第二十話「繋がり」
風が、抜けていく。
戦のあと。
誰も、すぐには動かなかった。
静かだ。
だが——
重い。
「……惜しかったな」
長重が、呟く。
小さく。
それでも、はっきりと。
誰も否定しない。
実際——
あと一歩だった。
「惜しい、で済む話か?」
慶次が言う。
軽く笑っている。
だが、目は笑っていない。
「勝てたろ、今のは」
空気が、わずかに揺れる。
春日部は、答えなかった。
答えられなかった。
(勝てた)
そう思っていた。
確かに。
崩していた。
あと一歩で——
(なのに)
顔を上げる。
何が違ったのか。
考える。
「……崩した」
大谷が言う。
「確かに」
短い。
「だが——」
一拍。
「崩れなかった」
矛盾。
だが。
事実だった。
沈黙。
風が、揺れる。
「補充が来たからだろ」
長重が言う。
「後ろから」
否定はない。
だが。
「それだけか?」
大谷が問う。
長重が、言葉を止める。
「……違う、か」
「数の問題ではない」
大谷は続ける。
「タイミングだ」
一拍。
「崩れた瞬間に、埋まった」
春日部の指先が、わずかに動く。
(……そうだ)
遅れていない。
ぴったりだった。
「偶然じゃない」
大谷が言う。
「合わせている」
沈黙。
その言葉が、残る。
「……誰が?」
春日部が、呟く。
一拍。
「家康?」
だが。
大谷は、首を振った。
「違う」
短く。
「指示ではない」
「じゃあ——」
言葉が、止まる。
(……違う)
春日部の中で、何かが引っかかる。
(指示じゃない?)
じゃあ、何だ。
考える。
柴田。
毛利。
別の軍。
(なのに)
(繋がってる)
一拍。
「……ねえ」
声が、出る。
誰に向けたでもなく。
「これさ」
息を吸う。
「誰と戦ってるの?」
沈黙。
風が、止まる。
誰も、すぐには答えない。
だが——
「個ではない」
光秀が言う。
静かに。
「全体だ」
その一言。
すべてが、繋がる。
春日部の中で。
(ああ)
理解する。
(そういうことか)
「……人じゃない」
小さく、呟く。
「形、だ」
大谷が、わずかに目を細める。
否定しない。
それで十分だった。
(だから崩れない)
(誰かを倒しても)
(別が埋める)
(最初から、そうなるように出来てる)
息を吐く。
重い。
だが。
見えた。
「……じゃあ」
顔を上げる。
迷いはない。
「壊すしかない」
一拍。
「全部じゃなくていい」
視線は、前。
「繋がりを」
風が吹く。
誰も、否定しなかった。
戦いは——
まだ、終わっていない。




