第十九話「届く刃」
前。
柴田の陣。
厚い。
重い。
だが——
「行くよ」
春日部が言う。
迷いはない。
「一点」
短く。
それだけ。
「おう」
慶次が、笑う。
「派手にやるぞ」
「速さで崩す」
一拍。
「任せろ」
風が止まる。
「行け」
光秀の声。
次の瞬間——
慶次が、消えた。
突っ込む。
速い。
視界から、消えるほどに。
「——来るぞ!」
柴田軍が叫ぶ。
遅い。
もう、内側だ。
「遅えよ」
笑う。
斬る。
一人。
また一人。
流れる。
止まらない。
「いいねえ!」
血が、舞う。
「これだ!」
突破。
正面が、割れる。
「押す」
大谷の声。
部隊が動く。
一点へ。
集中。
「……崩れてる!」
春日部が叫ぶ。
見える。
明確に。
壁が、歪んでいる。
「いける!」
さらに押す。
深く。
速く。
「止めろ!」
柴田軍の声。
だが——
止まらない。
「崩れるぞ!」
叫びが、広がる。
慶次が、さらに踏み込む。
「終わりだな」
笑う。
刀が、振り下ろされる。
——その時。
「……っ?」
春日部の足が、止まる。
何か。
違う。
「……音?」
一拍。
後ろ。
ざわめき。
「なに……?」
振り向く。
旗。
見たことのない紋。
「……は?」
増えている。
後ろから。
「挟まれてる……?」
誰かが呟く。
その瞬間。
空気が変わる。
「下がれ!」
大谷の声。
即座。
「後ろだ!」
叫びが飛ぶ。
前だけじゃない。
後ろからも、来る。
押される。
さっきまでの勢いが——
止まる。
「ちっ……!」
慶次が舌打ちする。
「増えやがったか」
前を斬る。
だが。
進めない。
後ろが詰まる。
「戻す!」
大谷が言う。
「これ以上は挟まれる!」
「撤退!」
光秀の声。
全体が動く。
速い。
乱れない。
だが——
押されている。
さっきまでとは、逆に。
「くそっ……!」
春日部が歯を食いしばる。
目の前。
崩れていたはずの柴田の陣。
立て直している。
その奥。
新しく来た軍。
静かに、並ぶ。
繋がっている。
完全に。
距離を取る。
戦線が、離れる。
風が抜ける。
沈黙。
「……届いた」
春日部が、呟く。
確かに。
崩した。
あと一歩だった。
だが——
視線の先。
まだ、いる。
まだ、繋がっている。
一拍。
「……足りない」
息を吐く。
一瞬だけ、目を閉じる。
そして——
「もう一手、必要だ」




