第二十二話「断ち切る」
風は、静かだった。
だが——
最初から、違う。
「行くよ」
春日部が言う。
短い。
迷いはない。
「崩す」
それだけ。
もう、“戦う”ではない。
壊す対象は——繋がり。
「始める」
大谷が言う。
同時に。
前線が動く。
だが——
いつもと違う。
最初から、ズレている。
「……遅い?」
柴田の陣。
動きが、噛み合っていない。
「何をしている!」
怒号。
だが——
返ってこない。
「伝令が……!」
「来ていない!?」
混乱。
すでに——壊れている。
「今だ」
大谷。
即断。
「押す」
一点。
迷いなく。
慶次が笑う。
「最初から崩れてんじゃねえか」
突っ込む。
斬る。
止まらない。
壁が——最初から薄い。
「いける!」
春日部が叫ぶ。
押す。
深く。
速く。
前線が、割れる。
柴田が崩れる。
毛利が、動こうとする。
だが——
間に合わない。
繋がらない。
「……終わりだ」
慶次が踏み込む。
その時。
——視線が合った。
奥。
動かないはずの場所。
そこにいる男。
徳川家康。
静かに、こちらを見ている。
春日部の足が、止まる。
一瞬だけ。
「……見たか」
家康が言う。
戦場の中で。
静かに。
春日部は、息を吐いた。
「そっちもね」
短く返す。
音は、戦の中に消える。
だが——
確かに、届いている。
「人を見ておらぬな」
家康。
変わらない声。
春日部は、首をかしげる。
「そっちでしょ」
一拍。
「繋いでるだけじゃん」
風が吹く。
家康の目が、わずかに細くなる。
「それが戦だ」
否定はしない。
ただ、言い切る。
春日部は、小さく笑った。
「じゃあ——壊すよ」
それだけ。
再び、動く。
戦線が、一気に崩れる。
完全に。
もう、繋がらない。
誰も、補えない。
形が——崩壊する。
沈黙。
その中で。
家康が、立つ。
ゆっくりと。
「……よい」
小さく、呟く。
一拍。
「ここまでだ」
その一言。
全体が、止まる。
そして——
「引け」
短い命令。
だが。
全軍が、従う。
迷いなく。
乱れずに。
退いていく。
崩壊したはずの戦場が——
静かに、終わる。
誰も、追えない。
追わせない。
距離が、開く。
風だけが残る。
沈黙。
春日部は、前を見ていた。
(勝った)
確かに。
崩した。
だが——
「……終わってない」
小さく、呟く。
その時。
後ろで、光秀が口を開く。
「追わぬ」
はっきりと。
誰も、異論は出さない。
「ここで討てば——」
一拍。
「終わらぬ」
静かな声。
だが、その意味は重い。
「力で押し切れば」
「また、別の形で争いが起きる」
風が吹く。
春日部は、振り返る。
光秀を見た。
(……そうか)
理解する。
「だから」
光秀が続ける。
「終わらせる」
「戦ではなく」
「形で」
沈黙。
その意味が、全員に伝わる。
春日部は、ゆっくりと頷いた。
(これが——)
(ゴールか)
風が吹く。
戦は、終わった。
「この決断が——」
「戦国の流れを変えることになる」




