無人島生活43話 なんの成果も! 得られませんでしたぁぁぁぁ……!★
洞窟の壁に刻まれた1がまた一つ増えた。
1を四本並べて横一線で一区切り。
この無人島に来て何日目かを知るカレンダーのようなものだ。
そして無人島に来て二か月と少しが過ぎていた。
文明社会から完全に隔離されたこの島でも、元気にやっている自分にまず驚くエリーなのである。
考えて欲しいが、現代社会に染まり切った人間が無人島に漂流してここまで生きられたのはすごいことじゃない?
すごいでしょ?
え? すごくない?
じゃあ逆に訊くけど、あなたが無人島に漂流したとして、二か月以上生き抜く自信ある? ←誰に話しかけてんだエリーよ?
まあ、話しがおかしくなったが、動物たちの世話をしたり、食べ物を探したり、魚を釣ったりして案外楽しい毎日だった。
食べ物にも今のところ困っていない。
タンパク質は山羊のミルクで作ったチーズもどきや、鶏の卵でとれるし、野菜類は島を探せば天然物の芋や、葉物類を手に入れられた。
この前見つけた海賊の道具を使って畑も作ったから効率よく収穫ができる。
唯一不満があるとすれば、寒いことだけだ……。
南半球といえども冬は寒い……。
夏だと思って半そで短パンでやって来た過去の自分を恨むエリー。
無人島でのサバイバルの企画に参加したんだったら、どうしてもっと重装備で来なかったのか、と。
完全に舐めていた……。
サバイバルを完全に舐めていた。
無人島での生活をするというのに、見た目を気にしていた過去の自分をぶん殴ってやりたい……。
そんな寒そうにしているエリーを見て、刈り取った羊の毛で毛糸を作って、龍之介が服を作ってくれた。
セーターだ。
縫い針はヘパイストス・ザ・クリエイターを有する龍之介なら簡単に作ることができたし。
寒そうにしている羊には悪いが、島で見つけた羊から毛をすべて剥ぎ取り、人数分のセーターを冬までに用意することができた。
今では二グループに分かれて効率的に行動している。
一方にカバー隊長、もう一方にゴリッチ。
人間を辞めた強さを誇る二人がいれば、どんなモンスターが出ても安心だ(巨大蛇はあれ以来見ていない)。
一方のグループが家事をこなして、もう一方のグループが島を探索する。
領土拡大を目的にしているわけではない(多少はその目的もあるが)海賊船を探しているのだ。
海賊が仲間割れした後の骨が島中に転がっている。
仲間が減り過ぎて船を動かせなくなったがために、残った海賊たちもこの島で生涯を閉じた。
だから、この島には船が今なお残されているかもしれない。
可能性は極めて低いだろう。
雨風にさらされ使い物にならないかもしれないし、波にさらわれてしまっているかもしれないし、嵐に遭って大破したかもしれない。
だが少しでも希望があるなら、探してみる価値がある。
昼過ぎに人類の希望を託した、ゴリッチ、モーリアン、潤弥で構成された調査兵団が帰還した。
「どうだった? 見つかった? 何か成果はつかめた……?」
辛辣な面持ちで立ち尽くす三人。
すると三人は膝から崩れ落ち、首を垂れた。
「なんの成果もぉぉぉぉ! 得られませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ……!」
膝をついて泣き崩れる三人。
海賊の手記を見つけてから、数多の調査が行われたが、今まで何一つ成果は得られていなかった。
無駄に食料と時間を無駄にし、ボロボロになって帰ってくる兵士たち。
「そう……。気にすることないわ……。この調査はあたし達が無人島から脱出する糧に少しでもなったのなら、食料と時間の犠牲は無駄にならない……。また次頑張って」
「次こそはぁぁぁぁぁ……次こそはぁぁぁぁぁ……成果を上げてみせますッ……!」
調査兵団はそれから連日島の隅々まで調査をした。
海辺を調査し、島を横断する川を調査し、食料と時間を無駄にしたが何も成果を得られず仕舞い……。
本当に船などあるのだろうか……。
そんな船があるのならとうに見つけているはずだ、とゴリッチは思う。
それほど巨大な島ではない。
島の真ん中から四時間も歩かない内に端に着くくらいだ。成人男性が一時間に歩ける距離がだいたい四キロくらいだというから、半径十五キロちょっとくらいだろうか?
島の半分の調査は終えていた。
だが船のふの字も見当たらない……。
ふの字なんて見つかるわけないが、ハハ。
調べていないのは島の向かい側だけだ。
だが、向かい側はみなが神々の頂と呼ぶ山を回らなければ行くことができない。
起伏が激しく崖などがあり未だに調べられていない。
言うなれば未開の地であり、調査をすることにすれば危険が伴う。
船があるとすれば、そのダークゾーンしかない。
船が見つからないまま、本格的な冬が訪れたある日、調査の疲労が祟ったのかモーリアンが体調を崩した。
洞窟にこしらえられたベッドで、横になり昨日から寝たきりが続いている。
無人島だと言うのに風邪の菌がいるのか?
「ゴホゴホゴホゴホ……」
顔が熟したトマトのように火照り、ダルそうに見えた。
仮病ではない……。
モーリアンにそんな演技力があるとは思えない。
「ゴホゴホゴホゴホ……。動物の世話せなあかんわ……ゴホゴホゴホ……」
使命感に駆られているみたいで、モーリアンはふらつきながら立ち上がった。
「寝てなさいって……。あたしがやるから」
立ち上がったモーリアンを再びベッドに寝かせるエリー。
布をマスク代わりに口に巻き付け、少しでも予防しているが、一緒にいれば移る可能性は高い……。
「エリ爺さんや……迷惑ばかりかけて……ゴホゴホゴホ……。悪いね……ゴホッ!」
「何言ってるんだ。モリ婆さん……困ったときは、お互い様じゃないか。じゃが馬鹿は風邪ひかんというのは、やっぱり嘘じゃったんじゃな」
「誰がバカじゃッ! エリ爺さん! ゴホゴホゴホ……ゴホッ!」
しゃがれた声で叫んでモーリアンはせき込んだ。
「ほら、大声出すから」
「誰が出させたんや……」
「それよりあんまりしゃべらないで、菌が飛ぶ」
「エリーっちは鬼か……。病人には優しくしてえな……」
問題は同じ拠点で生活をして風邪が広まらないか? という点だ。
みんなに広がったらえらいことになる……。
完全な密……クラスター確定じゃん……。
エリーは海賊の洞窟にあった布の切れはしに水を含ませ、よく絞ってからモーリアンの頭に載せた。
額は熱くて、ひんやりとしている布もすぐに温かくなってしまうだろう。
「じゃあ、仕事すませてくるから寝てて」
「わかったわ……」
エリーはモーリアンを横目に見て、仕事に向かった。
エリーが世話をしに来ると、山羊や羊たちは「あれ? いつもの人じゃないの?」と言いたげな顔をした。
悪いな動物たちよ……いつもの人じゃなくて。
だが安心しろ、あたしは動物好きだから!
優しくしてやるぞ、グフフフ。
いつもモーリアンがいきものがかりを引き受けていたから、動物たちの好感度が低い。
山羊の乳を搾って、糞を掘りに入れ、落ち葉も入れて腐葉土を作る。
これも畑の肥料になるのだから汚いなど言っていられない(人間的に成長したエリー)。
仕事を終えモーリアンの世話をするため、洞窟に戻ったとき、エリーはミルクの入ったバケツを落としそうになった(バケツは浜に流れ着いていていた)。
モーリアンが苦しそうにうなされていたのだった……。




