無人島生活18話 一日一万回感謝のトレーニングッ!★
腐女子たちの妄想などつゆ知らず、男たちは湖で簡単な水浴びをして三日ぶりにさっぱりとした気持ちになっていた。
「おおッ、これはステュクスの湖。人間としての体が消滅し、今我は不死身とならんッ」
湖に腰まで浸かり、天に両手を掲げ、中二病は中二病をこじらせていた。ツッコミ担当が不在で湖はボケの温床となっている。
仕方がないので、ツッコミは潤弥が担当することになる、がどうつっこんでいいのかわからない……。
「見てくれッ。みんなッ」
今度はゴリッチが湖を泳いでいた小魚を捕まえて、水を得たゴリラのように喜んでいる。
「小魚がいるんだな。食べられるのか?」
潤弥はゴリッチが捕まえている小魚をまじまじと見つめた。川魚のような地味な色合いの魚だった。パッと見鯉に見えなくもない。
「食べてみればわかるだろう」
答えるゴリッチ。
「いや、むやみやたらに食べて、毒があったらどうするんだよ?」
「毒があるかないかは、食べてみればわかるだろう」
こりゃダメだ、と潤弥は思った。
鴉の行水を終えて、男たちは腐女子(一人を除く)が待つ洞窟の前に帰って来た。着ている服は中二病が作った葉っぱの服ではなく、海水や泥、砂などで汚れた同じ服だ。
「それでは、食料を集める者たちと、洞窟の整備をする者たちで分かれよう」
隊長は扇状に散らばった皆に言った。
「洞窟の整備を担当する者は、私とゴリッチ君、エリー君、龍之介君で行う。紅君、潤弥君、モーリアン君は三人一組で食料を集めて来てくれ。異論はあるだろうか?」
皆の顔を見まわしたが、異論の声は上がらなかった。
「よし、それでははじめよう」
と、いうことでそれぞれ作業を開始した。
「まずは、洞窟内の掃除からはじめようではないか。いらない石や岩を出して、入り口を簡単に塞ごう」
洞窟の中は奥に行くほど薄暗く、エリーは多少の恐怖を覚えた。モーリアンには強がって見せたが、実を言うとエリーは昔からホラー映画とかお化け屋敷が駄目な人間だったのだ。
だから、シャワーを浴びているときに背後を振り向けなかったり、公園の公衆トイレや夜道などは本当に怖い……。
「何をサボっている?」
背後で龍之介の声がした。
「サボってないわよ……」
言って、エリーはそこら辺に落ちている手ごろな岩を洞窟の外に運び出す。一個運び出すだけで、息が上がる始末……。やはり、力仕事は苦手だ。
エリーが小さな岩を一個運び出している間に、ゴリッチはとんでもない速さで洞窟の中の岩を運び出していた。
ゴリッチ一人いるだけで、何人分の労働力に匹敵するだろうか? 三人や四人では済まないだろう。きっと十人以上になると思う。誇張などでは決してない。
一時間ほどで、岩や石だらけで危なっかしかった道が綺麗になった。つまずく心配はまずないだろう。
「では、入り口を塞ごう。入り口さへ塞いでしまえば、それなりに暖は取れると思う」
「どう塞げばいいの? 木を使うにしても、175㎝もある角材なんて落ちてないわよ」
エリーが質問したのもつかの間だった。
「それは僕に任せてくれ」
ゴリッチが躍り出た。
「任せてくれって、何か考えがあるの?」
「ああ、そこら中に木ならあるじゃないか。あれを使う」
ゴリッチがそう言って指さしたのは、そこら中に生えている樹だった。
「ノコギリや、斧もないのにどうやって切り出すって言うの?」
「斧なら我が作ろうッ」
龍之介が言ったが、ゴリッチは「いや、斧はいらない」と答えて樹の前に立った。エリー、龍之介、カバー隊長はお互いに顔を見合わせて、ゴリッチの背中を見守った。
いったい……何をしようとしているんだ……?
ゴリッチは空手家が精神統一をするかのように、背筋を正し息を大きく吸い吐き出した。なぜだかわからないが、ゴリッチの立つ周辺だけ空気の流れが歪んでいるように見えるのは、気のせいだろうか……? と、そのときだった。
ゴリッチは両足を肩幅ほどに広げ、腰を落とし、右腕を弓のように引いたかと思うと、とんでもない速さで正拳突きを放ったッ!
その速さは残像すら見えないほどで、ジェット機が通過するが如く爆音が空気を震わせた。
ゴリッチの放った正拳突きは樹の幹に深く深く、食いこんでいる……。そして樹は、遅れて雷鳴のようなミシミシッバキバキッ、と森中に音を響かせて倒れた。
その光景を見ていた三人はボケーと言葉を失くし、ただただ、その場に立ち尽くしているのであった。
ゴリッチは倒れた樹をまたぎ、再び正拳突きを叩き込む。
どんな原理かは知らないが、樹は真ん中から真っ二つに割れた……。
「よし、木ができたけど、これをどうすればいい?」
ゴリッチは樹の片割れを、ニーブラして立ち尽くしている三人の前に舞い戻った。その日、エリーたちは思い出した、ゴリッチは人間を超越した化け物なのだと。
「ねえ……。今何やったの?」
エリーは平常心を心がけ訊いてみた。
ゴリッチはボケーっとした表情で、「何って、樹を倒しただけだけど?」と当然のことのように答えた。
「いやいやいやいやッ! バトル漫画じゃないんだからッ、何でパンチで樹を倒すことできるのよッ!」
「何でって……? そんなにおかしいかな」
「おかしいでしょッ!」
エリーは倒れた樹の株と樹を指さしながら吠えたッ。
「あんた、いったいどんな修行してきたのッ! あんたは格闘家じゃなくてアスリートでしょッ」
「どんな修行って――、一日一万回ッ、感謝のトレーニングッ! だよ」
何だ……どっかで聞いたことがあるな、とエリーは思った……。そこで、ゴリッチの修行回想が背後に投影された。
人気のない雪降る山奥みたいなところに、ゴリッチは上半身裸で立ち、何かを叫びながら腕立て伏せを繰り返している。
「気を整え、拝み、祈り、構えて、腕立て伏せッ」
回想に解説を挟むゴリッチ。
まだ続くのか、この修行回想シーン……。
「一連の動作を一回こなすのに当初は5~6秒。一万回をトレーニングし終えるまでに初日は18時間以上を費やした」
己の筋肉とドラミングに限界を感じ、悩みに悩み抜いた結果、彼がたどり着いた結果はコーチへの感謝であった。
おいおい、ついにナレーションまで入って来たぞ……。
一万回腕立て伏せ、一万回上体起こし、一万キロランニングを終えれば倒れるように眠る。
起き、また腕立て伏せ、上体起こし、ランニングを繰り返す日々。
〇年が過ぎた頃 異変に気付く。
一万回トレーニングを終えても 日が暮れていない。
齢〇0を越えて 完全に羽化するッ。
感謝のトレーニング一万回、〇時間を切る。
かわりに、ドラミングをする時間が増えた。
「そして、僕は山を下りた」
「いや、あんた、十種競技の練習で修行している暇なかったでしょッ。てか何? 一万キロランニングはさすがに嘘だろッ!」
ゴリッチは自分の世界に入り切っていて、エリーのツッコミなど耳に入っていなかった。
「山を下りた時、僕の拳は音を置き去りにした。――という経緯があったんだよ」
「いや、その修行〇UN〇ER×〇UN〇ERのッ、ネ〇ロ会長の修業っぽくないッ! 完全にそうじゃんッ!」
「エリーちゃんも〇UN〇ER×〇UN〇ER知ってるの。そうだよ。あの修行に憧れてね。会長がやった修行と似たことをしたんだよ。はじめは無理だと思っていたけど、〇年が過ぎた頃 異変に気付いた。そして、手に入れたんだッ! ゴリラの極みをッ!」
「・・・・・・それッ、根本的に違くない? 名前も違うけど、あれだよね? 〇重の極みだよね。〇重の極みは、る〇うに剣〇の明王〇慈の技じゃねえかッ」
「えッ! そうなの? じゃあ、僕は今まで何の修行をしていたんだッ!」
「もうええわ」
ちゃんちゃん♪




