第二十一話「ほころび」
風は、変わらない。
だが——
空気は、違っていた。
「行くよ」
春日部が言う。
短く。
それだけ。
誰も、問い返さない。
もう、分かっている。
戦い方は、決まっている。
正面からは——いかない。
「始める」
大谷が言う。
それが、合図だった。
動く。
慶次が前に出る。
いつも通りに。
いや——
いつも以上に、派手に。
「おらァ!」
突っ込む。
斬る。
暴れる。
「来いよ!」
声を張る。
目立つ。
わざと。
敵の視線が、集まる。
「前だ!」
「押さえろ!」
反応する。
柴田の陣。
そして——
奥。
別の軍も、動く。
連携。
いつも通り。
崩れない。
「……まだだ」
大谷が、呟く。
視線は、全体。
流れを見る。
春日部は、動かない。
見る。
待つ。
(どこだ)
(どこを繋いでる)
音。
動き。
視線。
すべてを、追う。
その裏で——
「……入った」
誰にも聞こえない声。
影が、動く。
気配はない。
石川五右衛門。
すでに、内側にいる。
兵の間。
荷の影。
通路。
誰も見ていない場所を、通る。
(ここか)
止まる。
目の前。
伝令。
走る。
前へ。
後ろへ。
繋いでいる。
「……なるほどな」
小さく呟く。
手が、動く。
——一瞬。
音もなく。
影が消える。
そして。
「……一つ」
別の場所。
また一つ。
繋がりが、消えていく。
だが——
表には、出ない。
まだ。
戦は続いている。
「……来るぞ!」
前線。
柴田軍が動く。
毛利も、合わせる。
挟む形。
いつも通り。
——のはずだった。
「……遅い?」
誰かが、呟く。
わずかに。
ほんの、わずかに。
「補充が……」
間に合っていない。
「何をしている!」
怒号。
だが。
繋がらない。
「……来ない?」
別の声。
流れが、ずれる。
ほんの少し。
だが——
それで、十分だった。
「今だ」
大谷が言う。
即座。
「押す」
短い指示。
動く。
一点。
再び、柴田へ。
慶次が、笑う。
「おせえぞ」
斬る。
今度は——
止まらない。
壁が、崩れる。
明確に。
「崩れてる……!」
長重が言う。
前回とは、違う。
埋まらない。
繋がらない。
「……見えた」
春日部が、呟く。
確信。
(ここだ)
(ここを切れば——)
さらに押す。
深く。
速く。
敵が、揺れる。
全体が、歪む。
だが——
「……引くぞ」
光秀が言う。
誰も、驚かない。
理解している。
これは——
確認だ。
勝ちではない。
だが。
十分だった。
引く。
整ったまま。
崩さずに。
距離を取る。
戦線が離れる。
風が、抜ける。
沈黙。
春日部は、空を見上げた。
息を吐く。
そして——
「……見えた」
一拍。
視線を戻す。
「これで、崩せる」




