表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/64

無人島生活49話 ここ掘れワンワン

 空腹の上、体力を使い果たしたお馬鹿二人は、ぐったりとスライムの如く溶けていた。

 口から魂が抜け出ようとしている。

 腹はグーグー大合唱。


「確かにそろそろ限界かもしれんな」


 隊長は二人から抜け出ようとする魂を、口に押し戻してやりながら言った。


「みんなも空腹だろう」


 隊長は背後にたたずむエリーたちに問うた。

 答えたのは声ではなく腹の虫だった。

 

「よし、仕方がない」


「どうするつもり……?」


 立ち上がった隊長にエリーは訊ねる。


「鶏を数匹潰す」


「潰す……って……?」


 聞かずともわかっているだろうと、隊長はエリーを見据えた。

 

「ちょっと……待って……。殺すの……?」


「私たちが生きるためだ」


「そうだけど……」


 たしかに背中とお腹がくっつきそうなほど痛かったが……あの鶏たちを殺すのは気が引けた……チキンって名前だけど……。


 スーパーに並んでいる肉なら迷いなく食べられるのに……情をかけて育てた鶏を……。

 人間とは何とエゴな生き物だろう。


 チキンや、〇らあげクンと名付けていたが……(冗談だったのか?)。


「一匹潰せば二人分くらいのエネルギーを得られるだろう。それでしばらくは満足する」


 隊長が鶏のいる方に一歩足を踏み出そうとしたそのとき。


「ちょっと待ってえな。腹減ったなんて冗談やわ……」


 グ~……。腹が鳴った。


「これは違うで……ちょっとお腹の調子が悪いだけや……。やから、潰さんといてえや……。たしかにお腹は空いとるけど、食べな死ぬほどちゃう……。大袈裟に言い過ぎたわ」


 サングラスの奥の瞳が悲しそうに歪んだ。


「しかしだね。どちらにしろ食料が尽きて来ているのだから、遅かれ早かれ」


 隊長の言葉をさえぎって、モーリアンが言った。

 動物を一番可愛がっていたのはモーリアンだ、人一倍情が移っているのは明白。


「もういっぺん島を探してみような。食べられそうなもん何か見つかるかもしれへんわ」


「しかし」


 潤弥の口から出た霊魂も話しに加わった。


「そうだぜ。別に偽善者ぶってるわけじゃねえけどよ。卵産むし生かして置く価値はあるだろう」


 隊長はみなを見た。


「それでは今日一日食料を探してみるか。それでも見つからなければ、わかってほしい」


 というわけで、食料を見つけるべく、モーリアン、隊長、エリー、潤弥、龍之介の五名で探索に出た。

 留守番は紅とゴリッチの二人だが、百獣の王が一人いればほぼ無敵。


 モーリワンは自慢の嗅覚を使い、警察犬かトリュフを探す豚みたいに食料を探した。


「どう? 見つかりそう?」


「ワンワン」


 心までも完全な犬になっていた。

 首輪をつけてリードをひけば、犬に見えなくもない、か?。


「鶏たちの命はおまえに掛かってるんだぞ」


 背後から付いてきているだけのホストは、さっきから変なプレッシャーをかけ続けていた。


 まだわずかに口から魂が抜け出ていた。

 寒くなったことで生い茂っていた木の葉も寂しくなり、冬の並木道のような道をみなは歩いた。


 褐色の落葉が乾燥してパリパリと、ポテトチップスを踏んだときみたいな音を上げている。

 寂しい景色。

 色彩豊かなフルーツは見えないし、食べられそうな植物も皆無。


 この世の終わりか? 

 いや終わるのは世界ではなく自分たちか……へっ。

 クンクンクンクン、地面のにおいを嗅いで食べ物を探す姿は人間ではなく、冗談抜きで犬だった。

 そのときモーリワンが反応を示した。


「ワンワンワンワン!」


「どうしたの? 何か見つかった」


「ワンワンワンワンワオン」


「あっちの方がにおうって?」


 潤弥は思った。

 言葉通じてんのかい、と。


「ワンワンバウワン」


 言うなりモーリワンは駆けだした。 


「モーリワンがあっちに何かあるって。行ってみましょ」


 四足歩行で駆けだしたモーリワンを四人は追った。

 水分が抜けて干からびた落葉の絨毯を踏み、モーリワンに追いついた四人は見た。


「何やってんだよ……?」


 モーリワンは前足(両手)を使って地面を掘っていた。


「ワンバウ~ワン!」


「エリー君通訳を」


「ワンバウ~ウ~ワンワン」


「『この下に何か埋まってる。ここ掘れワンワン』だって」


「ワンワン」


 言われるがまま四人は持って来たシャベル(海賊の洞穴にあった)で、モーリワンが示すところを掘りはじめた。


 本当にこんなところに食べ物があるのか? 

 芋類?

 土の中なのだから根ものの何かであることは間違いないだろうが。


 三十センチほど掘ったところで、何か硬いものに当たった。

 手がしびれるくらい硬い物。

 石?

 シャベルの先端で土をかき分けてみると、想像通り石だった。


「何? 何にもないじゃない」


 ちょっと棘のある声でモーリワンを責めると、「ワンワンキャイ~ン」と鳴いた。


「え? もっと掘れって。これ以上掘れないわ」


「ワンワンバウワン!」


「いいから掘れって。わかったわよ」


 モーリワンに言われるまま、石というより岩の周りを崩しながら掘っていくと、あることに気が付いた。


 この岩……棺みたい……。

 エリーが気付くころには隊長と潤弥も気が付いていた。


「これ……人工的に削られてやしねえか……?」


 潤弥の言う通り現れた棺のような岩は、明らかに人の手で削られた跡があった。


「ワンワンバウワン」


 お互いに顔を見合わせて、もう少し掘ってみることにした。

 岩の棺はかなり大きく、縦二メートルくらい、横一メートルちょっと。

 よく見ると縦の表面に亀裂がある。

 まるで蓋みたいに……。


「これ……何……?」


 隊長は掘った穴の中に入って岩を観察して、言った。


「この亀裂から上、持ち上がるように見える」


「つまり、どう言うことだよ?」


 潤弥は眉間に浅い縦しわを寄せて気弱な声で訊ねた。


「つまりこれは入れ物で、中に何かが入っている、ということになる」


 どうして人のいない島に人工的に削られた棺があるんだ……?

 

「開いてみよう、潤弥君、エリー君、龍之介君、持ち上げるのを手伝ってくれるか?」


「開けるつもり……?」


「ここまで掘って埋め直すのか?」


 たしかに……ここ掘れワンワンのせいで無駄な体力を使ってしまった。

 埋め直せば骨折り損のくたびれ儲け。

 自分たちは何をしに来たのか元の目的を忘れている……。


「わかった。手伝う」


 エリーは穴の中に入って亀裂のすき間に指を入れた。

 潤弥は、ああ仕方ねえ……と赤い頭をくしゃくしゃ掻いて亀裂に指を掛けた。


「ワンワン」


 モーリワンは穴の外で吠えていた。


「おまえも犬演じてないで、手伝えよ!」


「ワンワンバウ~バウ~ムク~ヘン」


 エリーは覇〇色の〇気を彷彿とさせる、鋭い視線でモーリワンを睨んだ。


「キャイ~ンィ……。わ、わかったがな……」


 モーリワンはモーリアンに戻って、エリーに絶対服従の意を示した。

 飼いならされた犬そのもの。

 モーリアンを加えて、棺四方の亀裂に指をかけた。


「せー」


 みなは隊長の言葉にタイミングを合わせ、身構えたとき。


「の、といったら持ち上げるぞ」


 バタン、四人はズッコケた。


「こんなときにそんなお約束いいから。『せーのっせ』の『せ』で持ち上げるからね。ボケないでよ」


 改めて五人は身構えて、「せーのっせ」と息を合わせて蓋を持ち上げた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ