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攻略済みの戦国世界に転移した私、無双して明智光秀を救ったのに歴史がズレ始めた  作者: 西住


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第二話 疑念と賭け

 ざわめきは、すぐには収まらなかった。


「何者だ、あの娘は……」

「先ほどの音……敵襲ではないのか?」


 男たちが周囲を警戒する。刀は下ろされたが、空気は張り詰めたままだ。


 あーしは、ようやく息を吐いた。


(……やばい、足ガクガクなんだけど)


 怖い。めちゃくちゃ怖い。


 さっきまで普通に部屋にいたのに、今は武士に囲まれてるとか意味わかんない。


 でも。


(ここで引いたら、終わりでしょ)


 目の前の人を見る。


 血に濡れた男——明智光秀。


 やっぱり、間違いない。


 あの目。あの声。


 何度も見た。何度も考えた。


 どうすれば、この人は死なずに済んだのかって。


「……娘」


 低い声が、空気を震わせる。


「もう一度聞こう。何者だ」


 視線が刺さる。


 周囲の男たちも、明らかに警戒している。


 そりゃそうだ。


 いきなり現れて、訳の分からないこと言って、処刑止めたんだから。


「……春日部です」


 とりあえずもう一回名乗る。


「ただの、中学生」


「ちゅう……?」


 何人かが首を傾げた。


 あ、通じないか。


「えっと……子供、です」


 言い直すと、微妙な空気が流れた。


「子供が、ここに一人で現れたと?」

「しかも戦の最中にか?」


 疑いの視線が強まる。


 うん、まあそうなるよね。


(どうする……)


 適当な嘘は、たぶんすぐバレる。


 だったら——


「……未来、知ってます」


 空気が、一瞬で凍る。


「……何だと?」


 誰かが低く呟いた。


 やばい、言っちゃった。


 でももう引けない。


「ここから先、どうなるか……知ってます」


 喉が乾く。


 それでも、続ける。


「明智家は、このあと——」


 一瞬、言葉が詰まる。


 目の前の本人を見てしまったから。


 それでも、言う。


「山崎で、羽柴秀吉に負けて……逃げて……そして滅ぶ」


 沈黙。


 風の音だけが聞こえる。


「——戯言を」


 一人が吐き捨てるように言った。


「そのような話、信じられるか」


 当然だ。


 あーしだって、逆の立場なら信じない。


 でも——


「……じゃあ」


 あーしは、視線を巡らせた。


 森の奥。斜面の影。


(……来る)


 ぞくりと背筋が冷える。


「あと少しで、来ます」


「何がだ」


「追手」


 場の空気が変わる。


「このままここにいたら——囲まれます」


「何を——」


 言い終わる前だった。


 ガサッ、と。


 木々の奥で音がした。


「——誰かいる!」


 兵の一人が叫ぶ。


 次の瞬間。


「いたぞ!明智がいるぞ!」


 怒号が、山に響いた。


「ちっ……!」


 周囲が一斉に構える。


「本当に来た……!?」

「馬鹿な、何故この位置が——」


 あーしは歯を食いしばる。


(当たった……!)


 でも喜ぶ余裕なんてない。


「時間ないです!」


「下に降りたら挟まれる、こっちです!」


 反射的に叫ぶ。


 自分でも分からない。


 でも——


(たぶん、こっち……!)


 何度も見た流れ。


 逃げるなら、この方向。


 そう信じて、指をさす。


「……ついて来い!」


 光秀が即断した。


 数人が支え、森の奥へと駆ける。


 枝をかき分け、斜面を下りる。


 背後から怒号が追ってくるが——


 やがて、それも遠のいた。


 静寂が戻る。


 荒い息だけが、場に残った。


「……なるほどな」


 光秀が、静かに言う。


「未来を知る、か」


 その目は、さっきとは違っていた。


 明確に——見定めている。


「では問おう、春日部」


 名を呼ばれる。


 心臓が跳ねた。


「我が生き延びる道、本当にあるのだな?」


 試されている。


 ここで揺れたら終わり。


 あーしは、強く頷いた。


「あります」


 即答だった。


 根拠なんて、ない。


 動画で考察しただけ。


 それでも——


「あーしが、やります」


 言い切る。


 怖いけど。


 それでも。


「間違ってても、やる」


 一歩、踏み出す。


「絶対、死なせない」


 風が吹く。


 長い沈黙。


 やがて。


「……よかろう」


 光秀が、静かに言った。


「ならば、その未来とやら」


 一歩、こちらに近づく。


「この明智光秀が、賭けてやろう」


 空気が、変わる。


 周囲がざわめく。


「殿!正気ですか!」

「得体の知れぬ娘の言葉など——」


「だからこそだ」


 光秀は言い切った。


「常ならぬ時には、常ならぬ手を取る」


 その視線が、あーしに向く。


「春日部」


「は、はい」


「まず何をすべきだ」


(え、ちょっと待って——)


 頭の中で、何度も見た流れを引っ張り出す。


 秀吉の動き。時間。兵力差。


(確か……まずは——)


 あーしは、息を吸った。


「——撤退、です」


 言った瞬間。


 場の空気が、再び凍りついた。


 それでも、続ける。


「ただし、それだけじゃ勝てないです」


「……ほう」


「このままだと、兵も、情報も、全部足りない」


 一歩踏み出す。


「だから——集めます」


「何をだ」


「使える人材」


 はっきりと言う。


「この戦、ひっくり返せるやつ」


 沈黙。


 そして——


「……面白い」


 光秀が笑った。


「ならば、その“人材”とやら」


「見せてもらおうか」


 ——それが、この戦いの。


 最初の一手だった。

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