無人島生活45話 隔離生活
その夜、エリーとモーリアンは拠点から歩いて三十分ほどのところにある、小さな洞窟でしばあらく隔離されることとなった。
「本当にすまないな……。食事は三食しっかりと持ってくる……」
隊長はモーリアンを洞窟にこしらえられたベッドの上に横たえて、申し訳なさそうに言った。
「気にしないで、みんなの言うことの方が正しいわ。意地を張っていたのはあたしの方。みんな病気になっちゃったらそれこそお仕舞だもの」
エリーはできる限り明るく振舞った。
隊長は布をマスクのように顔に巻き付け、サングラスをしているものだからぱっと見、強盗犯に見えなくもなかった。
「水と食料はここに置いとくぞ」
潤弥は水と食料が入った木箱を洞窟の中に入れた。
「ありがとう。それじゃあ、また明日」
「ああ……本当に悪いな……」
二人を見送り、エリーとモーリアンは本当に二人きりになった。
日が暮れはじめており、急激に心寂しくなった。
昼と夜の狭間で一番星が輝いていた。
いつもうるさいボケ担当は何の役にも立たなくなってしまっている……。
「嘆いていてもはじまらない。治るまでの辛抱だ」
気持ちを奮い立たすために独り言をつぶやいて、洞窟に入った。
暗くなってしまえばすることは何もない。
洞窟の近くに火を熾して、洞窟の中に温かな風が少しでも流れ込むようにした。
拠点の洞窟だったらともかく、通気口もないこの狭い洞窟の中で焚火をすれば、気付かない間に一酸化炭素中毒になり死んでしまうだろう。
火熾しも慣れたもので、ガスコンロの取っ手を捻るような簡易たる様子で火を熾した。
間もなく日が暮れて、エリーはしばらく燃ゆる火影を眺めてボーっとしていた。
何分くらい瞑想していただろうか。
エリーは精神世界から呼ぼ戻したのはモーリアンの咳だった。
海賊の洞穴にあったランプに火を移して様子を見に行くと、モーリアンはうなされていた。
また諭吉が出て行く悪夢でも見てるのか?
水泳直後の選手並みに髪の毛が冷や汗で濡れている。
このままでは汗で体を冷やしてしまうだろう。
慌てて焚火の上に手鍋を置いて、お湯を沸かした。
四十二三度ほどの温度になると、火からあげて手拭いをその湯で絞った。
顔周りと首筋を軽く拭いてやって、今度は水で絞った布を額に載せた。
これと言ってすることもないので、モーリアンのとなりで眠ることにした。
いつもは誰かのいびきや寝言とも思えない明瞭な寝言で賑やかだが、今日は苦しそうな寝息しか聞こえなかった。
体が弱ってしまうと、悪いことばかり考えてしまう。
エリーは何も考えないために、羊ではなく山羊を数えることにした。
大草原の真ん中に張られたフェンスを飛び越えてどこかに去ってい行く、白と黒の山羊、ヨルとユキ。
山羊を百匹ほど数えたあたりから、エリーはうつらうつらと夢の中に沈んでいった――。
エリーの朝は早い。
朝起きてまず行うルーティンは顔を洗うことだ。
そのルーティンは現代社会にいたときも変わらない日課だった(情〇大陸的?)。
モデルであるエリーはお肌や健康のことを考え、規則正しい生活を送っている。
周りからは辛くないのかとよく聞かれたそうだが、習慣化するとそう辛いことではない(情〇大陸的ナレーションをイメージして)。
顔を洗い気持ちを引き締める。
続いて、エリーが向かったのは眠っているモーリアンの元だった。
モーリアンはまだ眠っていた。
病気で眠っているのではなく、彼女は元気なときでも一番起きるのが遅い。
いつものことだ。
元気なときなら毛布をはぎ取って、オカン役を務めるエリーだが、今は違う。
さすがの彼女も病気でうなされている人間を、たたき起こすような暴挙には及ばない。
いつもなら決められた仕事に取り掛かるのだが――隔離されている身なので何もすることはできなかった。
仕方ないので、モーリアンの汗を拭いてやり、しばらくすると紅と潤弥が料理を持ってやって来た。
十メートルほど離れたところに食料を置いて、大声で潤弥が言った。
「ここに朝と昼の飯置いとくからな! 何か必要な物とかないかッ!」
「大丈夫! ありがとうッ!」
エリーも大声で答えた。
「あいつの様子はどうだッ!」
「昨日と変わらないッ!」
「そうか……! また夕方くらいに晩飯持ってくるからッ! おまえに面倒な役目押し付けてすまないなッ!」
「あたしから名乗り出たことだものッ! あなたは気にすることないわ! みんな病気になったらそれこそ大変だもの! あのときは怒鳴ったりしてごめんなさいッ……!」
潤弥と紅は見えなくなるまで、こちらをチラチラと気にしながら去って行った。
着丈に振舞っていたが、二人に去られると急激に寂しくなった……。
エリーは朝と昼の食事を持って、洞窟の中に運んだ。
「あ、起きた。調子はどう?」
モーリアンはぼんやりと目を開いて、凹凸した天井を見つめていた。
「ああ、エリーっちか……。大丈夫やで……」
もう三日目だと言うのに、ますます悪くなっている気がするのは気のせいだろうか……?
「今、潤弥と紅さんがご飯を持ってきてくれたの。食べましょ」
穀物をふやかして作られたおかゆと、ゆで卵が六つ、山羊のミルク、燻製にした蛇の肉と魚。
朝はおかゆとゆで卵一個ずつで、ミルクと一緒に食べることにした。
おかゆを少し食べたところで、モーリアンは箸を止めた。
「どうしたの……?」
「もう、お腹いっぱいやわ……」
「嘘いいなさいよ。まだ全然食べてないじゃない……。あなたいつも大食らいだったじゃない……。ボケてないで……」
エリーは声を震わせ、半泣き状態。
もしこのままモーリアンが死んでしまったらどうしよう……という不安が心を蝕んだ。
今まで腹が立つだけのうるさい奴だと思っていたけど、モーリアンのおかげで笑えていたのだ……。
失ってはじめてその人物の存在のありがたみがわかるのだ。
もし七人の中の一人でも大けがをしたり、亡くなったりしたら……きっと前みたいにな笑いは戻ってこない……。
最後に残った海賊もきっと今の自分と同じ気持ちだったのだとエリーは思う。
「ボケてへんって……。ホンマに食欲ないんやわ……。こんな食べられへんのはじめてやわ……」
「食べなきゃ元気にならないじゃない……」
暗い未来を考えると、悲しくて苦しくて、涙を堪えることができなかった。
モーリアンが死んだらどうしよう……。
「ホンマにごめんな……。元気なったら……食べられへんかった分まとめて食べるさかい……置いとって……」
言ってモーリアンはふらりとベッドに崩れ落ちた。
顔中真っ赤になって、苦しそうな息を繰り返している……。
パーカーの下に着ているシャツと下着が、汗で冷たくなっていた。
エリーは一生懸命、彼女の冷たくなった服を脱がして、毛布にくるみ背中をさすった。
神など信じていないエリーだが、心の中では必死に神に祈っていた(日本人って勝手だよね。困ったときの神頼み)。
(神様、お願い……。この子を連れてえいかないで……)




