無人島生活33話 友情、努力、勝利ッ!★
間の悪いことに……どうして今帰ってくるのか……。
龍之介は鬼気迫る鬼の形相で、紅に叫んだ。
「逃げろッ!」
だが紅は龍之介の言っている意味がわからないのか、緊張感のないニコニコした微笑みを崩さずに小首を傾げた。
「声が怖いよ~。どうしたの怖い顔して~?」
「見ればわかるだろうッ!」
前方に鎮座する山のように大きな蛇を見ても、紅は緊張感の微塵も感じられない声で答える。
「わたし~けっこう蛇~好きなんだよね~。可愛いよね~蛇~。首に巻きたいな~」
「巻けるか! そんなのんきなこと言っている場合かッ! すでに二人が喰われているんだぞッ!」
そこで龍之介は不思議に思う……。
どうして蛇は襲ってこない?
目の前で蛇は固まったまま動かなくなっている……?
紅は蛇に歩み寄った。
するとッ、蛇は何だか苦しそうに体をもぞつかせているではないかッ。
いったい何が起きている?
海をたゆたう海藻みたいに蛇は頭を振り乱し、暴れはじめた。
正にディオニューソスの狂気に触れた、信者のようだ……。
体を地面に叩きつけて、目には見えない何者かと闘っているかのようだ。
まさか! 紅のベアーズモノクロームの能力か!
「どうしたの~? 蛇さん何で暴れてるの~」
え? 違うの?
じゃあなぜ……わからない……?
いったい何が起こっている……?
蛇は体を岩にぶつけ、地面にぶつけ、地をのたうち回り、苦しみを称えた表情をしていた。
(苦しいシャー苦しいシャー、オスザル二匹を食べて食中毒を起こしたんだシャー……!)
地響きが起こるほどに、蛇は自分の体を傷つける。
腹ばいになった蛇の、白い腹に一筋の亀裂らしきものが入る。
羽化する直前の蛹ような亀裂。
亀裂は段々広がり続けている。
もしかして……。
亀裂のすき間から銀色の鋭い輝きを放つ、牙が突き出したッ!
信じられない……腹の中でも――生きていたッ。
ナイフは蛇の白い腹を切り裂いてゆく。
マムシの子供は親の腹を喰い破って出てくるという話を聞いたことがあるが、正にその光景を体現させたかのように見えた。
どれほど外皮を鍛えようと、体内だけは鍛えることはできない。
腹の中は鎧を身に着けていない生身も同じ。
生肉を包丁で切り開くように蛇の腹はパックリと開き、そのすき間に両手が挟み込まれた。
後は力尽くだった。
肉と皮をはぐように、肉と肉を開く。
蛇の開いた腹の中に、四つのギラリと光る眼光を見た。
「ゴリッチ……カバーッち……」
モーリアンは緊張感の限界に達し、一周回って間の抜けた声を出した。
開いた蛇の腹から、ベトベトズルズルの液に包まれた二人がはい出てきた。
呆然とする龍之介。
涙を浮かべて喜ぶモーリアン。
ニコニコ不気味に微笑む紅。
三者三様の様相を呈する三人なのであった。
蛇は腹を引き裂かれても生きている。
ゴリッチは虫の息になった蛇の首を取り、つぶやいた。
「ごめんな。楽しかったよ」
悲しみに湿った声。
ゴリッチの両腕の筋肉が盛り上がり、静脈が浮き出る。
ドクンドクン、静脈が脈打ち蛇の首にめり込んだ。
蛇は苦しそうな表情を見せたが、それも一瞬のことですぐに穏やかな表情になった。
突然の急展開に龍之介の思考は一時停止する。
蛇は死んだふりをしているのではなく、本当に死んだのだ……。
「いったい……? 何があったんだ……?」
龍之介は思考を整理しながら立ち上がった。
「みんな、ごめん……心配かけて。僕がもっとしっかりしていれば、こんなことにならなかったのに……」
素っ裸のままゴリッチは前を隠そうとしなかった。
「隊長に起こしてもらったんだ」
ズクズクベトベトの隊長は胸を張り、褒めて褒めてという子供みたいな顔をしているが今は無視。
「私だけの功績ではないよ。モーリアン君がゴリッチ君を呼んだから目覚めたんだ。でなければ目覚めなかっただろう」
「うちのおかげか?」
「ああ。そうだ」
「そうだよ」
ズクズクベトベトの隊長とゴリッチはうなずいた。
ゴリッチの方は前丸出しの素っ裸状態でた。
黒いモザイクが入っている。
「だけど、どうしてこんなアナコンダみたいな蛇がこの島にいたんだろう?」
顎に手を添えて頭を捻るゴリッチ(前丸出し)。
「他にもこの蛇のような化け物がいるということになるぞ」
「うん。気を付けないといけないね。遠くに行くときは、何人かのチームで行動しなきゃダメだ。迂闊だった……」
真面目の顔でゴリッチは言うが、前は丸出し。
「蛇~死んじゃったんだね~……」
残念そうに倒れた蛇をなでる紅。
「ペットにしたかったな~……」
この中で一番ヤバイのは紅かもしれない……。
「やけど、よかったで。今回ばかりはゴリッチと言えども死んでもうたと思ったもんな……。ゴリッチぃいいい」
モーリアンは涙を浮かべて、ゴリッチに抱きついた(前丸出し)。
絵面がかなり際どいが、許してくれ……。
「よかった……。本当によかった……」
崖の上にいたエリーはみなの下にたどり着いた。
エリーも目に涙を浮かべて、喜びに震えていたが、抱きつきまではしなかった。前丸出しでなかったとしても。
「ひと悶着あったが、貴重なたんぱく質を手に入れることができた。当分は食料の心配しなくていいな。燻製にして保存もできる。蛇は珍味なのだぞ」
隊長の言葉に、エリーはやっぱりか……と思った。
そりゃあ、そうだよね……。
貴重な食料だものね。
無人島生活をはじめてエリーは人間的に成長していた。
はじめは食べる物にもうるさかったが、今では我慢してでも食べるようになった。
それが奪った命へのせめてもの償いだから。
みなが友情、努力、勝利の喜びに沸いていたころ、ホストやれでおなじみの潤弥はというと――。
「あああぁあああああぁあッ! クソがッ! クソッたれッ! 俺っちだけでもいいから助けろよッ! 他の奴らはどうだっていいッ。俺っちだけは助けろよッ! 三百円あげるからッ」
ゲス……ゲス過ぎるッ!
そこにシビれる! あこがれるゥ!
皆が友情、努力、勝利の喜びに浸っている中、夏の甲子園に敗れた球児のように、砂浜の砂を握りしめてゲス発言をするホストなのであったとさ~。
「クソったれェえええええぇえええええッ―――――――! 三百円やらないからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




