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無人島生活50話 豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏、宝の持ち腐れ★

 開かれた棺のすき間からあふれ出た光が、殺風景な森の中をギンギラギンにさりげなく照らした。


 例えるならファラオの棺の中を彷彿とさせる、ギンギラギンにさりげない眩しさ(ファラオの棺の中なんて知らないけど)。


「これあれやろ……」


「冗談でしょ……」


「いででで……夢じゃねえよ……」


 モーリアンは潤弥のほっぺたを引っ張っていた。


「間違いない、これは」


 息を合わせたみたいに五人同時に、打ち合わせもなく同じ考えに至った。


「「「「「海賊がこの島のどこかに隠したっていう……宝!」」」」」


 答えがその解に至るのは必然だった。

 五人は息を合わせて、とんでもなく重たい岩蓋をとなりに叩きつけるように置いた。


 棺の中いっぱいに……金銀財宝が詰め込まれていた。

 何百年経とうと金銀の輝きは色あせていない。


 金貨や銀貨は当然ながら、ギンギラギンにさりげなくない輝きを放つ、剣、指輪、装飾品から、宝石類。


 これだけあれば末代まで遊んで暮らせるだけの額はあると思う。

 みなの頭は情報量の膨大さにオーバーヒート寸前だった。


「どどどどどどどどどど、どないしよう! うううううううううちら大金持ちやで!」


「おおおおおお、ちちちちちち、つきなさい!」


 グラスを音波だけで割ってしまいそうなほど、半端なく上ずった声を上げたエリー。


「エリーっちが落ち着きいな!」


「とととととととととと、とりあえずよ……。ここここここここここの財宝をどこかに隠そう……」


 潤弥は金銀財宝を両手でかき集めるようにして、よれた服の腹に包み込んだ。


 潤弥はめちゃくちゃてんぱり、モーリアンは目を『¥』のマークにして、ついでによだれもたらし、エリーは恐怖で顔を真っ青にしていた。

 カオス!


「貴様ら。落ち着け」


 龍之介と隊長は冷静だった。

 精神力ぱねーな。


「おおおおおおおお落ち着いてるって!」


 服の生地が悲鳴を上げるほどに金貨を詰め込んだ潤弥は、説得力のない声で答えた。


「うううううううううううちかて! おおおおおお落ち着ついとるがな!」


「どこがだ。とりあえず、その詰め放題の野菜のように服につめた金貨を戻せ」


 悪さをした犬を諭すみたいに言う龍之介。


「誰かに取られたらどうするんだよ!」


 心の底から呆れたという顔で「誰が取ると言う? この島には我々しかいないというに」その言葉にてんぱっていたズッコケ三人組は「ああ、たしかに」と肩をなで下した。


「しかし、本当にあるとは」


 龍之介は棺の中に収められている、宝石の埋め込まれた剣を手に取って眺めた。


 ルビーみたいな赤い宝石が柄に点々と埋め込まれ、鞘は金とエメラルド色の石。

 実用性をまったく考慮していない、装飾品の剣だった。


「まだ周辺を掘れば見つかるかもしれないぞ。海賊の宝がこれだけということはないだろう」


 隊長の発言にモーリアンが間髪入れずに食いついた。


「ほんまかいな! 探してみような」


 モーリアンは瞳孔を『\』にしてシャベルを手に持った。

 腹が減って動けないとか言っていたのは嘘だったのか?


「宝物はどうする……このままにしちゃいられねえだろ……?」


 モーリアンといい潤弥といい欲望に忠実な奴らだ、と龍之介は呆れた。


「我々の目的は何だ。宝物を探すことか? 違うだろう。食料を探しにきたんだろう」


 はじめのころは中二病で痛い奴だと思っていたが、一番まともなのが龍之介だと言うのだから、どれだけキャラが濃い奴らがそろっているんだ。


「まずは、食料を探すべきだ」


 渋々重たい蓋を締め直して、食料探しを再開することになったのだった。


 拠点から半径三キロほどの距離を探したが、実どころか葉物類も根物類も見つからなかった。


 骨折り損のくたびれ儲け? 

 いや、海賊の宝物を見つけたのだから大収穫といっていいが、この島では一文の価値もない。

 宝というのは価値観を共有する他者がいてなんぼなのだ。


 紙幣も普通に考えればただの紙だが、世界中の人々が価値観を共有しているから紙で買い物ができる。


 だから自分たちだけしかいないこの島で宝物を持っていても、豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏、宝の持ち腐れだ。


「もうだめや……動けれへん。うちここで死ぬんや……。うちの棺の中に、見つけた宝を少しだけ入れて、葬ってくれ~……」


 とうとうモーリアンは空腹に力尽き、その場にしゃがみ込んだまま動かなくなった。


「じゃあね」


 立ち止まったモーリアンを無視して、四人は拠点に引き返してゆく。


「チョ待てよォ」


 二十メートルほど離れた辺りで、モーリアンの叫び声が飛んできた。

 

「なに?」


「おまえらは行き倒れになった仲間を見捨てるんか! この前の友情はどこに消えたん!」


「元気じゃない」


「おぶってえな。もう歩けれへん」


「みんな一緒よ」


 エリーが冷たくあしらうと、こりることなくモーリアンは続けた。


「潤弥っち……うち疲れたたんや……おぶってくれへん」


 目をキラキラさせておねだりをするモーリアン。

 こいつ、男心を熟知してやがる。

 潤弥は耳まで顔を赤くして、あたふたと自分を指さした。

 女性の扱いには慣れているんじゃないのか、このホスト?

 そのうろたえようはチェリーそのもの。


「わかった、おぶってあげるわよ」


「ほんまか」


 してやったり顔でモーリアンはニヤリと笑った。

 すべて読んでいたのか。

 馬鹿と天才は紙一重というが、まさにそれ。


 モーリアンを負ぶって拠点に引き返しているとき、龍之介が樹の幹をじっと睨んで立ち止まった。


「どうした龍之介君?」


 隊長も立ち止まり、樹の幹を見る。

 

「どうしたの?」


 エリーもみなの視線の先を見ると、バッタみたいな虫が幹にピタリと貼りついていた。


「あれ、どうして虫がこんなところにいるんだろう。冬眠しているはずじゃないの?」


 マイナスを下回らないから、虫も勘違いしているのか?

 竜之介はバッタみたいな虫を素手で掴んで興味深そうに眺めた。


「どうしたの?」


地下(タルタロス)に通ず入り口(ポータル)を作るのだ」


「どういう意味?」


「穴を掘れ」


 すぐさま通常語に変換して龍之介は答えた。


「どうして?」


 何もわからないエリー、モーリアン、潤弥。

 しばらく間をおいて隊長は気が付いた。


「そうか」


「ああ」


 龍之介と隊長はシャベルを三銃士ならぬ二銃士みたいにクロスさせて、地面を掘りはじめた。


「いったい何やってるの?」


 返って来た返答は衝撃的なものだった。


「虫を喰う――」


「そうか! 食べ物がなければ虫を食べればええんやな!」


 モーリアンは目から鱗が落ちる思いで言った。

 どこのモーリアントワネットだ!

 と以前のエリーなら突っ込んでいただろうが、今は違った。

 あ、そう……虫ね――。

挿絵(By みてみん)

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