表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
攻略済みの戦国世界に転移した私、無双して明智光秀を救ったのに歴史がズレ始めた  作者: 西住


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第六話「異様」

摂津の地に、その城はあった。


——池田城。


だが、それは“城”という言葉で片付けていいものではなかった。


「……あれを落とさなければ、勝ちはない」


明智光秀が低く呟く。


その視線の先。


山の稜線に張り付くように築かれたそれは、

明らかに異質だった。


高い。


ただ高いだけではない。


“過剰”だった。


石垣は不自然なほど積み上げられ、

城壁は外へ張り出し、

まるでこちらを押し潰すかのように迫ってくる。


「……でっか」


春日部が小さく呟く。


だがその声には、軽さがなかった。


(これ……普通じゃない)


言葉にできない違和感が、胸に引っかかる。


少し離れた場所で、丹羽長秀が腕を組んでいた。


何も言わない。


ただ、じっと城を見ている。


その視線は鋭いが——


(まだ、“測ってる”)


味方でも、敵でもない。


判断を保留している目だった。


さらに距離を詰める。


城の構造が、徐々に露わになる。


堀は広い。


深い。


水は満ちている。


だが——


「……妙だな」


光秀が呟いた。


「妙?」


春日部が振り返る。


「整いすぎている」


短い一言。


だがその意味は重い。


春日部はもう一度、城を見る。


整っている。


隙がない。


だが——


(違う)


「……これ、“守り”じゃない」


ぽつりと呟く。


光秀が視線を向ける。


「どういう意味だ」


少しだけ言葉を探す。


そして、出てきたのは直感だった。


「“見せるため”の城だよ」


風が吹く。


誰もすぐには否定しなかった。


城は、黙ってそこにある。


だがその存在そのものが、

言葉より雄弁だった。


——逆らうな。


そう言っているようだった。


(気持ち悪い……)


春日部は無意識に腕をさすった。


戦場の緊張とは違う。


もっと根本的な違和感。


その時だった。


足が止まる。


「……ここ」


視線の先は、水堀。


だが——


「……なんだ?」


光秀が覗き込む。


春日部は首を振った。


「いや……なんかおかしい」


しゃがみ込む。


水面を見つめる。


(……多い)


「水、多すぎる」


「堀としては、深いだけではないか?」


「違う」


即答だった。


「これ、“溜めてる”」


空気が変わる。


「自然じゃない」


「流れが死んでる」


「……せき止めてるんだよ、これ」


沈黙。


光秀が、ゆっくりと城を見る。


「……無理をしている、ということか」


「そう」


春日部は立ち上がる。


「この城、“完成してない”」


「無理やり成立させてる」


風が止む。


遠くの池田城は、

相変わらず圧倒的だった。


だが——


(中身、歪んでる)


その時。


「……仮に」


低い声が落ちた。


丹羽長秀。


「その水が崩れた場合、どうなる」


試すような問い。


まだ信用はしていない。


春日部は少しだけ笑った。


「内側に流れる」


即答。


「外に逃げない構造になってる」


「だから——」


一歩、踏み出す。


「自分で自分を壊す城になる」


沈黙。


長い沈黙。


やがて——


「……理屈としては通るな」


丹羽が呟いた。


だが。


それだけだった。


(まだ足りない)


春日部は歯を食いしばる。


「これ、“守りの城”じゃない」


もう一度言う。


今度は、はっきりと。


「“時間を稼ぐための城”だよ」


光秀の目が細くなる。


「……我らを止めるため、か」


「うん」


「戦って勝つ気じゃない」


「足止めして、その間に——」


言葉を切る。


「全部持っていく気だよ」


空気が凍る。


丹羽の目が、初めて鋭く光った。


「……秀吉か」


否定しない。


それが答えだった。


風が強く吹く。


遠くの城は、

依然として完璧に見える。


だが今は違う。


“異様”だった。


「……で?」


丹羽が口を開く。


「崩せるのか」


試す声。


春日部は首を振る。


「崩さない」


一瞬の沈黙。


「使う」


光秀が、わずかに笑った。


「……なるほどな」


丹羽は黙ったまま、城を見る。


そして——


「……やるなら、徹底的にやれ」


それは同意ではない。


だが。


“戦うことは認めた”言葉だった。


春日部は小さく息を吐いた。


(通った……)


完全な味方じゃない。


でも——


(もう、引き返せない)


視線を上げる。


池田城。


その歪んだ構造が、

今ははっきりと見えていた。


「攻略、見えた」


小さく呟く。


風が吹く。


戦は、次の段階へ進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ