痕跡
俺は桃花と二人で帰っていた。
なんだか久しぶりな気がする。
記憶なんてないのに……
だけど、体は覚えているのか自然と浮足立つ。
「……久しぶりだね」
「え?」
彼女はそうつぶやく。
噛み締めるように。
「あ、ごめん。記憶ないんだもんね」
俺はその言葉に静かに首を振る。
「いいや、そうだな」
「光?」
俺は彼女の前に出て笑顔で告げる。
「俺の体は覚えてるよ。桃花と久しぶりに二人っきりで喜んでる」
「……そう」
彼女は少し寂しそうにだが、かすかにほほ笑む。
「なあ、少し寄り道しないか?」
俺は彼女の手を取る。
「いいね」
「ああ」
そうしてを繋ぎ歩き出す。
そうしてきたのは公園だった。
「ここは……」
「ただの公園。俺が小さいころ遊んでいたんだ。そして、これ!」
俺はアイスの自販機を指さす。
「小さいな頃から俺もこれが好きだったんだ」
俺は自然と口に出していた。
「うん。知ってる」
「やっぱりか」
「思い出したの?」
「いいや、覚えてはない。けど……」
俺はイチゴのアイスを指さして目を細める。
「このアイスを見てるとなぜか桃花が思い浮かべるんだ」
そうしてお金を入れてアイスを一つ買う。
「ほら」
「ありがとう……」
「俺の記憶はないままだ……でも確かにその痕跡は体が、心が、覚えているみたいだから」
「そうか……」
彼女は少しアイスを食べる。
「うん……おいしいよ」
「ふ、よかった」
そうして俺もいつも食べていた味のアイスを買う。
「ふふ」
「うん?どうしたんだ?」
夕日に照らされた彼女は少しぼやけていた。
だけどはっきり俺の目に映る。
「やっぱり光は、光だなって」
その笑みは確かな安心があって確かめるような作業のようだった。
「まあな……」
きっと彼女の知っている俺は全く一緒ではないのであろう。
でも、俺は……
「俺負けないから……」
「え?何に?」
俺は夕日を背に告げる。
「過去の俺に負けないってこと!」
夕日は一層光を増し強く俺を照らす。
影は揺れ不確かな感情を表す。
「ふふ、十分負けてないよ」
「ああ、これからも負けない。桃花を笑顔にさせて見せる」
これは過去の俺との戦いだ。
決して負けられない。
そう決めた。
翌日。
「桃花」
「うーん」
「起きてくれ桃花」
「うん?え!?光!?」
私は目が覚めると目の前に光の顔があった。
「ど、どうしたの?」
私は寝起きで恥ずかしくて少し髪を整えながら聞く。
「出かけよう!水族館に行こう」
「え?」
偶然なのかもしれない。
けどこれって前私が誘った逆なんじゃ……
「うん?どうした?」
「な、なんでもないよ」
そう祈らずにはいられなかった。
「じゃあ、俺は外で待ってるから準備できたら出てきてくれ」
「う、うん」
彼はそう言って部屋を出ていく。
私は準備をしていく。
でも、その時心はそこにはなかった。
偶然でもなんでも私の心は動揺していた。
鏡越しの自分の顔は今にも泣きそうでお出かけするときの顔ではなかった。
「ちゃんとしなきゃ……」
彼は昔の自分に勝つため真剣だ。
それに水を差したくない。
私も向き合いたい。
今の彼に。
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