無人島生活32話 無能な中二病
隊長と大蛇の死闘が繰り広げられた一方そのころ、ホストやれでおなじみの潤弥は、地平線に見える船にSOSを送っていたそうな~。
「おおおおおおぃぃぃーッ! ここだッ! 俺っち達はここにいるッ! 助けてくれぇえええええええッ!」
かなり大きな船だった。
大きな煙突が三つ、マンションのようにガラス張りの窓。
「おいッたらッ! 待ってくれッ、行かないでくれ。俺っちを置いて行かないでくれッ! 俺っちはまだ死にたくないんだッ! まだやり残したことがあるんだッ! 俺っちだけでも助けてくれッ! 俺っち一人を助けてくれッ! 行くなったらッ! 百円あげるからッ! カムバ――――ックッ!」
言動はゲスそのもの。
そこにシビれる! あこがれるゥ!
四つん這いになり届かない船に手を伸ばす姿は、時代劇とかで見るあれだ。
モクモクと黒い狼煙が上がるが、船は太陽が海に沈む地平線のかなたに沈んでいった――。
はい、本編の蛇騒動に戻る。
蛇の体に二つ目のこぶができた。
満足げにげっぷをする蛇。
(シャーシャーシャーシャー、ミーの勝ちだシャーッ! 手ごわそうなサルはもういないシャーッ! ミーは無敵なりッ!)
すぐ隣で尻もちをついているモーリアンは、腰が抜けて動けなかった。
にょっと腰を抜かしたモーリアンを睨む蛇。
(このサルは肉が柔らかそうで、美味そうだシャー。邪魔するサルはもういない。よ~く味わって、丸呑みにしてくれるシャー)
勝ち誇り満悦の蛇は満面の笑みを浮かべた。
舌なめずりをして、体をメスザルに向ける蛇。
ズルズルと重くなった体を引きずり、蛇はメスザルに迫ったそのとき。
となりで立ち尽くしているだけだった、もう一匹のオスザルが蛇の前に躍り出た。
(ミーに立ち向かう気かシャー? 戦闘力五、今闘った二匹のサルよりも低いカスだシャーッ!)
蛇に立ち向かう気など龍之介には、はなからなかった。
蛇との戦闘力の差などわかりきっている。
わざわざ勝てない相手に立ち向かうほど龍之介は愚かではない。
龍之介の目的は蛇の視線を一瞬でもいいから、眩ませることッ!
後ろ手に握っていた砂利を蛇の顔に向けて、フルスイングした。
どのような動物だろうと、顔をかばおうとするのは本能に刻み込まれた自然な動作。
蛇とて例外ではない。
どれだけ蛇の体が鋼鉄で覆われていようと、目だけは鍛えることはできないのだ。
蛇は反射的に目を反らした。
その隙に龍之介はモーリアンを横抱きにして、その場から距離を取る。
蛇はすぐに追いかけるが、二匹のサルを体内に取り込みスピードが格段に落ちている。
モーリアンを横抱きにして、逃げる龍之介の後を蛇は追いかける。
龍之介は岩石地帯の巨岩のすき間を縫うように進んだ。
だが、蛇とて馬鹿ではない。
同じ轍など踏まなかった。
「龍之介っち……。もう大丈夫やから、下してえな……」
「嘘を言うな。隊長に押されたとき足を捻ったのであろうが?」
その証拠にモーリアンの足首は少し腫れているように見える。
龍之介でなければわからないほどだが。
「大丈夫や。下して」
ただの強がりでしかない。
下せばどうなるかなど想像力を働かせるまでもなくわかる。
「この状況で下せるか。少し辛抱しろ」
いつも笑顔を絶やさないモーリアンの顔は深刻に歪んでいる。
「どないしたらええんや……? 隊長もやられてもうて……。うちのせいや……」
(※ ゴリッチがやられたのはエリーのせい)
「今は嘆いている場合か。嘆く前に考えろ。思考を止めるなッ」
龍之介は思考を止めるのを辞めなかった。
人間の武器は思考力にある。
考えるのを辞めた時点で戦いを放棄したことと同じ。
考え続ければ打開策があるはずだ。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろッ!
だが、勝算が見えない……。
隊長がいれば、巨岩を蛇の上に落とすこともできただろう……。
しかしエリー、モーリアン、自分の筋力ステータスだけでは……。
巨岩は動かせない……。
しかもモーリアンは足をねんざしている。
蛇の動きが鈍っていると言っても、こちらもモーリアンを抱いている以上、距離が広がるわけではなかった……。
このまま走っていれば、追いつかれるのは目前……。
岩石地帯をグルグル回っているだけでは、こちらの体力が先に尽き追いつかれる。
かと言って、直線では確実に追いつかれてしまうだろう……。
「このままやったら追いつかれるでッ。うちを下して、龍之介っちだけでも逃げてえな……」
モーリアンを見捨てれば、自分だけは助かるだろう。
だが問題の先延ばしにしかならない。
自分だけ逃げたとしても。
「我を馬鹿にするなッ! 部下を見捨てる魔王など失格だッ!」
「誰が部下やねん。誰が魔王やねん。魔神ちゃったんか」
龍之介の体力もすでに限界に迫っていた。
足がもつれるか、何かにつまずくかして倒れるのは時間の問題だっただろう。
龍之介は所かしこに落ちている砂利に足を滑らせ倒れた。
モーリアンは龍之介がかばったおかげで怪我はない。
その光景を崖の上で傍観していたエリーは、何もできない自分の不甲斐なさに下唇を強く噛みしめていた。
モーリアンを背中に押しやって、かばう龍之介。
ジリジリと迫る蛇。
すでに二人の大男を喰らっているというのに、蛇の腹は底知らず。
もっと自分に力があれば……。
力が欲しい……仲間を守れる力が欲しい……。
だがクロノスは龍之介の問い掛けには答えなかった。
「ゴリッチぃぃぃぃぃッ! 起きろぉぉぉぉぉッ!」
モーリアンの声は島中に響き渡り、海の彼方まで届いただろう。
クッ……もはやこれまでか……。
中二道とは死ぬことと見つけたり……。
龍之介が覚悟を決めたそのときだったッ!
蛇の動きはピタリと止まり固まった。
いったい何が起きたんだ……?
蛇は二人の背後を見つめて固まっている。
蛇の視線に惹かれ、二人は背後を振り向いた。
そこには古井紅が立っていた。
「どうしたのどうしたの~。大声出しちゃって~。その蛇~なあに~?」




