第十六話「噛み合わない」
森は、静かだった。
音がない。
風も、ない。
「……来るぞ」
大谷が言う。
慶次は笑った。
「来てから言えよ」
その直後。
矢が飛ぶ。
乾いた音。
「ほらな」
慶次が前に出る。
受ける。
弾く。
斬る。
軽い。
「いいねえ」
踏み込む。
「数も、間も——ちょうどいい」
対して。
大谷は動かない。
ただ見る。
距離。
数。
間合い。
「……二手」
呟く。
次の瞬間。
横から来る。
慶次が笑う。
「おせえ」
迎え撃つ。
だが。
止まらない。
さらに来る。
「……途切れないな」
大谷が言う。
「そりゃあな」
慶次は楽しそうだ。
「終わらせる気がねえ」
その通りだった。
敵は詰めてこない。
だが。
引かない。
距離を保ち続ける。
「……妙だな」
大谷が言う。
「普通は、どこかで決める」
「決めねえんだろ」
慶次は笑う。
「こういうのも、嫌いじゃねえ」
時間だけが、過ぎる。
削り合い。
だが。
終わらない。
「……退くぞ」
大谷が言う。
「役目は果たした」
慶次は肩をすくめる。
「まあ、いいか」
二人は下がる。
敵は追ってこない。
だが。
距離は、崩れない。
その頃。
「……やっぱりな」
石川五右衛門は、焼け跡を見ていた。
補給路は潰した。
だが。
「軽すぎる」
足りない。
「こんなもんで回るかよ」
周囲を見る。
別の道。
別の痕跡。
「……あるな」
しゃがむ。
土を触る。
「新しい」
顔を上げる。
「……誰だ」
一拍。
「——柴田か」
確信はない。
だが。
勘が告げている。
「それだけじゃねえな」
まだ、ある。
見えていない何かが。
「……気持ち悪ぃ」
立ち上がる。
風が吹く。
五右衛門は、その場を離れた。
安土。
「報告です」
長重が言う。
「殿は無事帰還」
「被害、軽微」
春日部は頷く。
「……よかった」
だが。
続きがあった。
「五右衛門より」
一拍。
「補給路を破壊」
「だが——」
止まる。
「別口がある、とのこと」
沈黙。
「……別口?」
春日部が顔を上げる。
「はい」
「さらに」
一拍。
「“柴田の可能性あり”と」
空気が、変わる。
「……は?」
思考が止まる。
「柴田って——」
言いかけて、止まる。
(いや、待って)
頭の中で繋がる。
補給がある。
戦が続く。
消耗しない。
(それって——)
「……複数、いる?」
誰も答えない。
答えはない。
だが。
一つだけ、確かなことがある。
(増えてる)
敵が。
見えないところで。
増えている。
風が吹く。
(これ——)
一拍。
(どこまで繋がってるの?)
不安だけが、残った




