無人島生活34話 い~い湯だなアハハン。い~い湯だなアハハン♪★
船が通りかかったことを知らせに戻った、潤弥は見たッ。
とんでもなく巨大な蛇が拠点にいるのを……。
「ぎゃぁあああぁああぁあああぁッ! 蛇ッぃいいいッ!」
断末魔に似た叫びを上げて、白目を剥き、痙攣しながら背後にバタンと倒れ失神したホスト。
以前にも同じことがあったな?
「大丈夫だから、もう動かないから」
白目を剥く潤弥の頬をエリーは往復びんたを食らわせた。
まぶたを強くつむって、潤弥は細目を開いた。
「あれ……? 俺っちここで何をしているんだ?」
潤弥は上半身を起こして、エリーの背後にいる巨大蛇をまたも見た。
「ぎゃぁあああぁああぁあああぁッ! 何だよッ、あの蛇ぃいいいいぃいいいいッ!」
またも白目を剥き潤弥は失神した。
お約束の展開。
エリーはもう一度強く、往復びんたッ!
目覚めるころには潤弥の両頬は、おたふく風邪をひいた患者のように膨れ上がった。
「あれ……? 俺っちここで何をしているんだ? どうして、頬がジンジンするんだ?」
「虫歯じゃないの」
「虫歯か……。ちゃんと歯は磨いてるんだけどな……。こんなところで虫歯になんてなっちまったら、冗談じゃすまないぜ……」
無人島だからといって歯磨きをサボっているわけではない。
木の枝の先を熱湯に浸し、ふやけた先端を石などで叩くと房ができる。
それを房楊枝というそうだ。
今みたいな歯ブラシがない時代、人々は房楊枝や布で歯を磨いていた、と中二病は言う。
歯磨き粉の代わりに、隊長が作った塩を使う。
歯医者もいない無人島で虫歯になるということは死を意味すると言っても過言ではない。
「よ~く聞きなさい」
念を押すエリー。
「何をだよ……。気味悪いなぁ……」
「とんでもなくデカい蛇がいるから。だけど、もう死んでるから心配いらないからね」
「蛇?」
エリーは潤弥の前からどいて、背後の蛇を見せた。
舞台の幕が上がったように、エリーが退いた目の前には「へ……蛇……」とんでもなく巨大な蛇が倒れていた。
またまた気を失いかけた潤弥の胸倉を掴んで、再び往復びんた。
何とか気を失わずに済んだ。
「ななななななな、何でッ、あんな蛇がいるんだよッ!」
「知らない。だけど他にもいるかもしれないわ。気を付けないと」
「どどどどどどど、どういうことだよ……。危険な動物はいないって言ってたじゃないかッ……! 草食動物に危機感がないから、肉食はいないって言ってたじゃないかッ!」
「あたしに八つ当たりしないでよッ! あたしだってわけわかんないんだからッ!」
「何で逆ギレすんだよッ!」
「知るかッ!」
何故かわからないがギスギスした空気になった。
そこに割り込んだのはボケ担当のモーリアン。
「そう喧嘩せんといてえな。ところで、何があったん? 何か言いたいことがあったんちゃうん?」
衝撃で潤弥はすっかり忘れていた。
「ああ、そうだそうだ! 船が通ったんだよ!」
「ふね?」
「そうだよッ。結構でっかい船だったッ」
「本当に?」
「嘘いってどうするんだよ」
潤弥の反応を見る限り、からかうために嘘をついているとは思えなかった。
だとすると……本当に……。
「その船はどうなったのッ!」
だが潤弥の顔は曇る。
そうか……気付いてもらえなかったか……。
「俺っち必死にSOSを送ったんだけどよ……。せめておまえらだけでも助けてくれるよう必死に助けを呼んだんだけどよ……済まない……」
みんなを見捨ててでも自分だけ助かろうとした男。
さすがホスト!
心の呵責もなく平然と嘘をつく、そこにシビれる! あこがれるゥ!
「別にあんたが謝ることじゃないわ」
そこに隊長が話に加わった。
体を洗い、迷彩服を着こんでいる。
「船はどっちの方角に行ったんだ? 船の向かった先に陸があるということになるぞ」
潤弥は船が向かったという方角を指さした。
北東の方角だ。
「ふむ、そうか。船が造れれば陸地を探して航海にでるという手立てもあるかもしれんが、道具も船を造る技術もない我らでは無理だな」
隊長の発言に潤弥はシュンとうなだれ、「余計な希望を持たせて悪かった……」と謝った。
「謝ることないわ。待っていれば船が通るかもしれないってことだもの。希望が持てるじゃない。見張っていれば、また通るかも」
「ああ、また通るかもしれねえもんな」
なんやかんや色々あった一日だったが、エリーの目的は蛇を倒すことではなかったのは言うまでもない。
「やったぁ――――ッ! お風呂だァ――――ッ!」
アイドルのコンサートに赴いた女子のように、エリーは黄色い歓声を上げた。
「長かった……長かったよぉ……」
テーションが最高潮に達した矢先に、泣き出した。
自律神経が乱高下を繰り返している様子だ。
「やっと……お風呂に入れるぅぅぅぅぅぅ……」
目に涙を浮かべてドラム缶に沸いたお湯を眺める。
もう夜になっているが、周辺にたいまつを置いているおかげで、露天風呂のように映えている。
湖がたいまつのオレンジを反射して、キラキラと輝き、幻想的な空間を生み出していた。
竹のように中が空洞の木を使い、煙突を設置して煙対策もばっちりだ。
さぞお風呂に入りながら、眺める景色は絶景かな絶景かなだろう。
「入る順番だが」
額の汗をぬぐいながら龍之介は言った。
「入る順番ってどういうこと?」
ポカンと訊き返すエリー。
「誰が先に入るか? ということだ」
「そんなのあたしに決まってるじゃない」
「それは公平ではない」
「何でよッ! レディーファーストじゃないのッ」
突っかかるエリー。
「貴様が入った後に、男たちに入られるのと、男たちが入った後に貴様が入るのとどっちがいい?」
何だその気持ち悪い質問は?
よくよく考えてみれば、皆が同じ湯船に浸かることになるのだ。
どっちも嫌だ……どっちも嫌だ……大事なことだから二回思った。
だが辛抱するしかない……。
どちらを選ぼうと地獄なら――。
「あたしが先に入る方がいい」
「そうか、ならあみだくじで決めよう」
「今の質問は何ッ!」
用意周到なことに地面には小さなあみだくじが書かれていた。
「この葉っぱに隠されているところに一から七までの数字が書かれている。これなら、公平だ。文句はあるか?」
ありありだ。
だがこれから毎回、自分だけが先に浸からせてもらうわけにもいかないのだ。
仕方がない……。
「わかった。早くやりましょ」
皆は集りそれぞれが場所を選んだ。
当然だがあみだくじを描いた龍之介が、一番最後に残った場所を選ぶことになる。
「じゃ、うちからやるで」
モーリアンはあみだの線を指先で追いながら、右に行ったり、左に行ったり、斜めに戻ったり進んだりを繰り返した。
書き込みの多いあみだくじだな……。
やっとのことでゴールにたどり着き、かぶさっている葉っぱをめくると――。
「やったで。うち二番目やッ」
小躍りしながら喜ぶモーリアンとは対照に、エリーは地面に崩れ落ちた。
二番目を取られた……二番を取られた……大事なことだから二回思った。
続いて潤弥。
「チッ、四番かよ……」
次々行きます。
ゴリッチ。
「僕は五番目だ」
カバー隊長。
「クッ……六番だ……」
これで四人が決まったことになる……。
出ていないのは一番、三番、七番……。
龍之介と、紅、エリーの三人。
「じゃあ~わたし~行くね~」
ゴクリ、固唾をのみ込むエリー……。
紅はじらすようにゆっくりと指を這わす。
早くしてくれよ――、湯が冷めちまうよ……。
「あ~、私は三番だ~」
だとすると……残すは……七番と一番の二択……。
何だこのバラエティー番組でよくあるような展開は……。
「さあ、エリー。貴様の番だ」
「わかってるわよ……」
最後に入るか、一番に入るかがかかっているのだ。
こんなデスゲームがあるか……?
※ たかがお風呂に入る順番を決めているだけ。
「これに決めた」
エリーは一番端を選んだ。
龍之介がニヤリと笑った。
なぬ、何だその笑みは……。
どっちの笑みなんだ……。
あたしを惑わせているだけなのか、勝利の笑みなのか……。
「ファイナルアンサー?」
「ゴクリ……ファイナルアンサー……」
だが自分の幸運スキルを信じるんだ!
誰もがエリーの指先を固唾を飲みながら見守った。
※ たかがお風呂に入る順番を決めているだけ。
ザワザワザワザワ、誰もが固唾を飲み見守った。
賭博黙示録的な空気……。
誰よりも先にお風呂に入りたい。
その思いを一心に秘め、エリーは今ッ! 今ッ! 今ッ! 葉っぱをめくるッ!
そこに刻まれていた刻印は、縦に一本の数字ッ。
「うおおおおおおおッぉおおおおおッ!」
エリー、歓喜の涙。
エリドリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁンッ!
「おめでとう」
「おめでとう~」
「おめでとやで」
「おめでとさん」
「称えてやろう」
皆からおめでとうの拍手。
このまま、おめでとうENDに突入か。
涙を流しうわずる声で応じるエリー。
「みんなぁ……ありがどう……本当にありがどう……」
※ たかがお風呂に入る順番を決めているだけ!
というわけで念願のお風呂にエリーが一番で入ることになったのであったとさ――。
「い~い湯だなアハハン、い~い湯だなアハハン♪」
湖に浮かぶ月を眺め、エリーは最高の幸せを噛みしめたのであったとさ。
めでたしめでたし――。




