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闇を斬る音は無し  作者: 織風 羊
22/63

22 父と母

よろしくお願いします。



 アラゴンは牧場の門の横で片膝をついている。


 いつの間にやって来たのか、子鹿がアラゴンの横に立っている。


 向こうから二人の姿が見えて来る。


 広い平原の一本道をやって来る二人の姿がはっきりして来る。


 一人は朱塗りの鞘に納めた剣を持つ男だ。

もう一人は少女のような女である。

二人に旅の疲れは見れない。


やがて、二人が目と鼻の先まで近づくと、


「アラゴン、元気であったか?」


「パステルナーク様、元気そうとも言い難いお姿で」


 アラゴンは、念動力よりも念通力に優れている風の者であった。

二人が牧場に向かってくる気配を感じ取り、一人はエリオット、妖魔大戦での風の者のただ一人の生き残り。

もう一人はパステルナーク様、しかしながら姿に違和感がある。

そして最後の一人、仲間ではないが風の者と同じ気配を感じる異国の騎士。


「この子鹿は」


 とパステルナークが言うと、


「はい、お察しの通り、マヤコフです」


「そうか、立派に育ててくれたものだ」


「私の力ではありません、この子の父と母の力が、この子を育てたのでしょう。ただ、解せぬ所がありますが」


「解せぬ、とは?」


「分かりませんが、念通力以外の何かを感じます。これから育てて行く上で分かって来ると思います」


「そうか、任せる。ところで、この者はロルカと言い、異国の騎士ではあるが、今は風の者と同様の力を備えている」


「エリオットの修行に耐えたと存じますが、其れなら充分でしょう」


 エリオットは静かにアラゴンを見つめているだけだ。


「で、私たちが立ち寄った訳を言わずとも分かっていると思うが」


「はい、コクトーとベルレーヌが良いかと」


 コクトーはマヤコフの父であり、ベルレーヌは母である。


「済まない、アラゴン」


 そう言うとパステルナークは子鹿に話しかける。


「マヤコフ、暫く父と母を借りるぞ。必ずお前の元に返してやるからな」


 子鹿はパステルナークの言う言葉が理解できたと示すように、ロルカの方へ歩いて行き、帯刀している側に身を寄せる。


「アラゴン、一晩泊めてくれ」


 パステルナークがそう言うと、ロルカが歩き出す。

横にはピッタリと子鹿が寄り添うように歩いている。

その横にはエリオットがいる。

エリオットが子鹿の首を撫でると、子鹿は首を曲げてエリオットの顔を舐める。

その動作が何度も繰り返される。

まるで幼い姉弟のようである。


 そしてその時


 ロルカはエリオットの嬉しそうな笑顔を初めて見る

父と母と幸せそうに暮らしていた幼い少女の笑顔を見た。

ありがとうございました。

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