無人島生活35話 究極のエア将棋ッ!
無人島生活をはじめて、早くもひと月が過ぎた。
こんな意味わからん生活がはじまった日から比べると、肌寒くなった今日この頃。
季節の移り変わりがウサイン・ボルトが走り去る並みに速く感じられた。
冬に備えて準備は万端だが……不安は拭い去れない……。
動物たちは新たに見つけた洞窟に収容した。
羊たちから取れたウールで毛布も作った。
食料と薪の貯蓄もある。
洞窟内でも焚火ができるように、中が空洞の木の幹を使って通気性もばっちり。
成せばなるもので、冬ごもりの準備も順調に進んでいた。
あの日から巨大蛇にも遭遇していない。
冬眠の時期に入ったのだろうか?
だが、巨大蛇はいったいどこから来たのだろう?
いつ蛇の襲来があっても大丈夫なように何か所も落とし穴を作り、そのとなりに岩を設置したりとやられてばかりではいられない。
はじめは手いっぱいで暇を持て余す時間もなかったが、無人島生活に慣れてくると、一日が暇になるものである。
「何やってるの?」
洞窟の前庭には一枚板で作ったテーブルが設置されている。
椅子も木をくりぬいて作った、一枚板の椅子だ。
自給自足の毎日だが、生きているという実感が半端じゃない。
これぞサバイバル。
「何って見てわからんか?」
モーリアンとゴリッチは対面する形でテーブルの両側に座っていた。
二人の表情は真剣そのもので、テーブルの一点を凝視していた。
「『見てわからんか』って、見てわからないから訊いているんじゃない」
真剣な顔で何もないテーブルの一点を眺めているボケとゴリ。
見てわかれと言うのは鬼畜の所業と思わないか?
「将棋やってんねん」
「将棋?」
「そうやで、エア将棋ってやつやわ」
誇らしげに胸を張るボケとゴリ。
「へ~、すごいわね。エア将棋か。それ宇宙姉妹で見たことある。エアそろばんとか、エア将棋。つまり、二人には将棋盤とか駒が見えてるの?」
「当たり前や。気が散るからちょっと黙っといてえな」
腕を組んで真剣な顔で何もないテーブルの一点を見つめるボケ。
このおバカ二人がそんな高レベルのゲームをしているとは、世も末だ。
以外と酷いことを思うエリーだった。
「どっちが勝ってるか解説してよ。暇なのよね」
モーリアンのとなりにエリーは腰を下した。
「ええで。今勝ってるのはうちや。実況したるわ」
言ってモーリアンは何もないテーブルの上に手を伸ばし、「昇竜拳ッ!」と叫びエア駒を動かした。
・・・・・・・・・・・・
違くね?
「……ちょっと待って……」
「何やねん。気が散るからあんまり話しかけんといてえな」
「昇竜拳って何?」
「右翼の騎馬が龍になって、駒の横を通り抜け足軽を討ち取ったんや」
・・・・・・・・・・・・
誰もが思っただろう……ルール違くね?
「あんたたち本当に将棋のルールわかってるの?」
「そんなもん知っとるわ。口挟むんやったら解説したれへんで」
納得いかないが暇だし、ここはおとなしく見ていようとエリーは思った。
続いてゴリのターン。
ゴリッチはエア盤上に指をかけて、何の駒かわからないがフェイントするように駒を動かした?
「三弾撃ち」
・・・・・・・・・・・・
誰もが思った……やっぱり違くね?
「何やと……そんな手があったんか……」
ゴリのすごさを説明するためなのかボケは大袈裟に驚いていた。
そのすごさをエリーにわかるようにボケは説明する。
「今、ゴリッチが足軽らあをローテーションさせて、うちの牙城を攻撃しよった!」
「もはや将棋じゃないじゃん」
「うちのターンやッ。うちは天馬でゴリッチの弓兵を討ち取るッ」
「クッ……。僕のターンッ。僕は魔法使いの効果で右翼の騎馬を敵陣に召喚! 魔法使いは駒がクラスアップした状態で召喚できる。つまり右翼の騎馬は竜にクラスアップッ。クラスアップした竜で、敵陣の左翼の騎馬を攻撃ッ。竜牙喰斬ッ!」
「ぐッ……。たかが左翼の騎馬一体を取ったくらいで図に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁッ! うちのターンッ。うちはもう一体の左翼の騎馬で一気に相手陣地に突撃やッ」
どっちがどの駒を待っているのか、当然エリーは知る由もない。
「何……騎馬一体で攻め込んで来るだと……。そんなの自殺行為だ……」
「ククク、うちの攻めはそんな甘っちょろいものやないで! このまま大将の首を取ったるッ」
「まさか……。一ノ谷戦術だとぉぉぉぉぉぉッ」
「そうや。鹿も四つ足、馬も四つ足やッ。左翼の騎馬で一気に王の首を取るッ」
「フフフ、掛かったなッ」
「なに……」
「君の考えは読んでいた。僕は大将の背後に控えさせていた側近、殺し屋が相手するッ。殺し屋はいつどこのマスに現れるかわからない、神出鬼没の駒だぁぁぁぁぁぁぁ!」
「何……いつの間にそんな兵を……。だが、パワーで騎馬に勝てると思ったかッ。一時の時間稼ぎにしかならないんやッ。左翼の騎馬で殺し屋の首を取るッ!」
「わずかな時間が稼げればよかったのさ」
ゴリッチは待っていたと言わんばかりにニヤリと笑った。
「何やと……」
「さらにさらに呪い師が背後に控えているのさ。呪い師の能力ッ、英霊召喚。討ち取った騎馬を召喚し、相互相打ち」
「なにぃいいいいぃいいいい……」
「英霊召喚は相手ターンでも行える。そして、僕のターンだ。僕は竜で相手の大将を取る。これでチェックメイトだッ。殺消滅裂破ッ」
「ぎゃぁあああぁああぁあああぁ……」
ボケは椅子から吹き飛ばされた。
「で、この勝負はどっちが勝ったの?」
「ゴリッチや」
「今のなんてゲームなの?」
「将棋や」
「喧嘩売ってんのか? 将棋じゃねえよッ。ルール改変し過ぎだろッ。もはや別のゲームだよッ」
まくし立てると二人は顔を見合わせて、同時にエリーを見た。
「ほんまなん……うちらがしてたやつは将棋ちゃったん……?」
「あんたら、どこでルールを覚えたのよ……」
「奨励会ってところでや」
「どこの奨励会だッ!」
駄目だ次から次へとツッコミだしたら切りがない……。
「エリーっちも一緒にやるか、エア将棋」
「それ将棋じゃないよ。恥ずかしいから人前ではやらないでね」
不満がありそうにモーリアンは頬を膨らませた。
「そんな意味のわからないゲームじゃなくて、もっと他のことしましょうよ」
「ほんなら、海で泳げへん」
「泳ぐ? 海で?」
エリーに迫ってモーリアンは首をブンブン振った。
「そうやで、もうじき寒うなるし、泳げるのは今だけやで。思えばこんな海が近くにあるゆうのに泳いだのは飛行機が不時着したあの日以来ないやん。ゴリッチは別としてやで」
「海水浴か。うん、それいいかもね。泳いでみたいかも。だけど水着ないし」
そのとき癖が強い笑い声と共にやつが現れた。
「フフフ、我を呼んだかッ!」
どこからともなく突如現れる神出鬼没の中二病。
「いや、呼んでないから」
「なに? 水着がないとな」
「話がかみ合ってないんだけど」
「水着ならいざというときのことを考えて用意しているぞッ」
「いざというときってどんなときだよ? てかこっちはまだ何も言ってないんだけど」
龍之介は背後に隠していたものをテーブルの上にドンと置いた。
「これは……」
「水着だ。砂浜に打ち上げられていた貝殻で作ったッ!」
テーブルの上に置かれた伝説の貝殻水着……。
白色の貝殻のもあれば、ピンクや黄色のカラフルな色のもある……。
「男どものはこれだッ!」
続いて投下された男水着ッ。
樹の皮を束ねて作った腰巻。
「いや……さすがにこれは……」
渋るエリーとは対照的に、「おおおおおおおおお、これが伝説の貝殻水着かいな。ええやん。早速泳ぎ行こうや」とモーリアンは乗り気だった。
そのテーションの上げようには有無を言わさぬ力があった……。
「よし、それではみなで泳ぎに行こう」
かくして今日はみんなで海水浴をすることになったとさ~――。
「そんなんじゃないわよ。ただ単に創造神がめんどくさがって作っていないだけ」
「そう、しょうもないけどわかってあげて。ストーリーに関係ない最後のコーナー作るの意外にめんどくさいのよ。本編やったと思ったら、おまけコーナーでしょ? おまけだからといって切りのいいところまで、あたしたちにしゃべらせたら、結構長いじゃない。疲れるのよ」
「そういうことね。で、さすがに何周もおまけがないのはまずいかな~……という理由でこのコーナーが設けられたのよ。何にも語ることないけど、無駄話でつないでくれって」
「何でもない。それじゃあ、あなた達が今週やっていたエア将棋じゃないゲームのルールでも教えてよ。それでかなり文字数が稼げるわ」
「いいよ。競技人口が増えるのは嬉しいしね。このさいみんなにも将棋のルールを教えてあげよう」
「将棋を冒涜しないで。あれは将棋じゃない。てかゴリッチどっから登場したの?」
準備体操といわんばかりに、シャドウをするモーリアン。
今から何をおっぱじめようとしてんだよこいつ?
そのときピピピピピと警告アラームがスタジオに轟いた。
スピーカーから間延びした聞き覚えのある声が乾いた空気を響かせた。
まあ、誰がこんな将棋じゃないゲームのルールなんて知りたがるんだって感じ、と心の中で思ったエリーなのであったとさ――。




