無人島生活30話 隊長の覚醒★
崖の上で中二病が何かを叫んでいるが、モーリアンには聴こえなかった。
作戦に逆らい崖を離れて、モーリアンの方が中二病よりも大きな声で叫んだからだ。
「ゴリッチッ! 眠ってる場合やないでぇッ!」
モーリアンの大音声が龍之介の声をかき消した。
蛇は突如動いたモーリアンに目標を絞り、地を泳ぎながら迫る。
「何をやっているッ! 早く戻るのだッ!」
崖に身を乗り出して、喉がはち切れそうなほど大きな声で叫ぶ龍之介。
いつもふざけている(本人は本気)龍之介がここまで真面目に支持を出しているとは驚きだった。
走り回るモーリアンを見てエリーも気付かされた。
やはりゴリッチを見殺しにはできない。
少年漫画みたいな友情論に訴えられたのではないが、仲間を失いたくはないッ。ゴリッチのためではない、だって後々、自分の気が咎めるものッ!
「やっぱりあたし協力できない」
「いまさら何を言い出すんだ」
「ゴリッチはまだ生きている。あの超人が簡単に死ぬわけないじゃん」
「このままあの蛇の餌食になりたいかッ」
「なりたくないわよッ。だからゴリッチをどうにか助けるんじゃないッ」
言っていることが矛盾だらけなことは、自分でもわかっている。
今までも矛盾をこの強気で押し切って来たのだ。
ここで引いたら女が廃るッ。
女の強気をなめんなよッ!
「だから、どうにかしなさいよッ」
龍之介は思った。
言っていることが無茶苦茶じゃないかッ!
崖の下ではネズミのようにすばしっこく蛇をかわしながら、モーリアンが叫んでいた。
龍之介は石斧を握りしめて、「どうにかしてやろうではないか。我に不可能はないッ」と言ってスロープを駆け下りた。
「エリー君。私に任せなさい。グリンベレーの実力をとくと見ているのだッ」
隊長はほぼ直角の壁を飛び降りた。
死んだんじゃね?
「ゴリッチッ! 眠ってる場合やないでッ! 百獣の王なんやろッ! こんな蛇に負ける男やないやろッ!」
蛇が仕掛けた攻撃を、モーリアンは紙一重でかわしている。
これも幸運スキルがなせる業。
だが、このままでは二人が参戦するまで持つか……。
ほんの数秒でいい、時間を稼ぐのだ。
エリーは地面に落ちていた、ゴルフボール大の小石を拾って、蛇に向けて投げた。石は綺麗な楕円を描きながら宙を飛び、モーリアンの頭の上をかする。
「何しとんやッ! おまえは蛇の手先かッ! この機会にうちを始末する気かッ!」
走りながらクレームを上げるモーリアン。
「ごめん……。蛇を狙ったのよッ……」
もう一度石を拾い蛇に向けて投げるが、またしてもモーリアンのすぐ横を切り裂く。
「やっぱりやッ! エリーっちは事故に見せかけて、うちを殺す気なんやッ!」
そのとき蛇の尾がモーリアンの足を払った。
足を払われたモーリアンは教科書に記載されそうな、綺麗なこけ方でこけた。モーリアンに迫る蛇……。こころなしか蛇の表情が卑猥に見える……。
「我の石斧叩き落としを受けてみよッ」
中二病が力の限り振り下ろした石斧は、蛇の鱗に弾かれた。
どういうことだ……。
蛇の鱗とはこれほどまでに硬いのかッ……。
まるで石の防具を全身にまとっているかのように硬質だった。
モーリアンに向けていた視線を龍之介に移し、威嚇の声を上げる。
高級耳栓を付けていない龍之介は一瞬怯んだが、すぐにその減らず口を開く。
「フフフ、我が相手をしてやろうッ」
パーカーとスエットパンツという装備で、バジリスクに挑む無謀ぶりだった。もっと簡単に言うなら、木の棒、ぼろいローブ、皮の靴で魔王に挑むようなもの。
蛇は怒りに震え低周波の、モスキート音みたいな音を出す。
キーンと鼓膜を突き刺し、動けない……。
高級耳栓を用意してくるのだった、と龍之介は後悔した。
蛇が龍之介にかぶりつこうとした刹那、ヒーロ的タイミングで隊長がサバイバルナイフを手に割り込み攻撃を受け止めた。蛇の牙とカバー隊長のナイフが火花を散らし、ぶつかった。
だが力で蛇には敵わない。
じりじりと押され、隊長はナイフを反らして攻撃の軌道を変える。
その隙に横から回り込んだ龍之介が、蛇の頭目掛けてもう一度斧を振り下ろした。
蛇の頭にクリーンヒットした石斧は、樹の皮で作った紐の根元から折れた。巨岩に思いっきりハンマーを振り下ろしたかのような、振動が両手のひらに広がり痺れた。
いくら何でも硬すぎやしないか……。
蛇は先にいくほど細長い尾を器用に使い、龍之介を叩き払った。
すかさず隊長がサバイバルナイフを横腹に突き刺すが、岩並みにに硬い鱗に弾かれる。
「ゴリッチッ! ええ加減起きいやッ! もう朝やでッ! 起きてくれな、うちら喰われてまうねんッ! ゴリッチッぃいいいッ!」
騒がしい音が聴こえる……。
いったいなんだ?
こんな気持ちよく眠っているのに、起こさないでくれ……。
「ゴーーッチッ! お――やッ! ゴリ――チッ――! ゴリッチッ!」
ゴリッチ?
ゴリッチって誰だ?
ゴリッチ……どこかで聞いたような――気が――する――。
そうか……自分の名前だ――。
誰かが――俺様を――呼んでいる――。
蛇のムチのようにしなる尾を正面から受けても、カバー隊長は耐えた。
「久しぶりに本気を出すときがきたか」
隊長のサングラスの奥に見える目に、強い光が灯った。
着ていた迷彩服を脱ぎ捨てた。
通常ならひらひら落ちるはずの服は、ドシっと重たい音を立てる。
続いて、眠るときでも外さないサングラスを外し、迷彩服の上に投げた。同じく“ドシ„と重低音が鳴る。
何だこのバトル漫画でよく見るあるシーンは?
白いタンクトップと素顔の姿で、カバー隊長は太い首を回した。
ボキボキと骨の関節が鳴る。
「ここからが本番だッ」
隊長は闘志のみなぎる鋭い瞳で、大蛇を見据えた――。
「それは言い過ぎでしょ。せいぜい、隕石が落ちてくるくらいよ」
「この調子で行けば、覇権を取るのも夢やないな! これも施されたら施し返す、恩返しです! してきたおかげやな」
「そうなのか? まあ、そういうことにしといてあげましょう。だけど、覇権を取るのは不可能だけどね」
「そんなことあれへん! 施されたら施し返す、恩返しです! に心を燃やせ! ば、きっと何とかなるわ!」
「・・・・・・それ……あの人の台詞じゃない? あんまり、パクっていたら大変な目に遭うんだから……」
「本当に、頭が上がらないわ。こんな、アクションなのかコメディーなのか、ジャンルのわからない話に、ありがとね」
「ああ、それ言えてる。完全に〇ンハンだわ。だけどあんな巨大蛇本当にいるのね。日本にいたら見ることできなかったわ」
「な~。世界にはとんでもない動物がいるもんなんやな~。それと世界には化け物みたいな人間もおるんやな」
「ね~。ゴリッチも人間やめてるけど、意外に隊長もあっちの部類ね。何十キロもする重りを着こんでいる時点でヤバい奴だとは思っていたけど」
「ハハハ、訓練だよ訓練。重力が何倍もある星で暮らすと、自然と体が鍛えられるように、日々の訓練が大切なのだよ」
「はじめからさ。次回は私が大活躍する回になりそうだ。とうとう真の力を見せるときだ」
「ゴリッチでも勝てへんかったのに、カバーっちが勝てるんか?」
「私を見くびってもらっては困る。こう見えても、私は強いッ。ゴリッチ君と闘っても、いい勝負をする自信がある」
「頼りにしとるで。もう最後の頼みはカバーっちしかおらんのんやから。カバーっちがやられたら、もううちらみんな蛇の腹やわ」
「任せてくれ。私がいる限りみなを危険な目には遭わせたりしない」
「いや、第一話から危険な目に遭わされてるんですけど……。あなたのせいでこんな目に遭ってるんですけど……」




