04
「ばーか」
そう俺に言ったのは、俺より傷ついてるはずの人だった。
でも泣いてはいなかった。
あいつは強いから。
「涼介ーここはこれでいいの?」
「うん、そうそうここはこのままで。あとここ、スペル間違ってるSじゃなくてCな」
「うーん、英語って難しい」
やってる内容は中学一年生のものだけど、風香はお手上げと言わんばかりにベンチに寝転んだ。
公園にあるこの石造りの机と椅子はひんやりとしていて気持ちよい。
日向にあると暑くて座れないが、日陰にあるとこれがまた涼しいのだ。
「ねえ涼介」
「何?」
「学校って楽しくないの?」
ふ、と風香に視線を移す。
寝転んだまま、風香はじっとこちらを見ていた。
真っ黒な瞳が俺を射貫くように感じる。
「そこは楽しいのって聞くべきだろ」
「じゃあ学校って楽しいの?」
「そうだな、俺的には勉強、勉強ばっかで疲れる場所かもな」
「でも涼介頭良いから、頑張ってたんだよね?」
「…最初だけな。途中から勉強に飽きた。勉強する意味がわからなくなったんだよ」
ふわりと風が吹く。
どこかでチリン、と風鈴の鳴る音がした。
風香は体を起こして音が鳴る方へ顔を向ける。
「私思うんだけど、私と涼介って風鈴だよね」
「は…?」
「風香に涼介!風鈴には涼の字が入ってるでしょ?」
「まあ、確かに」
「ね?ぴったり!私たちは風鈴だ!」
そう言ってまた無邪気に笑う。
蝉の声、たまに吹く風、聞こえる風鈴の音。
香る緑の匂い、踏みしめる土の感触。
鮮やかな青い空、真っ白な雲。
あの日とは全く違う空間。
「…昔それと同じこと言われたことあるよ」
「本当?やばいな、私その人と気が合うかも!」
「きっと合うよ。性格もそっくりでさ」
きっとこれは神様がくれたチャンスだ。
これを逃したら、俺は一生後悔する。
罪悪感から逃げたいわけじゃない、その罪悪感をちゃんと背負えるように、持っていられるように。
「なあ、風香。俺の昔話聞いてくれる?」
「いいよ!初恋でも青春の思い出でもなんでも来い!」
「はは、茶化すなよ」
既に泣きそうな俺は、必死にそれを耐えて、ぽつりと語り出した。




