表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

5.『スタートライン』

社内カフェテリア。

オーディション会場の喧騒とは無縁の空間に、静かなコーヒーの香りが漂っていた。

「アリセプロダクション所属、アイドルタレント総括プロデュースを担当しています。夜船新(よふねあらた)です」

「椿神威です。よろしくお願いします」

神威が小さく頭を下げると、夜船は穏やかに応じる。

「よろしく」


「失格になったらしいけど多分……というか確実に俺のせいだよな?なんか……色々とごめん。俺、お前に迷惑かけてばかりで……」

「元はと言えば俺の実力不足と思慮不足が原因なんだし、気にしないでいいよ」

気落ちするルカを神威が気遣う。そんな二人の様子を夜船は観察するように見つめていた。

「ルカ。少しその子と話をさせて」

「……」

ルカが一つ隣のテーブルへ移ると、夜船は改めて神威の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「椿神威くん。君をアリプロ(うち)のアイドルとしてスカウトしたい」

「……そういう話なら応えられません」

神威の拒絶は速かった。

「失格の件については君に非は無いよ」

「そう、だとしても……俺、次のオーディションで頑張ります」

「悪いけど、君は選ばれるような人間じゃない。それは君が一番よく解っているはずだ」

その言葉は、容赦なく神威の傷口を抉った。

「……はい」

「でもね──」

派手な足音と共に、聞き慣れない声が割って入る。

「日南ルカ!今日こそお前を引き取りに……お邪魔しましたー(棒)」

勢いよく現れた男は、夜船の姿を見るなり踵を返しかけた。

だが、神威の顔を見た瞬間、その足が止まる。

「ん?」

男はゆっくりと方向転換した。

「いや、お邪魔させていただこう。もしやこの子は先日のオーディションで失格とされた子ではないか?名前は確か……椿神威と言ったな」

「逸琉」

夜船が低く制止の声を出す。

「今、大事な話をしてるんだ。口出しは控えてくれるかな」

「大事な話?︎︎失格となった子に?」

有瀬逸琉は品定めするように神威を上から下まで執拗に見回し、夜船の表情と照らし合わせてニヤリと口角を上げた。

「ははーん、さてはスカウトか」

「突然ごめんね。こちらは有瀬逸琉(ありせいつる)さん。この会社の部外者です」

「部外者……?」

「心外だな。僕はアリプロ社長、アリセイツキの息子。つまり堂々たる関係者だ」

「はあ……」

「それはそうと、なぜスカウトに日南ルカを同席させる必要が?ファン?」

逸琉の視線が、ルカと神威を交互に捉える。

「そういうこと」

逸琉はボソッと納得の声を呟いた。

「椿神威」

「……はい?」

「君を我がアリセ・ミュージック社のアイドルとしてスカウトしようではないか!」

「はあああ!?」

当人の神威より、ルカが大袈裟に叫ぶ。

「なぜかは知らん。が、しかーし!日南ルカが貴様を選んだというのなら……利用しない手はない!」

「ダメに決まってんだろ!神威は俺が見つけたんだぞ!俺が『一緒にアイドルになろう』って約束したんだから!」

「俺は日南ルカが欲しいのだ!︎︎こんな凡人が餌となるならいくらでも奪ってやる!!!」

「ふざけんなよ!絶対行ってやるもんか!」

子供のように取っ組み合いの喧嘩を始めた二人を、夜船は深いため息をついて見守った。

「椿くん、スカウトの話はまた後日に回そうか」

「……」

逸琉は神威に視線を向けた。

「椿神威、これだけは言っておこう。貴様はアイドルを神格化し過ぎているのではないか?」

逸琉はルカを退け飛ばす。逸琉の言葉に、神威は顔を上げた。

「ビジュアルもパフォーマンスも属性の一つでしかない。アイドルはブランドだ!」

逸琉は高らかに言い放つ。

「名前も言動も行動も、全てに価値が備わる商材!だからこそ、技術不足だろうと愛や想いが無かろうと、偶像というキャラクターを演じている限り、それはアイドルとして成立する!」

「自分が嫌いだと言うのなら、その嫌いな自分を偽る虚像を演じればいい!

お前はアイドルになれ!俺がお前を本物のアイドルにしてやる!」

反芻する『アイドルになれ』という言葉。それは、これまで誰からも、自分自身からも言えなかった許可だった。


「夜船さん」

神威は夜船に向き直る。

「どうすれば、俺もアイドルになれますか」

「……こちらから誘ったとはいえ、今の君では事務所の後ろ盾は得られないし、無名の君を必要とする人もいない。それでも頑張れるかい?」

「構いません」

「なる!?なるって言った!?じゃあ、またステージで歌えるな!」

「……そんなキャラだったっけ?」

「公私分けてるだけ!」

(アイドルとして大成できなくとも、ルカのモチベーションになるならプラスかな。少なくとも、キープしておく価値はある)

夜船の脳内で、冷徹な算盤が弾かれる。


「なぜこの流れでアリプロ(そっち)に行くんだ!?」

一人、蚊帳の外に置かれた逸琉の絶叫が、カフェテリアに響き渡った。

【登場人物】

夜船 新(よふね あらた)

日南ルカのマネージャー。


有瀬 逸琉(ありせ いつる)

レコード会社アリセ・ミュージックの社長。芸能タレント事務所アリセ・プロダクション社長の一人息子。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ