無人島生活25話 ゴリラゴリラゴリラvs巨大蛇 南の島の決戦 前編★
ひし形に細められた蛇の瞳が、槍の如くゴリッチを見据えていた。体をくねらせ、ゴリッチの周囲を囲い込むように動いている。
その巨大な体はまるで大地が地動しているかのようだ。
細長い舌を出し、舌なめずりをする蛇。
蛇に味覚はあるのだろうか? どうせ丸呑みで、味などわからないだろう。
枝をミシミシ折り、渦を巻きながらゆっくりとゴリッチとの距離を詰める。渦を巻くように動いていた蛇が先に攻撃を仕掛けた。
寸胴な体からは想像できない速さで、四メートルを超える巨大蛇はゴリッチに大口を開けて食らいつこうとした。ヴァンパイアを彷彿とさせられる二本の鋭い牙が、白い残像を引く。
ゴリッチは横跳びで蛇の攻撃をかわしたはずなのに、背後から衝撃を受けた。丸太で殴られたみたいな衝撃に、肺の空気をすべて吐き出した。
いったい何が起きたのか、ゴリッチは状況把握に努める。
尻尾だ……蛇の牙をかわしたとき、背後から尻尾を叩きつけられたのだ。
吹き飛ばされる中、態勢を立て直してゴリッチは手足を地面に付けてブレーキをかけた。
この蛇は想像以上に――強い。
蛇は体をくねらせて、ゴリッチとの距離をあっという間に詰め、第二激を浴びせかける。ジャンプでかわし、続いて襲い掛かってくる尻尾の攻撃も体操選手のように、体を捻ってかわした。
これほどの巨体だと言うのに、隙が殆どない。
この蛇はジョーズ以上に闘いずらい相手だ……。
だが、やられてばかりもいられない。攻撃は最大の防御。ゴリッチは一蹴りで蛇との距離を詰めると、渾身の力でパンチを叩き込んだ。
樹の幹もへし折るゴリッチのメガトンパンチが、蛇の胴に入る。だが、手ごたえが感じられない。蛇の軟体な体が、ゴリッチのパンチの威力を吸収しているのだ。
これでは半分の力も伝えられない……。
蛇は一瞬怯んだようだが、状況把握が極めて速い……。
すぐにゴリッチを尾で払った。紙一重でしゃがみ込んで、蛇の尾が頭の上ギリギリをかすめる。
もう一度、渾身の力を右腕に溜め、足場を踏みしめてパンチを叩き込んだ。ぬめりを帯びたゴムのような感触が、拳に伝わる。
体をくねらせて受け身を取ったが、さっきよりは真面に入ったようで、蛇は口を大きく開けて苦しそうに唸った。
ちゃんと攻撃が入れば、倒せない相手ではないッ。
駄目押しにもう一発拳を叩き込もうとした刹那、ゴリッチは気が付いた。蛇の体が自分の周囲を囲んでいることに……。気付いたときには、とき遅し。蛇は紐を縛るときのように、尾と頭を交差させてゴリッチに巻き付いた。
樹の幹でも締め上げる蛇の拘束力は、万力の域を超える。
これは本当にヤバい……。
絞め技は完璧に決まってしまうと、ほぼ逃げ出すことは不可能。ゴリッチの体をミシミシと、楽しみながらゆっくりと締め上げて行く蛇。
粘着質な蛇の体が、ゴリッチの体に吸盤の如くフィットして、抜け出すことができなくなっていた。ミシミシと骨がきしむ音……。まだら模様の真っ赤な痕を刻まれる、体……。
ゴリッチは抜け出そうと必死にもがいた。
腕を引き抜こうと、さっきから何度も試みているが時間と共に、抜けなくなる。爬虫類である蛇が笑っているように見える……。
口を大きく開き遥か高みからゴリッチを睨み下ろしていた。
体を締め付ける痛みが薄れて行く。視界がかすみ、意識が遠のきはじめているのだ……。このままでは……本当に……ヤバい……。
ゴリッチは一度意識を失い、そして覚醒した。ピンチになると覚醒する、戦闘民族の性。ゴリッチの固有スキル、ゴリラゴリラゴリラと百獣の王が同時に発動した。
※ 説明しよう。ゴリラゴリラゴリラとは、ピンチになると知力を下げることにより、狂戦士と化す状態のことを言う。そして百獣の王になるとステータスが大幅にアップし、一人称が僕から俺様に転じることをいうのだッ!
ゴリッチの髪の毛が一本の柱となり、急激に伸びた。
筋力がまるで意思を持っているのか、脈打ち蛇の締め付けに抵抗する。
うつむき、気を失っていたはずのゴリッチから、ドスの効いた言葉が発せられる。
「痛ぇーな――」
巨大蛇は突然の変化に、驚いた。
締め付ける力を強めても、以前のように締まらない……。
(これはどうなっているシャー……。この猿の変化は何だシャー……)
「痛ぇーって言ってんだろう――」
(なぜ、しゃべれる……。ミーの締め付けを受けて、なぜ平気でいられる……)
「聞こえねえのか?」
うつむいていたゴリッチは顔を上げ、睨み下ろす蛇を睨み上げた。圧倒的有利なはずの蛇が、ゴリッチの睨みで怯んだ。
そのわずかな硬直を見逃さず、ゴリッチは両腕に力を込めて、外に押し出す力を掛ける。蛇は力の限り締め付けるが、ゴリッチの押し出す力の方がわずかに勝っていた。
(どういうことだ……。今さっきまでの猿とは別人のようではないかッ……シャー)
ゴリッチは蛇の胴を押し開けて、抜け出した。
蛇の胴の上に悠然と立ち、「どうした?」とゴリッチは首に手を添え、首のコリをほぐすためゴキゴキと回し、続けて肩も回す。
(この猿……何者だ……シャー?)
ゴリッチは蛇を見上げてニヤリと笑みを浮かべた。
「俺様が何者かって。俺様は猿でもゴリラでもない、貴様を倒す者だッ!」
硬直から解けた蛇は真上から飲み込みをかけようとするが、ゴリッチは蛇の開け放たれた上顎と下顎を受け止めた。何千㎏という重さをいとも容易く受け止める。
足場にしていた蛇の胴にクレーターができ、蛇は攻撃を辞めた。
(どうなっているっ……戦闘力が以前とは別物ではないかシャー……)
蛇は体を振って、ゴリッチを振り落とした。
一回転して地面に着地する。
「どうした。貴様の力はこんなものか?」
おちょくるようにゴリッチは右手を突き出し、かかってこいと言う意思を示した。恐怖を通り越し、怒りを増大させて、蛇はゴリッチの周りをグルグル回りはじめる。
蛇が通った道の草はすり鉢で擦られたみたいに跡形もなく、ドーナツのようなサークルを作り出す。余裕の表情で、動きを待つゴリッチ。
蛇の体がゆっくりと、ゴリッチに迫る。
だがゴリッチは一歩も動こうとしない。刹那、蛇は動いたっ。
蛇はゴリッチに巻き付き、樹の幹に喰らいつくと、投石器のようにしてゴリッチを投げ飛ばした。
樹をへし折りながら、森の中を吹き飛ぶゴリッチ。遠心力を使い、自身の体も投げ飛ばし、追撃をかける蛇。樹の間を縫い、稲妻ように突き進む。
ゴリッチに追いついた蛇は、体を捻り尾を真上から叩き込んだ。
地面に叩きつけられ、大地は揺れる。
ゴリッチはクレーターの真ん中に仰向けに横たわっていた。
(勝った。やはり口だけかッ。下等生物が地を這う王者に敵うはずもないのだッシャー)
細長い舌を出して、高笑いしていた蛇はピタリと固まった。
「今のは、結構効いたぜ」
クレーターの中、頭を押さえながら上半身を起こす下等生物。
(たったそれだけだと……。ミーの渾身の攻撃を受けて、『結構効いたぜ』だと……シャー)
蛇は産まれて初めて、恐怖を感じた。
自分よりも格上の相手と対峙したときに感じる、野性の警鐘。
この猿とこれ以上闘っては駄目だと本能が告げている。
逃げろと告げている。
「そんじゃあ。今度はこっちから行かせてもらおうか」
猿は長い髪をなびかせて、大きな一歩を踏み出した――。




