無人島生活41話 オタクは偉大なりッ!★
「何じゃごりゃぁあああああぁあああああッ!」
洞窟の中でゴリッチの咆哮が聞こえた。
あのゴリラが叫ぶのだ。ただごとではない……。
みなは顔を見合わせて、アイコンタクトを取った。
入るか? 待つか?
「行きましょ」
エリーが言った。
幽霊屋敷に入る修学旅行生みたいに体をくっつけて、洞窟に入ることにした。
一個にまとまった姿はファランクス(密集陣形)のようだ。
洞窟の中を十歩ほど進むと隊長のライトの光が見えた。
「いったい……どうしたの……?」
気弱な先細りする声で呼びかけると、「心の準備をしてくれ」と隊長の緊張に張った声が返って来た。
心の準備? 何を……?
隊長のライトが照らされた先を見て、意味を理解した。
「きゃぁああああ――――ッ!」
エリーはとっさに飛びのき背後にいる誰かに抱きついた。
「エリーっち苦じいぃ……」
モーリアンだった。
長身のエリーの絞め技がモーリアンの首に入っていた。
「あ……ごめん……」
「ゴホゴホゴホゴホ……。死ぬか思ったわ……。うちやのうて、男に飛びついたったらよかったやん。ラッキースケベ並みに喜ぶで」
「どつくわよ」
「冗談やって……。で、それは何なん?」
隊長は落ち着いた声で答えた。
「白骨化した人間の骨だ」
「白骨化した人間の骨やて?」
イメージが固定化され改めて見返すと、ライトに照らされたそれは間違いなく白骨化した人間の骨だった。
外套を着たまま座卓に突っ伏して、白骨化している……。
よくある展開……。
裂けた服のすき間からあばら骨や、背骨が見え隠れしている……。
恐ろしいけれど何とか平常心を保っていられるのは、人体模型みたいな骨を見慣れているからだ。
この島には何故かわからないが、白骨化した人間の骨が結構出るヤバイ島なのだ。
「早く出ましょうよ……。気味悪いわ」
エリーはモーリアンのパーカーの袖を引っ張って逃げようとした。
「ちょっと待ってえや。その骨の前にある本みたいなんなんや?」
骸骨の突っ伏した座卓の上に何やら本みたいなものが置かれていた。
ホコリが堆積して、雪化粧されたように見えなくもない。
「本当だな」
隊長は骸骨のとなりに歩み寄り、躊躇なくホコリに手を突っ込み“何か„を持ち上げた。
軽くホコリを払うと、ハードカバーの表紙であることが判明した。
「我にも見せてくれ」
龍之介は隊長から本を受け取って、表紙を観察した。
かなり年季が入り、文字が薄くなっている。
「ライトを照らしてくれ」
隊長にライトを照らしてもらい、龍之介は本を開いた。
しばらくページをめくり、そしてまた表紙を眺め、ページをめくり、表紙をながめと同じ動作を繰り返した。
「この本はッ、ヴォイニッチ手稿かッ!」
「ヴォイニッチ手稿って何?」
エリーは開かれた本を覗き込んで、文面を眺めた。
疑問符が浮かび、逆さに覗き込んでいるのかと思い、頭の中で文面を回転させてみる。
駄目だ。文面を回転させても、読めない……。
英語ではない……。
中国語やロシア語でもない。
見たことのない文字だった。
○×△や意味のわからない落書きみたいな象形文字。
「ヴォイニッチ手稿とは、革命家で古書収集家でもあったウィルフリッド・ヴォイニッチという人物が手に入れた、解読不能の本のことだ。ヴォイニッチが1912年にイタリアで現在も解読不能の本を発見した」
語気を荒げて雄弁に説明する龍之介の話しに割って入った。
「で? それがどうしたの?」
「どこの言語とも一致しないこの本は第二のヴォイニッチ手稿かもしれない」
みなは輪になって本を眺めた。
※ すぐ隣に白骨遺体があります。
「とりあえず、一度外に出よう」
ゴリッチの提案に従い洞窟を出て、光の下で改めて本を開いてみた。
やはり読めない(英語で書かれていたとしても読めなかったが)。
「ここに真実を記す」
誰が言った?
顔を上げると隊長が横から本を覗き込んでつぶやいていた。
「読めるの?」
疑りの色濃くにじむ声でエリーは訊ねた。
「ああ、大航海時代、暗号として使われていた暗号文だ」
「大航海時代の暗号? どうして隊長がそんな文章読めるの?」
「グリンベレーの戦士たるもの、暗号の一つや二つ読めなくてどうする。あくまで戦士ですから」
「そういうのって暗号解読専門のチームがするもんじゃないの?」
「私はオールマイティーなのさ」
隊長は誇らしげに胸を張って鼻息を出した。
疑わしい……。
「じゃあ、なんて書かれているか教えてよ」
龍之介から本を奪い取って、エリーは隊長に押し付けた。
「ゴホン。では、解読してみよう」
第一ページを開いた。
「お主がこの書を見ているころには、この世に拙者はいなかろうwwwwww。ここに拙者が体験した世にも奇妙な物語を記すでござるwwwwwwww」
「ストップ」
「何だねエリー君。まだ第一節しか読んでいないぞ」
「ちょっと解読変じゃない? 何で『ござる』?」
「だから暗号として使われているのだよ。現在もこの暗号は世界中の言語に浸透して使われ続けているオタク語というやつの原型だ」
「ふざけてる。どつくわよ」
エリーは真顔のまま拳を握り、手の甲に怒りマークを浮かべた。
「ふざけていない。本当なんだ。あまりに難解なため解読は困難を極めたオタクーゴという暗号だ」
「なんでオタクーゴってネーミング? オタクって日本発祥の言葉でしょ」
「いや、遥か昔からオタクーゴは世界中の権力者が使って来た暗号なんだよ。その暗号が文明開化と共に日本に広まり、現在では世界に逆輸入されオタクが広まったのさ」
何言ってんだこいつ?
「何言ってんだこいつ、と言いたげな顔をしているが事実なのだからしかたがない」
隊長は改めて本に視線を落とした。
「拙者たちはパイレーツwwwwwwww。キャプテンシルバーの財宝を隠すためこの島に立ちいったのが運の尽きwwwwwwww。拙者たちはキャプテンシルバーの財宝をこの島に隠したでござったが、仲間の裏切りに遭いバトルロワイヤルがはじまったでござるよwwwwwwww。
拙者は仲間と協力して何とか謀反人どもを制圧することができたのじゃが、キャプテンシルバーは討ち死にしてしもうたwwwwwwww。今でこそ客観的に記すことができるが、当時はマジワロタどころではなかったwwwwwwww」
これ以上隊長の話を聞くに堪えないので要約すると――。
この島に昔、キャプテンシルバーとかいう海賊が財宝を隠すためにやって来たという。
だが、仲間に裏切られ死闘の末、謀反人を制圧できたが、キャプテンは殺されてしまった。
ここで伏線回収だが、森の中に落ちていた骨の山はその海賊たちのバトロワの後らしい。
鶏や山羊、羊がいたのは海賊たちの船に乗って連れて来ていたからだ、たぶん(蛇の説明はつかん)。
捕食者のいないこの島で、繁殖したと思われる。
で、海賊たちは四人だけ生き残ったが、四人だけでは船を動かせなかったという。
だから島をでることができなかった。
船を動かすには最低七人いるらしい。
脱出を諦めた四人の海賊はこの洞窟で共同生活をして数年暮らしていた。
だがとうとう力尽きるときが来て、最期に残った一人(洞窟の中にいた人)がこの手記を書いたといわけだ。
ん? ちょっと待って……エリーはあることに気が付いた。
仲間の謀反に遭い四人だけ生き残った。つまりは……。
「ねえ……もしかして、この海賊たちが乗って来たっていう船がまだこの島のどこかにあるんじゃない」
みなの間に沈黙が舞い降りた。
もし海賊たちが乗って来た船がこの島のどこかにあるのなら……この島を脱出できるかもしれない。
もし海賊たちの船がないのなら、この海賊たちと同じ末路を辿ることになる――。




