無人島生活40話 ターニングポイント
ある日、モーリアンが言い出した。
「サクラがおらんッ!」
当然モーリアンの言っている“サクラ„はblossomの桜ではない、馬のサクラの方である。
「突然どうしたの?」
洞窟前のテーブル椅子に座って、酵素ドリンクをチビチビ飲んでいたエリーは(またはじまった……)と思いながら鬱屈そうに聞き返した。
「あんな、最近サクラの姿を見んと思わんか? もしかしたら、サクラの身になんかあったんちゃうやろか……。蛇に食べられても歌とか……?」
蛇とはこの島にいたアナコンダみたいな巨大蛇のことだ。
あれ以来、一度も蛇に遭遇していない。
あの蛇はどこから来たのだろう?
謎だ……。
「う~ん……。わからない……。確かに最近見ないわね」
言って竹のコップに入った酵素ドリンクをもう一度飲んだ。
酵素ドリンクの作り方は簡単。
たくさんとれた果物を一口大に切って、水を張った容器に入れて、たまにかき混ぜあとは放置しているだけでできあがり。
砂糖漬けで作ったらもっと美味しいけれど、ここで取れる甘味料は果糖しかない。
それほど果糖も多く使えないので、水で我慢するしかないのだ。
だけど果物の甘みと香りが水に溶けだして、レモン水みたいな感じで、普通の水を飲むよりは美味しかった。
素朴な物ばかり食べているので、味覚が研ぎ澄まされているためかジュースみたいに甘く感じる。
「ちょっと捜しに行こうや」
「大丈夫だって。サクラはそんな軟な馬じゃないでしょ(根拠はないけど)。あたし達が来る前から、タフに生きてきたんだから」
「エリーっちにサクラの何がわかるんや! 今まで大丈夫やったからって、これからも大丈夫やとは言えんやろ!」
そんなに、やけになることないでしょ……?
「まあ……そうだけど……?」
そこに隊長が通りかかった。
「なあ、カバーっち」
「何だね?」
「最近サクラ見てへんか?」
「サクラ? ああ、モーリアン君に懐いていた馬のことか。いや、見てないな。それがどうしたんだ?」
「蛇に喰われてへんか心配なんやわ……。小サクラも見んし……。捜しに行きたいんやけど」
隊長は腕を組んで考えた末、予想外と言うべきか、予想通りと言うべきか、「よし、それではみんなで捜しに行こう」と答えた。
「嘘でしょ……。何で捜しに行く必要があるの? 捜しに行かなくても、ひょこっと現れるわよ」
「いや、捜しに行くだけが目的じゃないんだ。この島がどうなっているのか、私たちはよくしらない。生活にも慣れてきたことだし、この際冒険してみるのもいいのではないだろうか、と思っているんだ」
「わざわざ調べる必要ある? 今のままでも生活に困らないんだから、危険を冒す必要ないんじゃないの?」
確かに島の三分の一くらいしか知らないが……危険を冒して調べる必要は感じない。
冒険より安定を求める女エリー。
「自分たちが住んでいる島のことなのだから、よく知っていた方がいい。生活をより快適にできる何かが見つかるかもしれないし、脱出の手立てがつかめるやもしれないではないか。危険を冒さずして、何も得ることはできないぞ」
「そうやでエリーっち。冒険やッ。冒険編スタートや」
*
てなわけで携帯食料を持って、七人は冒険に出た。
エリーたちが知っているのは島の三分の一ほどだった。
後の三分の二はまだ誰も踏み込んだことのない、未開の地。
今から向かおうとしている場所に、何が待ち構えているのかわからない……。
島の末端には山があり(エリーたちが(主に龍之介が)神々の頂と呼んでいたあの山)左右に森が広がっている。
エリーたちが拠点にしているのは東南方面の岩石地帯である。
岩石地帯を抜けて、七人は比較的歩きやすい森の中を縦に並び進んでいた。
縦に並んで歩いているのは、皆が同時にやられるのを防ぐため。
先頭は隊長で背後はゴリッチ。
この二人に挟まれていれば、安心なはず?
森を抜けて浜辺に出た。
道に迷わないように外側から、グルんと探索をしていくことにする。
みたところこの島は円形だから、道に迷う心配はたぶんないと思うが?
もし道に迷ったら、とりあえず海方向に歩けば一周回って元に戻れるのだ。
浜辺を歩き、岩場を抜けて、ヤシの樹がある一帯を通りしばらく進むと、前人未到の未開の地に踏み込んだ。
未開の地というが、景色は殆ど変わらず新鮮味はない。
拠点を出発して、一時間ほど外角を進んだころだろうか。
広大な岩場に出た。
大きな岩がゴロゴロしており、岩のすき間に溜まった海水の中に色々な生物が住み着いていた。
貝類を食べたいときはここに来れば、大量に取れるな。
森の中に見たことのない果物もあったが、安易に食べるわけにはいかない。
岩場を抜けると今度は起伏の激しい断崖絶壁地帯に出た。
これ以上真っすぐには進めない。
いや隊長やゴリッチなら崖を登ってずんずん行くことができるだろうが、エリーたちのような普通の人間では進めない。
スロープのような坂がないかと探したが、見たところないな。
「仕方ないわね。引き返しましょ」
エリーは振り返っていった。
「この壁面を辿って行ってみようや。壁から離れんかったら、迷う心配ないで」
壁を辿っていくと森に続いている。
「よし、こういう場合は多数決で決めよう。帰りたい人」
隊長は多数決をとった。
エリーと潤弥が手を挙げた。
・・・・・・・・・・・・
「よし決まりだ」
「ちょっと待ってよ……。もう帰りましょうよ……。急ぐ必要ないじゃない。また改めて来ましょうよ」
「そうだぜ。あんまり深入りすると、戻れなくなっちまうよ……」
批判的な二人に対し、冒険派の五人は――。
「まだ昼過ぎだ。日が沈むまでまだ時間があるじゃないか。この際だから行ってみよう」
隊長が言うと「そうやで」とモーリアン。
「面白そ~」
紅。
「この先がどうなっているのか見てみたい」
ゴリッチ。
「新世界に踏み出さずして、未来はない」
龍之介。
どいつもこいつも……。
二人だけで帰るわけにもいかい……。
渋々冒険派のあとに続くことにした。
右側は壁、左側が森の中間を進んでいると、どこからともなくけったいな声が聴こえてきた。
「うッぅ~う~」
この声……どこかで聞いたことがある。
「サクラやッ! この鳴き声はサクラやで」
二十メートルほど先の草むらがガサガサ揺れたと思うと、馬が現れた。
「ちょ、一人で行ったら危ないってッ」
呼び止めも聞かずにモーリアンは一人でサクラに駆け寄った。
「おお、よちよち。元気にしとったか。おまえに逢いたかったんやで」
みながモーリアンに追いつくと、右側の断崖であるものを発見した。
洞窟があり、小サクラが洞窟の中から顔を出していた。
「こんなところに洞窟があるな」
隊長はペンライトを取り出し中を照らしてみると、けっこう深いことがわかった。
「ここで生活しとったんか? それとも道に迷ったんか?」
モーリアンは鬣をわしゃわしゃしながら訊ねた。
「うッぅ~う~」
サクラの言葉がわからない以上、ここで生活しているのか、道に迷っているのかわからない。
エリーがサクラの鬣に触れようとしたときだった。
洞窟の中に入った隊長の声がエコーをかけたみたいに響いた。
「おいッ。みんな来てくれ。とんでもないものを見つけたぞ」
その声を聞いて龍之介とゴリッチが洞窟に駆け込んだ。
さあ、この物語もいよいよ後半に差し掛かろうとしているのであったとさ――。
「前回からかなり経っているけど、エア将棋講座~はっじまぁ~るよ~」
「はい、約束どり、さっさとエア将棋の説明をしてもらって終わらせましょう」
「手取り足取りつかってもらわなくても、口だけで説明して。それじゃあまず、駒から説明してちょうだい。どんな駒からなってるの?」
「大将、騎士、呪い師、荒くれ者、特攻隊長、足軽、右翼の騎馬、左翼の騎馬やで」
「大将は王将で、騎士は金将、呪い師は銀将、荒くれ者は桂馬、特攻隊長は香車、足軽は歩兵、右翼と左翼の騎馬は角と飛車ね。駒の名前が違うだけで、普通の駒じゃない」
「やから、これが正真正銘の将棋なんやって。エリーッちがゆっとる将棋はパチモンやで」
「まあ、ほとんど同じや。真の将棋の方には駒にスキルと攻撃力、体力があるんやわ。体力をすべて減らさんな、駒は打ち取れれへん」
「駒が敵陣営に入ると、クラスチェンジできるんや。一気に駒がつよなって、戦局がガラッと変わるで。中でも右翼の騎馬と左翼の騎馬は最強の強駒や。騎馬がドラゴンや龍になったり、ペガサスやユニコーンになったりするねん」
「その他にも呪い師は魔法使いに、荒くれ者は殺し屋に、特攻隊長は戦車にクラスチェンジできるんやわ」
「とにかく真っ先に大将の首をとったら勝なんやで。これが奥がふこうてな、色々な戦術があるんやわ」
「そうなの。奥が深いのね。もしかしてこの将棋に大会があったりして」
「そうや。プロになるために奨励会で日夜、棋士の卵が育成されとんやん。みんなも将棋のプロ目指して、研究に励むんやで」




