の“別の使い方”」


沈黙。


風が吹く。


男は、目を細めた。


「……いいな」


口元が歪む。


「そういうのだ」


一歩、近づく。


「そういう“予想外”が、面白え」


間。


そして——


「名乗ってやるよ」


初めて。


男が、名を出す。


「前田慶次」


空気が変わる。


その名が持つ“何か”が、場を支配する。


春日部は小さく息を吐いた。


(来た)


ここが——分岐点。


「で?」


慶次が笑う。


「俺をどうする?」


試す目。


完全に。


春日部は、迷わなかった。


「仲間になってよ」


即答。


一瞬の沈黙。


そして——


「ははっ!」


慶次が大きく笑った。


「いいねえ!」


「その軽さ、嫌いじゃねえ!」


振り返る。


背を向ける。


「条件は一つだ」


止まる。


「退屈させるな」


それだけ言って、歩き出す。


止めない。


追わない。


ただ——


春日部は笑った。


(……乗った)


風が吹く。


戦は、次の段階へ進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ