無人島生活20話 このボケと刻んだ石を拾ってきてもらうッ!★
その日から洞窟に移り、一夜を明かした。
海辺と違って、包み込まれているかのような温かさが洞窟にはあった。
年中を通して洞窟内は気温が一定だというから、原始人が洞窟に住んでいた気持ちもわかる。風もなく寒さで目が覚めるということもない。
まるで天国だ、と思ってしまえるのだから自分も無人島生活に慣れたものだ、と思うエリーなのであった。
洞窟に移り住み唯一不満があるとしたら、それは寝っ転がって星空が見えないことだ。
人工的な光がないここでは、星がよく見えるのだ。
天然のプラネタリウム。
見渡す限りの空一面星、星、星だ。
エリーは今までこんな美しい星空を見たことがなかった。
はじめて見たときは感動で涙が出そうになったものだ。
ああ、ここに来てよかったかもしれない、と。
普段は強気だが、意外と乙女チックなところがあるのだ。
夜の間に服を洗い、昼頃には乾いていたから本当に良かった。
あの葉っぱの服で過ごすのは本当に恥ずいのだ。
朝のうちは色々な仕事をした。
まずは紅が見たという鶏と山羊、そして羊を洞窟の周辺に連れてくる、という仕事。山羊と羊は人慣れしているかのように、いや人間の脅威を知らないだけか? 草で釣るとおとなしくついてきた。
連れてきた動物が逃げ出さないように、周辺に柵を作らなければならないが、そうすぐにはできない。
まあ、動物も逃げないから、急がなくても大丈夫だろう。
てか、作る必要もないかもしれない。
山羊二匹、羊三匹を捕獲することができたから、これで色々なことができるようになる(はず)。まず、山羊からはミルクがとれるし、羊からはウールがとれるから温かな服がつくれるだろう(龍之介なら)。
以前〇インクラフトというゲームをしたことがあったが、あれでも羊からはウールがとれてたし、牛にバケツを持って行くとミルクがとれたから、山羊でも大丈夫っしょ。
〇インクラフトではまず、木を集めなければ何も始まらなかった。木はゴリッチのゴリラの極みで大量に手に入れることができ、干してある。
木を集めたら今度は石を集めた方が効率がよかった。
だから、そこら辺に落っこちていた石と蔦で龍之介が斧と槍などの原始的な道具を作った。
次は食料だが、これはゆっくりと蓄えるしかない。
獲った魚は腸を取り除いて、燻製にすることになった。
絶壁のところにあった小さなスペースに、口に蔦を通した魚と余ったサメ肉を釣るして、その下で煙を焚く。そして岩で穴を塞ぐと燻される、という仕組みだった。
そして大切な塩。
隊長が落ちていたバケツに海水を入れて煮る。
こげないように注意しながら、何時間も煮詰めていくと下に沈殿した白くはない塩ができる。完全に水分を飛ばすと、色は濁って悪いがしょっぱい塩だった。時間はかかるが人間が生きる上で必要な塩が取れた。
だいぶん無人島生活の地盤ができてきたと思う。
だが、これで冬が越せるのかはわからない……。
備えあれば患いなし、どれだけ備えていても、不安は拭い去れなかった。
一通り仕事を終えて、みなはしばらくの自由時間を設けた。
自由時間と言っても、何にも無ェ無人島でどのように時間を過ごしたらいいのか途方に暮れていると、モーリアンがエリーの下にやって来て、初っ端からボケをかました。
「エリーっち。修行をするで」
・・・・・・と状況を理解しようと頑張るエリー。
「まずはや、これを背負ってえや」
そう言ってモーリアンが差し出したのは亀の甲羅だった。
蔦でランドセルのような腕を通すところがこしらえられている、黒いカメの甲羅。
「何、これ……?」
「何って見てわからんか? 亀の甲羅やで」
「いや、それはわかるけど……何でこれを背負わなきゃならないの? それに何で亀の甲羅があるの?」
「さっき海辺を散歩しとったら、砂浜に流れ着いとったんやわ」
「亀の甲羅だけ、都合よく?」
「そうやで、良いもん拾ったわ。それで龍之介っちにこの蔦を付けてもらったんや」
「ふ~ん。そこまではまあわかった。だけど、何でこれを背負うの?」
「修行ゆうたら亀の甲羅を背負うって決まってんねんで」
「決まってるわけねえだろ。絶対そんなの背負わないからね。それに、修行なんてする気ないから。前回の話まだ引きずってんのかいッ」
「みんな二年間の修業を乗り越えてきたんやでッ」
亀の甲羅を押し付けるモーリアンと押し返すエリーの力比べがはじまる。
「嘘やめろッ。あたしは修行なんてしない。てか、何のために修行をするっていうのよ?」
「ゴリヤ人の襲来に備えるためやろッ」
「ゴリヤ人って誰だよッ!」
亀の甲羅を押し付けるモーリアンと押し返すエリーの闘いは数時間にも及んだ、のは嘘が十分くらいは続いたのは本当。
先に折れたのはエリーだった。
「わかった……わかったから……もう疲れた……少しだけなら付き合ってあげるわよ。少しだけだからね」
「ほな、これ背負って」
エリーは嫌そうな顔全開で、渋々亀の甲羅を背負った。
土下座以上の屈辱だった……。
亀の甲羅は想像以上に重かった。前かがみで踏ん張っていないと、ひっくり返ってしまいそうだ。ひっくり返った亀が起き上がれない原因がわかった。
「重ッも……亀の甲羅ってこんなに重いの……あんたよくこんな重い物十分以上も持ってられたわね……」
「軽かったら修行にならんやん。ほなら、付いてきてえや」
モーリアンは絶壁の壁面を進んだ。
「ちょっと、どこ行くのよ……?」
エリーは仕方なく思い亀の甲羅を背負ってモーリアンの後に続いた。
本当に自分は何をしているのだろう……と泣きたくなる思いだ……トホホ……。
で、たどり着いた場所は、崖の上だった。
丁度エリーたちの拠点の上くらいに当たる場所。
壁面を辿っていくと、スロープのような登れる箇所がある。
そこから、崖に上に登って来た。崖の上には巨岩がそこら中に転がっており、崖ギリギリにも巨岩がある。崖の下に落石が多いのはそのためだ。
この前も潤弥が危うく巨岩に押しつぶされるところだった、と愚痴をこぼしていた。だから、なるべく崖の下は歩かないようにしている。
不幸中の幸いか、拠点に使っている洞窟の上に巨岩はない。
岩が落ちて洞窟が塞がれる恐れはなかった。
推測するに崖の高さは10メートル以上あるだろうか?
見下ろすとなかなかに高い。
「で、何するのよ?」
モーリアンはフフフと笑いながら、拳を突き出した。
「今からエリーっちには、このボケと刻まれた石を拾ってきてもらうッ。そこら辺に落ちている石にボケと刻んでもすぐにわかるんやで。不正をした奴は晩ごはん抜きじゃッ」
・・・・・・・・・・・・
「ほんならいくでッ」
言ってモーリアンは大きく振りかぶり、ボケと刻まれた石を森に投げた。と、同時に足を滑らせてモーリアンが崖から落ちた。
「バカやるからよ。自業自得ね」
10メートルくらいだったら、落ちても死なないだろう(たぶん)?
え~っと、10メートルをマンションで例えると、3~4階くらいだろうか?
まあ、ギャグマンガの登場人物はこれくらいで死なないよね(うん)、とエリーは元来た道を引き返すことにする。
「ちょっとッ! 待ってえなッ。助けてえなッ。腕がもげるーッ!」
崖の方から死んだはずのボケマシーンの声が聞こえて来たような?
気のせいよね、エリー振り向かず立ち去ろうとすると、「おいッ。コラッ、待てーッ! 無視するなッ」とやはり聞こえた。
渋々エリーは崖に歩み寄り、下を覗き込むと、そこには鬼の形相で壁面にへばりついているモーリアンがいた。
「なんだ。落ちてなかったの」
「落ちたら死ぬわッ! 見とらんとはよ助けてえな……」
崖にへばりついたモーリアンの腕はプルプルと震えていた。
「え~。どうしよっかな~。また、修行だなんだ言われるのもめんどくさいし~」
「ゆえへんッゆえへんから、助けてえなッ。も、もう限界近いんやわ……」
「本当に言わない?」
「女に二言はあれへんッ」
「ならしゃあない」
エリーはモーリアンの腕を両手でつかみ、そして亀の甲羅の重みも利用して引っ張り上げた。その反動でひっくり返った亀のようにエリーもひっくり返った。
「ホンマありがとな。エリーっちはうちの命の恩人やで」
涙ながらにすがりつくモーリアン。
「いいって。あたし達仲間じゃない」
助けを求めるモーリアンを置き去りにしようとした女は、何事もなかったように言った。少年漫画の主人公のように穢れはない。
「エリーっち……ありがとうな……。ホンマにありがとうな……」
友情を深め、拠点に戻った二人なのであった。
エリーも20㎏もある、亀の甲羅の重さが苦にならないほどに鍛えられていたのであったとさ――。
「忘れてるんだったら、忘れてるでいいけどね。別に本編にまったく関係ないトークコーナーだもの。ほらあれよ。よくアニメなんかでエンディングが終わったら、おまけコーナーみたいなのあるじゃん。つまりあれ。なくても別に支障ないけど、あったらちょっと嬉しいあれ」
「あるある。シリアスな話ほど、終わりのコメディー色が強いんやよな。和むわ~。まあこの話シリアスでもなんでもないから、こんなボケばっかりの無駄なコーナーいらんと思うけど」
「あんたが言うんかい……。やっぱりあんただって思ってんじゃん」
「本当だ。何にも実にならないグダグダさがいい。これ以上の無駄なコーナーもない」
「そう……なんか腑に落ちないけど……。まあいいわ。長くなると疲れるから、とっとと終わらせましょうか。ぶっちゃけ隊長はハーフなの?」
「そうだ。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた。父は軍人で、そんな父に憧れて兵士になった」
「どこからどう見ても不審者だけどね。だけど、その若さで軍を辞めちゃったの?」
「もう戦いには疲れたんだ。燃え尽きたよ。平和に暮らしたい……」
隊長は白い灰になった。
漫画の登場人物のようなことをいうやつだ。
「いや、はじめから父も私が軍に入るのをよく思っていたわけではない。軍の中で生きる辛さを父はよく知っていたからな」
「自分でもよく理解してるじゃない。あんたみたいな人が兵士にいたら、国民の心配は半端じゃないでしょうね」
「エリーっちはたまに棘のあるこというなぁ。まあ否定はせんけど」
「カバーっち、アランっていうんか。キラキラネームやな。さぞ苦労したことやろう……」
「キラキラネームだろうか? まあ、日本人から見たらそう見えるだろうな。幼少のころはアメリカで暮らしていたから、名前で苦労はしたことはないが」
「ほんまか? うちが小学生だったころ、クラスメイトに悟空っていう名前の男の子がおったんやわ。その子のギャグが、『オスおら悟空!』や『おらワクワクすっぞ!』やったんや。めちゃおもろかったけど、可哀想でもあったわ……。小学校低学年のときはよかったんやけどな、もう四年生くらいになると、なんかな……」
「そりゃあ……まあ……ねえ……。親を呪うわよね……。いくら好きでもアニメキャラの名前を子供につけちゃダメよ。違和感ないのだったらいいけど、そういう目立つ系はダメ。これを見ている人たち、明らかに違和感のあるアニメキャラの名前を子供につけちゃダメだからね! わかったわね」
「そうやで、子供が大きなったら恨まれるんやで。わかったら廊下に立ってなさい」




