表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/64

無人島生活48話 同情してくれ金をやる!★

「いや~、ホンマ酷い目に遭ったわ」


 完全復活したモーリアン。


「酷い目にあったのはあたしの方よ」


 隔離生活一週間で風邪も完全によくなった。

 モーリアンが風邪をひき、エリーが看病してうつされて、三日間寝込んだ。

 本当に酷い目にあった。


「ほんまによかったな。わい心配しとったんやで」


 ・・・・・・聞き馴染みのない一人称を発したのは隊長。


「どうしたの……? 何で一人称がわい?」


「わいなモーリ君がいないあいだボケ担当をやっとたんやわ。わいの一人称私やったやん。ボケといったら関西弁やんけ。この一週間関西弁で頑張っとったんやわ」


「だからって関西弁になる必要あんの? それ関西圏の人たち敵に回す発言よ」


 病み上がりでツッコむタイミングがわからずにいるエリー。


「で、うちの代わりは務まったか? どないやった」


「これは~、これで~、面白かったよ~」


 ニコニコ変わらぬ笑顔で紅が言った。


「そやろ、わいはもとグリンベレーでボケの訓練を受けてたからな」


 ハハハハ、と豪快に隊長は笑った。


「カバーっちキャラかぶるからそろそろ戻してくれへん」


「そないか」


 隊長は咳ばらいをニ三回して、「何はともあれ、よかった。みんな気が気でなかったのだよ」と映画マ〇クの主人公並みにキャラが急変した。


「もう調子は大丈夫なんだね」


 羊の毛で作った服を着たゴリッチが二人に訊ねた。


「もう大丈夫やで。心配かけてごめんなぁ。うちがおらんあいだ、喧嘩せんかったか?」


 モーリアンが訊ねると、みなは顔を曇らせた。

 紅だけがニコニコ笑っている。

 陰と陽。

 不穏な空気が帳を下した。


「どないしたん?」


「ね~、どうしちゃったのかな~」


 紅はニコニコ微笑みながら、みなを見据えた。

 目が笑っていない……。

 太陽のボケリストであるモーリアンがいなくなり、紅の固有スキルが強くなっていたのだろう……。


「私たちは仲良しだったぞ。なあ」


 隊長は慌てて口を開いた。


「ああ、喧嘩なんてしてないぜ。そうだよなゴリッチ」


「う、うん。喧嘩なんてしてないよ」


 三人は肩を組んでまくし立てた。

 絶対不穏な何かがあったのは確実だろ。

 誰か一人欠けても、調和がとれない。

 みなの存在(スキル)が絶妙な調和を保ち、今まで仲間割れする事無くやれている――。












 無人島生活九十日目。

 無人島は一段と寒くなっていた。

 冬になっても十度を下まわることはないだろうが、風が冷たいのは堪える。


 寒いだけなら着込み、焚火を焚けば辛抱できないことはない。

 日本の冬と比べれば温かい方だ。

 だが問題は、あれだけ備えていたのに食料が尽きはじめているということだった……。

 

 食糧庫として使っている洞窟には、おおよそ冬を越せるだけの食べ物はなかった。

 かなり切り詰めてもギリギリ……。


 どうしてこのようなことになったかと言うと、誰かが食糧庫の扉を閉め忘れ、放し飼いにしている動物たちが穀物や、野菜を食い散らかしてしまったからだ……。


 そして、減った食料を増やすこともできない、食料がとれなくなったことが原因。

 

 果物も実らず、作った畑も不作。

 魚も釣れないし、蛇もいない。

 増えないということは、減り続けるということ。

 穀物も少なくなったことで、動物たちも元気がない。

 

「今日もこれだけかよ……」


 蛇肉の燻製一人一枚ずつ。


「しょうがないでしょ」


「たく、一体誰だよ。扉開けっぱなしにした奴!」


 キレる寸前のピリピリした声で潤弥は叫んだ。

 犯人捜しをするだけ無駄だし、険悪になってしまうだけ。


「食べられるだけましだと思ってよ」


「だけどよ……。もう三日も燻製肉一枚と卵だけだぜ……。こんなんじゃ体がもたねえよ……」


「不満を言ったって仕方がないじゃない」


 食料がなくなりだしたことでみなの不満は募っていった。

 飢えに苦しみながら、一週間がすぎるころには不満もピークに達し――。


「もう我慢できねえッ」


「うちもやッ」


 潤弥とモーリアンが食糧庫を襲撃した。

 

「何を考えているッ、貴様らッ」


 龍之介は暴走した二人を止めようとしたが、野獣と化しリミッターが外れた二人を止めることはできなかった。


「百獣の王ッ。二人を止めろ!」


 ゴリッチは五十メートルほど開いた距離を一蹴りで詰めて、二人を担ぎ上げた。


「放せッ。放せってッ。三百円あげるから」


 ゴリッチの肩に担がれジタバタ暴れる潤弥。


「ゴリッチ。放してえな。諭吉一枚あげるからッ」


 無人島では金など何の役にも立たないただの紙切れだった。

 

「諭吉一枚ではたらんゆうんかッ! わかったわ。諭吉百枚や」


 モーリアンがゴリッチの拘束から抜け出すと、洞窟の中からトートバッグを持ってきて、チャックを開けた。


「同情してくれ金をやる!」


 言ってモーリアンはゴリッチに福沢諭吉の束を突き出した。

 

「同情するわけにはいかない。みんな苦しいのは一緒なんだ」


 頑として諭吉を受け取ろうとしないゴリッチ。


「同情してくれ金をやる! 同情してくれ金をやる! 同情してくれ金をやる! 同情してくれ金をやるッ!」


 諭吉の束を握りしめて、情に訴えるボケリスト。

 

「百万ではたらんゆうんかッ。わかった、二百万ならどうや! 三百万、四百万、五百万」


 モーリアンはトートバッグの中から、札束を次から次につかみだした。

 だが、ゴリッチは金に見向きもしなかった。

 

「それならこれでどうや!」


 トートバッグ自体をひっくり返して、モーリアンは叫んだ。

 だが、それでも駄目だった。


「金は命よりも軽い……! 少しでも食料を節約するしか生き残る道はないんだ。わかってくれ……」


 ゴリッチはト〇ガワの如くモーリアンに喝を入れた。


「お願いや……。毎日毎日燻製にしたヘビ肉一枚や、小魚一匹で死にそうなんやわ……」


 金を掘っぽりだして、モーリアンはゴリッチにすがりついた。

 しばらくゴリッチの足にしがみついて泣いていると、むしゃむしゃむしゃむしゃ、という擬音が漂いはじめた。


「ちょっと、モーリアン」


「何や……。同情して金をもらう気になったんか?」


「いや、そうじゃない……。後ろ」


「後ろ?」


 涙でぐしゃぐしゃにした顔を擬音の漂う方角に向けて、モーリアンはムンクの叫びの絵のような表情になった。


(※ ムンクの『叫び』という絵は、人物が叫んでいるのではなく、この世のものとは思えない叫びを聞き、耳を覆っているところを描いた絵だそうです)


「何しとんやッぁああああああああああ!」


 モーリアンの見たものとは――白山羊さんと黒山羊さんがお札を食べた♪――光景だった。

 むしゃむしゃむしゃむしゃと美味しそうに福沢諭吉を食んでいる山羊たち。


「あっちいけッ。知らずに♪ 食べるんやないッ」


 モーリアンは地面に広げた札束をトートバッグにしまうが、それよりも早く山羊たちが札束を食べる。


(※ 山羊は紙を食べるというイメージがあるが、あれは誤った認識だそうです。現代の紙には科学薬品やインクが使われているので、山羊に紙を与えないように。体調不良、腸閉塞の原因になります)


 結局山羊に三十万円分くらいの福沢諭吉を食べられてしまった。

 風邪をひいたときに見たという、夢は正夢になったのだ。


「ごめんな……うちを許してえな……」


 ボケはトートバッグを抱きしめて涙を流した。

 その光景を背後で見ていたエリーは、ホント馬鹿だろ、と思ったのであった――。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ