無人島生活49話 ここ掘れワンワン
空腹の上、体力を使い果たしたお馬鹿二人は、ぐったりとスライムの如く溶けていた。
口から魂が抜け出ようとしている。
腹はグーグー大合唱。
「確かにそろそろ限界かもしれんな」
隊長は二人から抜け出ようとする魂を、口に押し戻してやりながら言った。
「みんなも空腹だろう」
隊長は背後にたたずむエリーたちに問うた。
答えたのは声ではなく腹の虫だった。
「よし、仕方がない」
「どうするつもり……?」
立ち上がった隊長にエリーは訊ねる。
「鶏を数匹潰す」
「潰す……って……?」
聞かずともわかっているだろうと、隊長はエリーを見据えた。
「ちょっと……待って……。殺すの……?」
「私たちが生きるためだ」
「そうだけど……」
たしかに背中とお腹がくっつきそうなほど痛かったが……あの鶏たちを殺すのは気が引けた……チキンって名前だけど……。
スーパーに並んでいる肉なら迷いなく食べられるのに……情をかけて育てた鶏を……。
人間とは何とエゴな生き物だろう。
チキンや、〇らあげクンと名付けていたが……(冗談だったのか?)。
「一匹潰せば二人分くらいのエネルギーを得られるだろう。それでしばらくは満足する」
隊長が鶏のいる方に一歩足を踏み出そうとしたそのとき。
「ちょっと待ってえな。腹減ったなんて冗談やわ……」
グ~……。腹が鳴った。
「これは違うで……ちょっとお腹の調子が悪いだけや……。やから、潰さんといてえや……。たしかにお腹は空いとるけど、食べな死ぬほどちゃう……。大袈裟に言い過ぎたわ」
サングラスの奥の瞳が悲しそうに歪んだ。
「しかしだね。どちらにしろ食料が尽きて来ているのだから、遅かれ早かれ」
隊長の言葉をさえぎって、モーリアンが言った。
動物を一番可愛がっていたのはモーリアンだ、人一倍情が移っているのは明白。
「もういっぺん島を探してみような。食べられそうなもん何か見つかるかもしれへんわ」
「しかし」
潤弥の口から出た霊魂も話しに加わった。
「そうだぜ。別に偽善者ぶってるわけじゃねえけどよ。卵産むし生かして置く価値はあるだろう」
隊長はみなを見た。
「それでは今日一日食料を探してみるか。それでも見つからなければ、わかってほしい」
というわけで、食料を見つけるべく、モーリアン、隊長、エリー、潤弥、龍之介の五名で探索に出た。
留守番は紅とゴリッチの二人だが、百獣の王が一人いればほぼ無敵。
モーリワンは自慢の嗅覚を使い、警察犬かトリュフを探す豚みたいに食料を探した。
「どう? 見つかりそう?」
「ワンワン」
心までも完全な犬になっていた。
首輪をつけてリードをひけば、犬に見えなくもない、か?。
「鶏たちの命はおまえに掛かってるんだぞ」
背後から付いてきているだけのホストは、さっきから変なプレッシャーをかけ続けていた。
まだわずかに口から魂が抜け出ていた。
寒くなったことで生い茂っていた木の葉も寂しくなり、冬の並木道のような道をみなは歩いた。
褐色の落葉が乾燥してパリパリと、ポテトチップスを踏んだときみたいな音を上げている。
寂しい景色。
色彩豊かなフルーツは見えないし、食べられそうな植物も皆無。
この世の終わりか?
いや終わるのは世界ではなく自分たちか……へっ。
クンクンクンクン、地面のにおいを嗅いで食べ物を探す姿は人間ではなく、冗談抜きで犬だった。
そのときモーリワンが反応を示した。
「ワンワンワンワン!」
「どうしたの? 何か見つかった」
「ワンワンワンワンワオン」
「あっちの方がにおうって?」
潤弥は思った。
言葉通じてんのかい、と。
「ワンワンバウワン」
言うなりモーリワンは駆けだした。
「モーリワンがあっちに何かあるって。行ってみましょ」
四足歩行で駆けだしたモーリワンを四人は追った。
水分が抜けて干からびた落葉の絨毯を踏み、モーリワンに追いついた四人は見た。
「何やってんだよ……?」
モーリワンは前足(両手)を使って地面を掘っていた。
「ワンバウ~ワン!」
「エリー君通訳を」
「ワンバウ~ウ~ワンワン」
「『この下に何か埋まってる。ここ掘れワンワン』だって」
「ワンワン」
言われるがまま四人は持って来たシャベル(海賊の洞穴にあった)で、モーリワンが示すところを掘りはじめた。
本当にこんなところに食べ物があるのか?
芋類?
土の中なのだから根ものの何かであることは間違いないだろうが。
三十センチほど掘ったところで、何か硬いものに当たった。
手がしびれるくらい硬い物。
石?
シャベルの先端で土をかき分けてみると、想像通り石だった。
「何? 何にもないじゃない」
ちょっと棘のある声でモーリワンを責めると、「ワンワンキャイ~ン」と鳴いた。
「え? もっと掘れって。これ以上掘れないわ」
「ワンワンバウワン!」
「いいから掘れって。わかったわよ」
モーリワンに言われるまま、石というより岩の周りを崩しながら掘っていくと、あることに気が付いた。
この岩……棺みたい……。
エリーが気付くころには隊長と潤弥も気が付いていた。
「これ……人工的に削られてやしねえか……?」
潤弥の言う通り現れた棺のような岩は、明らかに人の手で削られた跡があった。
「ワンワンバウワン」
お互いに顔を見合わせて、もう少し掘ってみることにした。
岩の棺はかなり大きく、縦二メートルくらい、横一メートルちょっと。
よく見ると縦の表面に亀裂がある。
まるで蓋みたいに……。
「これ……何……?」
隊長は掘った穴の中に入って岩を観察して、言った。
「この亀裂から上、持ち上がるように見える」
「つまり、どう言うことだよ?」
潤弥は眉間に浅い縦しわを寄せて気弱な声で訊ねた。
「つまりこれは入れ物で、中に何かが入っている、ということになる」
どうして人のいない島に人工的に削られた棺があるんだ……?
「開いてみよう、潤弥君、エリー君、龍之介君、持ち上げるのを手伝ってくれるか?」
「開けるつもり……?」
「ここまで掘って埋め直すのか?」
たしかに……ここ掘れワンワンのせいで無駄な体力を使ってしまった。
埋め直せば骨折り損のくたびれ儲け。
自分たちは何をしに来たのか元の目的を忘れている……。
「わかった。手伝う」
エリーは穴の中に入って亀裂のすき間に指を入れた。
潤弥は、ああ仕方ねえ……と赤い頭をくしゃくしゃ掻いて亀裂に指を掛けた。
「ワンワン」
モーリワンは穴の外で吠えていた。
「おまえも犬演じてないで、手伝えよ!」
「ワンワンバウ~バウ~ムク~ヘン」
エリーは覇〇色の〇気を彷彿とさせる、鋭い視線でモーリワンを睨んだ。
「キャイ~ンィ……。わ、わかったがな……」
モーリワンはモーリアンに戻って、エリーに絶対服従の意を示した。
飼いならされた犬そのもの。
モーリアンを加えて、棺四方の亀裂に指をかけた。
「せー」
みなは隊長の言葉にタイミングを合わせ、身構えたとき。
「の、といったら持ち上げるぞ」
バタン、四人はズッコケた。
「こんなときにそんなお約束いいから。『せーのっせ』の『せ』で持ち上げるからね。ボケないでよ」
改めて五人は身構えて、「せーのっせ」と息を合わせて蓋を持ち上げた――。




