無人島生活52話 エア将棋大会★
この島に来て四か月が過ぎようとしていた。
雪は降らなかった。
それだけは幸いだ。
一番寒い日は過ぎて、あとひと月ほどで温かい日常が戻ってくるだろう。
冬の間に訪れた食料危機も昆虫食という打開策を見つけて、ひもじいのは変わらないが何とかなった。
沢山いる鶏やうさぎなどを潰せば、もっと栄養価の高い物が食べられるが、餓死するほどは追い詰められていないから最後の手段に取っておく。
スーパーに売っている肉はためらいなく食べられるのに、自分で手を汚すことすらできない。
なんと卑怯な人間か、とエリーは自分を自傷する。
きっとこの生活から抜け出して、現実世界に戻ったらた真っ先に、ためらいなく焼き肉に行くと思う。
冬ごもりの間はこれといってすることなく暇だった。
だから色々な遊びが考えられた。
あまりに暇だったから、エア将棋大会なるゲームを行うことにした。
みんな憶えているだろうか。
そうあのエア将棋のことだ。
「ルールは簡単。相手の大将の首を先に討ち取った方が勝ちや」
以前簡単なルール説明を受けたが、まったくわかっていない。
やりながら覚えられるだろうか?
盤がないから、すべて頭の中で駒を把握しなければならないから、かなり難易度が高い。
適当な石に駒の役を刻んで使えなくもないがな。
ここでエア将棋のルールを簡単に説明しよう。
将棋とモーリアンやゴリッチは言っているが、おわかりの通り、これは将棋ではない。
将棋の名を語る 別のゲームだ。
まず駒の能力を説明しよう。
並びは将棋の並びと同じ、王将、金、銀、桂馬、香車、歩兵、角行、飛車だ。
王将・玉将=大将 攻撃力1 体力2
『大将は全方向好きなマスに一動ける。一マス周辺にいる味方の士気を高め、攻撃力と移動範囲を一アップさせる。大将が討ち取られれば負け』
金=騎士 攻撃力2 体力2(聖騎士)
『大将の護衛。後ろ斜め二マス以外なら好きな方向に一動ける。敵陣営に入ると、クラスアップでき聖騎士になれる。移動できるマスが一アップしプレッシャーを備える。プレッシャー、二マス周辺の相手駒の攻撃力を1下げる』
銀=呪い師 攻撃力1 体力3(魔法使い)
『右左と真下マス以外に一マス動ける。二マス先の敵駒の体力を1下げる。英霊召喚、討ち取った相手の駒を好きなマスに召喚できる。敵陣営に入りクラスアップすると魔法使い。魔法使いになると駒をランクアップさせた状態で召喚できる』
桂馬=荒くれ者 攻撃力2 体力1(殺し屋)
『斜め二マス先に動ける。荒くれ者は予測困難。敵陣営に入りクラスアップすることで殺し屋。気配を消すことでフィールドから除外でき、好きなマスに召喚できる』
香車=特攻隊長 攻撃力3 体力1(戦車)
『前方すべてのマスに移動できる。敵陣営に入りクラスアップすると、戦車になり、攻撃力を二アップさせる。行き止まりになると、斜めに直進できる』
歩兵=足軽 攻撃力1 体力1 (弓兵)(隠者)
『前に一マス動ける。敵陣営に入りクラスアップすると弓兵か隠者好きな方を選べる。弓兵は二マス前方にいる敵駒を攻撃できる。弓兵が二駒討ち取ると、弓から銃に進化して、前方全マス攻撃できる。隠者。隠者は戦いに疲れ戦から身を引いた駒。戦いの愚かしさを敵兵に問う。敵駒はこの駒を攻撃できない』
角行=左翼の騎馬 攻撃力2 体力3(天馬)一角獣
『クロスに全マス移動可能。クラスアップでペガサスになる。ペガサスの上には騎士が乗っている。プレッシャー追加。周辺に一マス移動追加。移動方向に立ちふさがる敵の頭上を通ることができる。ユニコーン。討ち取った敵駒の一マス後ろにいる駒に貫通攻撃できる』
飛車=右翼の騎馬 攻撃力3 体力2 (竜騎士)(龍騎士)
『十字に全マス移動可能。クラスアップで竜騎士。竜(西洋のドラゴン)の上に騎士が乗っている姿。プレッシャー追加。周辺に一マス移動追加。攻撃力に関係なく一撃必殺。龍騎士(東洋の蛇状の龍)ジグザグに移動可能』
とまあ、駒はこんな感じだ。
攻撃力という単語が出てきたが、このゲームは敵駒のライフを0にすると討ち取れるというシステムになっている。
攻撃力1で敵ライフを一減らせる。
簡単だろう?
簡単なルール紹介はこれまでにして、エリーたちはゲームをはじめていた。
トーナメント戦で対戦順は、潤弥VSゴリッチ、隊長VSエリー、モーリアンVS龍之介、シードに紅。
ジャンケンで決まった。
第一回戦は潤弥とゴリッチだった。
潤弥が先行(すべてエアなので、かなりの難易度が高い)。
まず、潤弥は左翼の騎馬の道を開けるため、7六足軽。
ゴリッチは3四足軽。
序盤はまだ頭の中で駒の動きが見えていたが、十手くらい進みはじめるともうダメだった。
ハンデとして、地面に盤を描いて、適当な石に駒の名前を刻み並べた。
だったらその盤と駒を使ってやれよって話だが、エア将棋じゃなきゃやだ、とみんな譲らないのだ。
なんして?
だからプロ棋士の対局を解説する司会者のように、地面に棋譜を描いて把握している。
ゴリッチと潤弥の闘いは赤子の手を捻るよりも明白に、力量の差が垣間見えた。
勝者は奨励会もどきで将棋を習ったというゴリッチだった。
あっという間の決着だった。
まず左翼の騎馬が敵陣営を突破し、天馬になる。
天馬の効果は移動方向に敵が立ちふさがっていても、飛び越えることができる。
つまりどれだけ周りを固める穴熊戦法でも一駒なら飛び越えられる。
将棋でいう桂馬と同じ力を持つ。
「これで終わりだ。ペガサス! 流星突きッ!」
そう言うとみなのイメージがリンクして、見えないはずの場面に超リアルな映像が浮かび上がった(てか本物じゃね?)。
ペガサスに乗っていた騎士が、武器に使っているランスを目にもとまらぬ速さで繰り出し突きを放った。
潤弥の顔に見える大将の体に、風穴があいた。
「ぎゃああああああああああああぁあああああァ……」
まるで本当に痛みを感じているみたいに、潤弥はもだえ苦しんでいる。
どういうこと……?
「胸がぁあああああぁあ、胸がぁああああああッ!」
ランスに貫かれた胸を押さえ、顔に深い皺を刻んで暴れる潤弥を見て、これはただのゲームではないことにようやく気が付いた……。
「ねえ、本当に苦しんでない……」
ぽか~んとエリーが誰にともなく訊くと、薄っすら予期していた答えが返ってきた。
「そうやで、これは闇のゲームなんや!」




