無人島生活42話 先駆者たち
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何だこの空気……。
脈絡の合わない話でもしただろうか?
そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか! ←誰?
ちょっと強引な展開でもしなきゃストーリーは進まないんだよ! ←誰?
そうだろ? ←誰の一人語り?
「この手記が書かれて何百年になると思っている?」
龍之介のいうこともごもっともだ。
「書の劣化具合から考えて、百年以上。本当に大航海時代の代物なら四五百年は昔だ」
「だけど、探してみる価値はあるんじゃない。もしかしたら雨風に当たらない場所に置いてあるかもよ」
脱出するには船がいるじゃないか。
「そうだな、エリー君の意見に私は賛成だ。私たちがこの島を出る方法は助けが来るのを待つか、自分たちで脱出するかの二択しかないのだから。一縷の望みがあるのなら、行動してみるのも手だ。賛成する者は?」
みなを見回し、誰からも否定的な意見はでなかった。
もし船が見つかったとしても、問題は山積みなのだが。
一、どっちの方角に進めば陸があるのかもわからない。
二、船を見つけたとして自分たちで動かせないかもしれない。
この二つがエベレストよりも高く、自分たちの前に立ちふさがっている。
「よし、それでは明日から探してみることにしよう」
否定的では何も解決しない。
とにかく行動して問題は後から考えればいい。
「今日は一度拠点に戻ろう」
ゴリッチが空を見上げて切り出した。
「ええ、戻りましょ。早く戻らないと数時間もしない内に日が沈むわ」
「戻るのはちょっと、待ってくれ。もう一度洞窟内を調べてみよう。何か使えそうな物があるかもしれない」
隊長がペンライトを再び取り出し、洞窟内を照らした。
小さな埃が舞い、車のライトに照らされた雪みたいに思えなくもない。
「ああ、賛成だ」
てなわけで洞窟内をもう一度調べてみることになった。
座卓に突っ伏した海賊を“怖い„と思うよりも“可哀想„という想いの方が強くなった。
誰も助けに来てくれない絶望の中、この島で生きてそして仲間たちを見とり、最期は自分も……。
最後一人残されたこの海賊は、この島で何を感じ過ごしたのだろう……?
考えるだけで苦しくなる……。
他人事とは思えなくて、角ばった背中を見るのが辛かった。
自分たちの未来の姿を見ているみたいだ……。
そんな最悪の結末を頭から振り払う。
ブルブルブル。
「みんな、これを見てくれ。道具があるぞ」
エリーは骸骨から隊長の方に振り向き、ライトが照らす先を見た。
そこにはハンマーや剣、ピッケル、鍬やシャベルといった道具が壁の隅っこに立てかけられていた。
丁寧に扱っていたらしく、サビもほとんどなく新品然としている。
「この道具さへあれば、作れるものの幅も広がるぞ」
隊長は嬉しそうに剣を取って、鞘から三分の一ほど抜いた。
口に加えたライトの光がギラギラと刀身に当たり、鋭い輝きをはなった。
「もしかして……その剣で殺し合いしたんじゃないでしょうね……」
「そうかもしれない」
「そうかもしれないって……」
そう思うと剣から放たれる光が、禍々しく不気味なものに思えて肝が冷える。
続けて隊長は木箱を開けた。
木箱の中には釘や布切れ、ボロい服。
それとランプらしき金属製の物が入っていた。
「見てくれみんな。釘がある。それもサビていない釘だ。布もある。それにこれはランプだ」
洞窟内を他にも照らして「ロープもあるぞ」壁のすき間に突き刺された木の棒にロープが巻き付けられていた。
「宝庫だね。ここの物を拠点に少しずつ運んで行こう」
ゴリッチは嬉しそうにいった。
「運ぶのはまた今度でもいい。今は荷物が多くキャパシティーが限界だ」
龍之介がいった。
龍之介の言う通り荷物を持ちすぎて、これ以上持つのはさすがにしんどい。
武器となる斧や槍、弓、食料。
背中の編み籠には来る途中で見つけた果物なんかが入っている。
総重量十五キロ以上はある、絶対。
「そうだな龍之介君の言う通りだ。また明日改めてここに来て必要な物を拠点に運ぼう」
今回の冒険はこれで終わりとなった。
収穫はあった。
新世界に踏み出せば新たな発見があるものだ。
この島にそんな歴史があり、自分たちと同じ境遇の海賊たちが住んでいたなんて予想外だった。
あと急展開過ぎて、違和感が否めない(そうだろ?)。
そして希望も少しは見えた。
希望があり目的があることは本当に心の支えになるものだ。
マラソンでもゴールがあるから頑張れるように、目的を持って行動することはとても励みになる。
「サクラ、またうちらのところに遊びに来てえや。よちよちよちよち」
サクラと小サクラの首もとや頭を犬をなで回すみたいに、わしゃわしゃとしてモーリアンは別れを惜しんだ。
自分たちは海沿いの道を通って来たが、サクラたちは森の中を行き来しているのだろう。
森の中を通れば海沿いの遠回りの道より、早く拠点に帰れるのかもしれないが、深い森を抜けるのは危険。
地道だが確実な海沿いの道を引き返して帰ることにした。
「ねえ。次来たときあの座卓に突っ伏していた人(骨)を土に埋めてあげましょうよ。あのままじゃかわいそうだわ……」
「うん。エリー君の言う通り可哀想だ。あの暗い洞窟の中でずっと誰かが来るのを持っていたんだ。もう安らかに眠らせてやろう」
今回は帰ることするが、次回来たとき骨を埋めることにした。
拠点に帰還したときとほぼ同じくして、日が地平線に沈んだ。
拠点に着くと隊長とゴリッチはすぐに焚火の準備に取り掛かる。
「帰って来た……疲れた……」
帰宅した学生がベッドにダイブするみたいに、エリーは草むらに倒れ込んだ。
この無人島生活で基礎体力はついたと思うが、やはり新しいことをするのは精神的に疲れる。
体よりも心が疲れた。
「エリーっちは体力ないな」
「あんたは疲れてないわけ?」
「なんたって厳しい修行編を乗り越えてきたからな。エリーっちとはくぐって来た修羅場の数が違うねん」
「修羅場って何だよ? 修行編を引きずってんのかい」
体内時計で考えて、今は七時くらいだろうか?
緊張の糸が緩むと急にお腹が空いてきた。
「お腹~すいちゃった~。ごはんにしない~」
紅はお腹をさすりながら、ニコニコといった。
あれだけ歩いたというのに、疲れの色が感じられない。
まるで近所を散歩して帰って来たかのような余裕顔。
得体が知れない恐怖……。
一番の化け物は紅だと思う。
大抵ニコニコして心が読めない奴は強い、という鉄則があるもの。
「ああ、そうだな。今日見つけた果物でも食べてみるか?」
潤弥は網籠を下して、中から楕円形のマンゴーみたいなフルーツと、トゲトゲしたドリアンぽくも見えるフルーツを取り出した。
「毒じゃないでしょうね?」
眼を細めて、フルーツを見るエリー。
焚火の炎が不気味にフルーツを照らしている。
「うちに任せッ」
「頼んだぞ」
潤弥はモーリアンの鼻にフルーツを近づけた。
クンクンクンクン、犬のようにフルーツの匂いを嗅いで「ワンッ」モーリアンならぬモーリワンは鳴いた。
「大丈夫だワン。うまそうな匂いだワン」
モーリワンは尻尾をブンブン振りながら報告した。
麻薬探知犬並みに鼻の利く女。
「モーリワンが言うんだから大丈夫だ」
「ワン」
今までもモーリワンの嗅覚で、食べられるかそうでないかを判断してきた。
普通の人間にそんなことできるのかって?
ギャグなんだからそんなこと気にするな!
みなは焚火の周りに輪になって座り、取って来た果物を分け合った。
見た目は完全にマンゴー。
芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、よだれの分泌を促進してくれる。
果肉に『井』の字の切れ込みを入れてそらすと、食べやすくなった。
いや~、本当にマンゴーの見た目。
手の甲に汁を付けて待つ。
何も起こらない。
続いて舌先で軽く舐めて痺れがないかを確かめる。
しばらく待ったが痺れはない。
知らない物を食べるときは、まずこの検査をやろう。
これ、サバイバルの基礎。
小さく一口かじって、様子を見る。
大丈夫――。
みなは安心してマンゴーみたいなフルーツを食べた。
感想を言うとメチャクチャ美味しい。
味も甘みの少ないマンゴー。
品種改良されていない天然物のマンゴーなのか?
この島にこれてよかったことを挙げるとすれば、星空が綺麗なことと、都会では食べられない物を食べられるという経験。
ドリアンみたいな方のフルーツのにおいを嗅いだモーリワンは、「鼻がぁ……鼻がぁああぁあああぁあッ……」と鼻を押さえながらのたうち回った。
使い物にならなくなったモーリワンを横目に、フルーツを切ったとたん、吐き気をもよおすほど強烈なガス臭に似たにおいが広がり、しばらく呼吸困難に陥るものもいたが、食すと案外美味であったとさ――。




