無人島生活55話 攻めてばかりじゃ勝てない、護ってばかりでも勝てない
龍之介とモーリアンの壮絶な対局が終わった。
おまえはもう死んでいる、された龍之介は洞窟の端でもだえ苦しんでいた。
続いては紅の番だが、対戦相手がいないことでシードになっていた。
なので紅を飛ばし、ゴリッチとエリーの対局がはじまる。
対局にも慣れてきたエリーはエア駒の動きに迷いはなかった。
まずは大将の防御を固めて、攻撃も仕掛けて行く。
左翼の騎馬が通れる道を開けて、準備は整った。
ゴリッチは一足先に準備を終えており、攻撃を仕掛けに入っていた。
荒くれ者をぴょんぴょん跳ねさせて、エリーの陣地を襲いにかかる鬼殺し。
なに……荒くれ者単体で攻めてくるだと……正気の沙汰ではない!
返り討ちにしてくれる。
エリーは隙だらけの荒くれ者を討ち取るべく、右翼の騎馬を動かした。
「エリーちゃん。きみはどうやらエア将棋の盤上をよくイメージできていなかったようだね」
「なにっ!」
エリーは少し離れたところに描かれた棋譜を見た。
右翼の騎馬を動かすことで、1一に隙ができていた。
目先の利益に気を取られる余り、こんな簡単なミスを犯してしまったのだ……。
「僕は左翼の騎馬を1一クラスチェンジ、天馬」
フィールド内に、圧倒的オーラを放つペガサスが降臨した。
ペガサスのプレッシャーで、周辺の兵たちが怖気づいてしまった。
失敗を引きずっていてもしょうがない、エリーは足軽を突っ込ませた。
足軽と騎士を連帯行動させて、確実に隙を作っていく作戦だった。
だが、捨て駒にするつもりなのか、ゴリッチは防ぎに来なかった。
エリー側の陣営に入っているペガサスで、となりの駒たちを駆逐しはじめた。
駄目だッ。
このままでは荒らされる。エリーは守りに転じた。
すぐさまペガサスの通り道を塞ぎ、動きを封じた。
これで大丈夫、と一安心かと思いきやゴリッチは攻撃の手を緩めなかった。
次は右翼の騎馬を動かして牽制する。
エリーは大将の護りをさらに固めた。
「エリーちゃん。護ってばかりじゃ勝てないよ」
くっ……。
ゴリッチはほぼ穴熊状態の陣地を外から崩していった。
駄目だ……このままでは討ち取られる……。
護ってばかりでは駄目だ。
ゴリッチの言葉が頭の中でリフレインした。
そうだ、護っているから敵も攻めてくるのだ。
敵が攻められないくらいこちらも攻めればいい。
エリーは防御を辞めて、右翼の騎馬で攻撃を仕掛けた。
護らなければ、ゴリッチの大将は討ち取られる。
王手だ。
ゴリッチは必然的に攻撃の手を辞めるしかなかった。
大将を護るために、騎士を移動させる。
攻撃の手を緩めては駄目だ。
緩めればまた攻撃される。
今まで硬い護り戦術に徹してたエリーは、防御などくそくらえで攻撃を続けた。
左翼の騎馬でゴリッチの足軽を討ち取りクラスチェンジ、「一角獣っ!」フィールドの左翼の騎馬がユニコーンへと姿を変えた。
ユニコーンが現れたことで、ガードは難しくなる。
ユニコーンのスキル貫通は、背後の駒にも貫通ダメージを与えることができる。
「そうだよ。そうじゃないと面白くない! ノーガード戦法こそが真の戦い!」
ゴリッチは嬉々として言った。
一手の悪手が勝負を決す状況でも、ゴリッチは引くことはなかった。
ゴリッチもエリーの陣地を崩してゆく。
もう引くことは許されない。
チキンレースそのもの。
先に怖気づいた方が負ける!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラぁぁぁぁぁぁ!
エリーは呪い師の英霊召喚を使い持ち駒の、特攻隊長を敵大将の前に置く。
ゴリッチは右翼の騎馬をエリーの陣地に突撃させて、クラスチェンジ龍騎士。
あと数手でどちらかが詰む。
エリーは特攻隊長を特攻させて、クラスチェンジ戦車。
ゴリッチは龍騎士でエリーは足軽を討ち取った。
「ゴリッチ、あなたの負けよ」
ゴリッチはまだわかっていたようだった。
エリーに言われ、改めてイメージ上の盤上を見下ろした。
そして納得した。
「ああ、僕の負けだ」
観客はどういうことだとザワザワしていた。
「あなたは攻撃に徹するあまり、防御をおろそかにしていた。それがあなたの敗因。あたしは防御を固めてから、攻撃に移ったけど、あなたは防御を固めていなかった」
エリーが一手攻撃に移るのが遅ければ、負けていた。
紙一重の判断が明暗を分けた。
「ごめんねゴリッチ。あなたに恨みはないのに」
「ああ、楽しかったよ。我が生涯に一片の悔い無し!」
ゴリッチは右腕を天に突き出した。
戦車がゴリッチに的を絞り、火を噴いた。
「すべてを破壊する山の怒り!」
戦車という火山から放たれた火の玉が、ゴリッチの腹を打ち抜いた。
「ゴリッチ……立ったまま死んどるで……」
「本当……最期まで……」
ゴリッチは右腕を天に突き上げたまま、動かなくなった(死んでません。死の苦しみを味わうけど)。
「いい試合見せてもろうたで。これが真の将棋なんやな」
「将棋じゃないけどね」
「次は紅っちとうちやな。まさか初心者のエリーっちが、ゴリッチを倒して、勝ち残れるとは予想外やったで。このまま続ければ、将棋の三大タイトル、『竜騎士王』『覇道王』『将棋神』獲得も夢ちゃうで!」
なんちゅうタイトルがあるねん、と思ったエリー。
「まあ、まっとり。すぐに紅っちを片付けて、決勝を闘ったるさけ」
誰もが経験者であるモーリアンの勝利で終わると思っていた。
このような圧倒的対局を誰が予想できただろう。
紅は対局開始十分で、完膚なきまでにモーリアンを打ち負かしたのだった。
「エリーっち……」
死の瀬戸際、モーリアンは最期の力を振り絞って、エリーに手を差し出した。
エリーは手をとって、モーリアンの口元に耳を近づけた。
「エリーッち……。紅っち……は……化け物……や……。あの圧倒的……強さ……。間違い……あらへん……。史上最年少で……将棋の三大……タイトル……竜騎士王、覇道王、将棋神を獲得した……伝説の女流棋士。紅の腹黒い悪魔……や……」
エリーのにぎっていたモーリアンの手から力が抜けた。
「ボケぇえええええええ――――――――っ! 伝説の女流棋士ってなんやねぇええええぇえええんッ!」
次回に続く!




