無人島生活29話 予測不能な奴=トリックスター→★
「可哀想に……エリーッちもとうとう、ここの生活に耐えかねていかれてもうたか。大丈夫やで、うちがおるから、何も心配することあらへん」
モーリアンは慈愛に満ちた声で言った。
「あんたがいるから心配なのよッ。てか、今それどころじゃないんだって……。ゴリッチが巨大なアナコンダみたいな蛇に喰われたのよッ。その蛇があたし達を追ってきてるのッ」
「幻覚だけやのうて被害妄想もか……末期やな」
「だから本当なんだってッ」
詳しく説明している余裕はなかった。
龍之介が割り込み、「本当だ。だから、とにかく我の話を聞け」と言うと「ホンマかいな。巨大蛇がおるん?」とモーリアンはあっという間に手のひらを返し、信じた様子。
「おいこら待て。何であたしの話は信じなくて、この中二病の話は素直に信じるだよ? 逆でしょ、逆ッ」
「日頃の行いが悪いから信じてもらえんのんやで。オオカミ少女ってやつやわ」
「それを言うならオオカミ少年でしゅうがッ。てか、あたしが嘘ついたことあった? この中二病――」
話している途中に、龍之介が大きな声で割り込んだ。
「今漫才している場合かッ!」
普段声を荒らげない人が突然声を荒らげると、とんでもない威力がある。
今まで騒いでいた子供たちが、授業時間になり先生が教室に現れたとき並みに、シ~んと静まり返った。
「いいか、時間は残されていない。皆で協力して、この崖の上にある巨岩を蛇に落とす」
この場所にいるのはエリー、モーリアン、隊長、龍之介の四人だけだった。こんな一大事に紅と潤弥はどこに行ったのだろうか?
潤弥は多分浜辺で船が通らないかを見張っているのだろうが、紅だ。
まさかこんな危険生物がこの島にいるなど……。
いると知っていればみな別行動など、絶対にしていない……。
「隊長と我、奴がれは崖に登り、巨岩を落とす準備をする。アン貴様は蛇を引きつけてくれ」
・・・・・・静寂が一瞬帳を下す。
「ちょっと待ってえな? どういうことや?」
「おとりだ。あそこの崖の下で何とかして、足止めしてくれ」
・・・・・・二度目の静寂。
「ちょっと待てッー! 何でうちがおとりなん? うち女の子やでッ」
「この状況で女も男もない。適材適所を選んだまでだ。それに貴様は芸人だろ。体を張ってなんぼの商売だ」
「それは職業差別やッ! 体を張って野生動物を相手するのはごく一部の芸人や。うちはそのキャラちゃうッ! 適任役ならバカ隊長やエリーっちもおるやん」
「隊長は駄目だ。巨岩を押すのに彼の力がいる」
「じゃあ、エリーっちでええやん」
「いや、このステータスを見ろ。エリーの筋力はC+、貴様はC。これを見ても明らかだろう、少しでも、筋力がある方が岩を押すべきだ。それに、着様は幸運が高い。その幸運で何とか生き残れる方に我はかける」
龍之介はいったい誰が作ったかわからない、プロフィールを具現化させて指示棒片手に解説した。
「わかったな。今はご都合主義で蛇が来ていないが、諦めずに追ってきているのなら、すぐ近くまで迫っているだろう。我々は崖に上がる、あの場所で足止めをするんだ。いいな」
言い捨てて、龍之介たちは駆け足にスロープを登りはじめた。
ここはどこだ……。
俺様は何をしている……。
身動きができない……
まるで母親の胎盤の中みたいだ。
とても落ち着く。
とても温かい。
とても静かだ。
どうしてここにいるのだろう?
ここはどこなのだろう?
確か俺様は……何をしていた?
意識がまどろみ何も想い出せない……。
とても大切なことをしていたはずなのに……。
想い出せない……。
胎盤の外でガヤガヤと音がする。
「ゴ……チ……オ……ロ……。ゴ……――オ……」
この音は何だ。
とてもうるさい……。
もう少し寝かせて……くれ……もう少し……。
崖の上で手が上がった。
あそこに巨岩が見えるから、つまりここに落ちてくるというわけか。
なるほどやで。
鋼鉄のハートを持っているモーリアンですら、一抹の不安を感じずにはいられなかった。
潤弥がもしこの場にいたら、泡吹いて失神していたことだろう。
それを思うとこの場所にいないのは幸いかもしれない。
この場所に足止めしろと言っても、どうしろってゆうんや?
モーリアンは考える葦となる。
相手は蛇、うちの笑いが通用するとは思えへん。
さて、どうしよか?
こんなときあのホストがいれば、おとりのおとりとして使ってやるのに……。そのとき前方の草むらがガサガサと揺れた。
噂をすれば影。もしや、ホストが絶妙なタイミングで帰って来たんかッ、と希望の光が差した。
だが、そのようなご都合主義が何度も続くはずがない。
にょろにょろと長い舌を出し入れしながら現れたのは、モンスターだった。ある意味、ご都合主義的なベストタイミングで現れた蛇。
ドッキリちゃったんやな……ハハハ……。
崖の上を見上げると、エリーたちが手振りで大蛇の襲来を知らせる。
わかっとるわ、ここからでも見えてるねんッ。
失敗したらどないするつもりや?
もし失敗しようものなら、毎日のように枕元の現れてやるで……。
モーリアンは崖の麓に立っていた。蛇がモーリアン目掛けて真っすぐに来れば、上から巨岩が落ちてくる予定になっている(成功すれば)。
そんな上手く行くものだろうか?
蛇の上にそうそう上手く落ちるわけがない。
モーリアンの危機察知能力が、絶対に失敗すると告げている。
蛇はにょろにょろと蛇行しながら、草むらから躍り出て顔を上げた。
20メートルほど離れているが、その巨大さはありありとわかる……。
崖の上ではエリーがサインを送っていた。
モーリアンは崖の上を憎々し気に見上げた。
うちの幸運があれば何とかなるッ。
モーリアンは意を決して、地面に落ちていた小石を掴み蛇に向けて投げた。小石は蛇に到達するまでに力を失くし落ちる。
何度か小石を投げ、蛇はモーリアンの存在に気付いた。
シャーッ。二本の鋭く伸びた牙をむき出しにして、蛇は威嚇した。
警戒しているのか、ゆっくりと地面を泳ぎ蛇はモーリアンに迫る。
胴が膨れ上がり、明らかにあそこにゴリッチがいるとわかる。
そのときモーリアンはあることに気が付いた……。
もしこの作戦が成功すれば……。
思い至らなかったが……岩を落とすということは、ゴリッチを押し潰すということではないか。やっとモーリアンは理解した。
エリーっち達がそのことに気付いていないわけあらへん……。
ゴリッチもろとも殺すつもりなんか……?
いったい何を考えとん……?
仲間やろ……。
みんな揃って島を脱出しよう、誓ったやろ……。
自分で気が付いたときには、足が動いていた。
モーリアンは崖の麓から離れて、蛇の注意をひきつけた。
モーリアンの予測不能の行動に、龍之介の蛇に勝つ唯一の計画が狂った。
龍之介の頭からすっかり忘れられていた。
モーリアンは予測不能な奴だったと――。
「今回もほんまはこのコーナーなかったんやけど、急遽特別コーナーや!」
「それがな、心のやさしい人が評価ポイントを入れてくれたねん。これはお礼をいうしかないやろ」
「まさか、そんなことで急遽おまけを増やしたわけ……? やめてよめんどくさい」
「ひと手間かけて評価してくれたんや。こっちは二手間も三手間もかけて誠意を伝えんなあかんのんや。読者様は神様や! 施されたら施し返す、恩返しです!」
「まだ、半沢ネタにしがみついてんのかい。だからって、評価入るたびにいちいちお礼言うつもり? 連続で評価入っらどうするの。体力持たないわよ」
「そんなこと心配せんでも大丈夫や。絶対そんなことないさかい」
「・・・・・・ああ、それはそうね……。それはそれで悲しいわね」
「やから、何か恩返しせんなあかんな。こうなったら、エリーッちにひと肌脱いでもらって、お色気してもらおうか。男ら喜ぶで」
「何でやねん! あんたが一肌脱げよ! てか、一肌脱ぐって本当に服を脱ぐって意味じゃないからね」
「誰が喜ぶんじゃ! ただのボディビルディングショーじゃねえか! ゴリッチは一肌どころじゃなくて、全部脱いでるから!」
「ゴリッチ一人では引きが弱いか。ほんなら、カバーッちとゴリッチの絡みや! これなら高視聴率間違いないで!」
「どんだけマニアックな読者をターゲットにしとんじゃ! せめて潤弥と龍之介でしょ」
「わかった。これは百合しかないってことやな。エリーッちとうちが――」




