見覚えのある感情
お昼休み俺はチャラビーや牧田と集まっていた。
「つまり、俺のことや牧田さんのことは覚えてるんだな?」
「ああ、覚えてる」
「どうやって出会ったか覚えてるか?」
「うーむ。そのあたりは覚えてないな……」
「桃花が関わっているところは忘れているか……」
「ああ………すまない桃花さん」
桃花さんは笑顔で首を横に振る。
太陽の下にはずの彼女の笑顔はその空とは対照的に曇っていた。
そこにノイズが走る。「彼女らしくない」
「??」
謎の言葉が俺の頭の中でノイズになってはしる。
「どうかしたの?」
「いや……なんでもない」
「??」
彼女は困惑している。
そのはずだ。何しろ俺が一番困惑している。
だが、体は自然と反応する。
俺は自然とポケットを探っていた。
何かを探していた。
そこにあるはずだった《《何か》》を。
その様子を見て牧田が言う。
「とにかくしばらくの間は桃花先輩と二人っきりにしませんか?」
「そうだな。そのほうがよさそうだな」
「えー私は光君といたいーー!」
「あほ京子おとなしく俺らといろ」
「はーなーしーてー!」
そうしてチャラビーたちは京子を引きづって去っていく。
にぎやかだったその場所は静寂が訪れる。
ただその場には鳥の鳴き声や遠くからの話し声しか聞こえなくなった。
「桃花さん」
「うん?なに?光」
彼女はきょとんとしていた。
ただその顔が愛おしく思える。
多分、前の俺が持っていた感情なのだろう。
その感情には見覚えがあって……
「桃花さんは、いいの?」
「え?何が?」
「その、俺に忘れられて……」
俺は言えなかった。「寂しくないのか」と。
それは彼女には言えない。
言いたくなかった。
あんな顔させたくなかった。
あんな顔?
どんな顔?
いったいなんなんだこの気持ち……
俺はまた自然とポケットを探る。
何かを探して。
求めて。
俺はそれを知っている。
確かにあるはずなんだ。きっと。
いつも持っていた。
あったんだ。
大切なものが。
彼女のためにあったものが。
俺はその行き場のない気持ちにただただ焦る。
「光、これでしょ?」
「!?」
桃花さんの手にはあった。
探していたものが。
「ああ……それだ……」
目からは自然と涙があふれていた。
ああ、あった……
それは彼女と俺を結ぶ大切な。
そう、大切なものだ。
俺は受けとる。
イチゴ飴を。
それは少し暖かい。
桃花さんのぬくもりが確かにあった。
それに顔は綻ぶ。
多分、今俺はぐしゃぐしゃになって笑っている。
「ごめん……俺、何もできなくて……」
「いいの……いいの。あなたが私を忘れていても」
「どうしてそんなことが言えるんだよ……」
彼女は俺を抱きしめて耳元で囁く。
「それでも、あなたのそばにいたいから……」
その声は縋るようにも聞こえて俺は余計に悲しくなった。
「ごめん……」
俺は飴を強く握りしめる。
違うんだ。
彼女にそんなことを言わせたいわけじゃない。
俺は……
俺にできることは?
やれることは?
彼女を助けたい。
救いたい。
支えたい。
笑顔に。
これがすべてか?
いいや……違う!
「桃花さん……いや、桃花」
俺は彼女の耳元で囁く。
愛を告げるように。
「この感情が何かわからない……でも!」
そこで一瞬止まる。
「……違うだろ」
「俺は、こんなこと言える立場じゃ……」
俺はなにも記憶がなくて彼女のことを知りもしない。
知っていない。
わからない。
不明だ。
それでも!
俺はいちご飴を握りしめて告げる。
「君には俺のそばにいてほしい!」
彼女の心に届くように。
気持ちを動かせるように。
いきわたるように。
「うん……うん」
彼女は何度も頷く。
ただ噛み締めるように。
感じるように。
知れるように。
知っているように。
分かっている。
納得している。
欲していた。
求めていた。
その場所を。
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