第十八話「一点」
空は、変わらない。
晴れている。
なのに——
軽くはない。
沈黙が、続いていた。
誰も、すぐには口を開かない。
見えたからだ。
敵の形が。
「……どうする」
光秀が言う。
短い。
それだけ。
答えを求めている。
だが。
誰も、すぐには答えない。
「正面は無理だな」
大谷が言う。
「数も、連携も、上だ」
否定はない。
事実だからだ。
「いいじゃねえか」
慶次が笑う。
「全部まとめて来いって話だろ?」
軽い。
だが。
誰も乗らない。
それでは——勝てない。
沈黙。
春日部は、俯いていた。
(無理)
頭の中で、何度も繰り返す。
(全部は、無理)
連携。
物量。
時間。
どれも、上。
(じゃあ——)
止まる。
(どうする?)
考える。
だが。
答えは出ない。
(……違う)
ふと、思う。
(これ、考え方が違う)
顔を上げる。
敵を見る。
広がっている。
繋がっている。
(だから、強い)
一拍。
(じゃあ)
(繋がってなかったら?)
思考が、止まる。
そして——
動く。
(……違う)
(全部、いらない)
小さく、息を吐く。
(全部、相手にする必要ない)
「……一つでいい」
声が、漏れる。
「ん?」
慶次が反応する。
春日部は、顔を上げた。
「全部は無理」
はっきりと言う。
「でも——」
一拍。
「一つなら、崩せる」
沈黙。
視線が集まる。
「どこだ」
光秀が問う。
迷いはなかった。
「柴田」
空気が、わずかに動く。
「理由は」
大谷が聞く。
春日部は、一瞬だけ目を伏せた。
(……違う)
(もう、あの通りじゃない)
頭の中にあるもの。
過去の知識。
もう、そのままでは使えない。
(でも)
一拍。
(全部が嘘ってわけじゃない)
顔を上げる。
「柴田は——」
言葉を選ぶ。
「前に出る人」
短く。
「支える側じゃない」
間。
「だから」
息を吸う。
「繋がりから、外れる」
沈黙。
「……孤立する、か」
大谷が言う。
「確証はない」
春日部は即答する。
一拍。
「でも——」
視線は、逸らさない。
「他に、ない」
静かな言葉。
だが。
覚悟は、乗っていた。
風が吹く。
「いいねえ」
慶次が笑う。
「そういうの、嫌いじゃねえ」
「どうやる」
光秀が聞く。
春日部は、すぐに答えた。
「一点突破」
「全軍じゃない」
「少数でいい」
間。
「速さで、崩す」
「ほう」
大谷が目を細める。
「その間、他は?」
「止める」
短く。
「繋がせない」
視線が、走る。
全員に。
「慶次」
「おう」
「突っ込んで」
「任せろ」
笑う。
「大谷」
「見る」
短い返事。
「五右衛門」
姿はない。
だが——
「連絡、潰して」
沈黙。
そして。
「……やっとく」
どこからともなく、声。
「長重」
「は」
「支えて」
「承知」
配置が、決まる。
流れが、できる。
春日部は、最後に言った。
「これでダメなら——」
一拍。
「終わり」
誰も、否定しない。
それが、現実だった。
風が吹く。
空は、変わらない。
だが——
戦い方は、変わる。
「行こう」
一拍。
「一点でいい」
「そこから、全部崩す」




