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メイちゃんが大魔王になるまで  作者: 畑田
1章 勇者討伐編

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40話 最悪の事態

 

 メイちゃんとカーラが魔王討伐に向かって8日。昨日か今日にでも、ケルディ領でサイコス様と合流し、準備を始める頃だろう。


 新しい魔王は、早くても数日、遅ければ1カ月ほどで誕生するはず。そして2人が帰ってくるのは、その誕生した魔王を討伐した7〜8日後になる。長期間会えないのは凄く寂しいけど、カーラが居ないので私の日常は平和でもある。メイちゃんとカーラがパーティーを組んで騒がしかった毎日が嘘のように、私の時間はのんびりと過ぎている。


 …と思っていた矢先、普段にない事が起きた。


 ギルドに入ってきた2人の女性。その姿を見た私は、朝の仕事を止めて2人に駆け寄った。


「お久しぶりです、神官様、大聖女様」


 先代勇者様の聖女、サイレンツ・シルフィア様。カーラの最初の聖女、ソフィー様。いつも教会にいらっしゃる2人がギルドに足を運ぶなんて、何かあったに違いない。


「あらあら…。確か、サクラちゃんだったかしら」


「久しぶりね、サクラ…」


 …やはり、2人とも様子がおかしい。普段は明るく高らかなお声でお喋りになる神官様だが、今は声に覇気がない。大聖女様も、神妙な顔をなされている気がする。


「どうかされたのですか?」


「えぇ、ゲイツちゃんは居るかしら」


 …すぐにでもギルマスに会おうとするという事は、それほどまでに切迫した状況なのかもしれない。そう推測した私は、それ以上理由を聞かず、すぐにギルマスの部屋に2人を案内した。



 ♢♢♢



 コンコンコン


「ギルマス、神官様と大聖女様がお見えです」


 ガタガタッ


「…はぁ⁈ 直ぐにお通ししろ」


 …また、さぼっていたのかしら。私はそう思い、一応数秒待ってドアを開けた。


 ギルマスはメイちゃんと戦って以来、午前中はそれなりに仕事をしてくれる様にはなった。だけど、時間に余裕ができても、こちらから頼まない限りは追加で仕事をやってくれる事はない。まぁ、わざわざギルマスに頼ろうとする人が誰も居ないだけかもしれないけれど。


「し、神官様、ソフィー殿、お久しぶりです」


「ええ、久しぶりね、ゲイツちゃん」


 相手が神官様である為、ギルマスは頭を下げて挨拶をする。普段からは想像できない姿だけど、ギルマスでさえも、神官様には頭が上がらない。


 そして、ギルマスが2人を部屋のソファーに座る様に促す様子を見て、私は部屋を出てドアを閉める。緊急事態だと思われるから話の内容が気になるところだけど、ただの受付嬢の私が聞き耳を立てる訳にはいかない。


「待ちなさい、サクラ。あんたにも関係ある話よ。早く座りなさい」


「…え?」


 …どういう事かしら。私が部屋のドアを閉め終わる前に、何故か大聖女様から声がかかる。しかも、私も座る様に言われる。


 …私にも関係ある話なんて、全くもって心当たりが思いつかない。


 私の隣にギルマス、机を挟んだソファーに神官様と大聖女様。完全に私だけ場違いだと思う。


 だけど、そんな事はお構いなしに、大聖女様は話を切り出した。


「先ずはこれを見てちょうだい」


 そう言って神官様が出した紙は、ランキングだった。おそらく、今朝に最新のランキングを出したのだろう。そのランキング用紙をギルマスが受け取る。


「…はぁ、カーラ殿はどれだけ強くなるんだ。どういう鍛え方すれば、こんなに急激にレベルアップするんだよ。って、ぉお⁈ おれが10位に戻ってるじゃないか!」


 ギルマスがそう驚き、私は嫌な予感がしつつもギルマスが持つランキングを覗き込んだ。


 1 ユリアール・カーラ 358 『勇者』  

 2 サイレンツ・シルフィア 186  『神官』  

 3 ケルディ・サイコス 169  『大賢者』 

 4 シュレイダー 161

 5 ソフィー 160  『大聖女』 

 6 イルケード 158 

 7 レズリア・ジャイアント 150

 8 ミューリン 149

 9 レズリア・ガーランド 147 『国王』  

 10 カドリア・ゲイツ 146


「…え?…メイちゃんが居ない?」


 あり得ない。そんな訳ないと思い、もう一度よく見る。


 だけど、そこにあるはずのメイちゃんの名前は記載されておらず、メイちゃんの名前が消えた事で11位だったギルマスの名前が10位に記載されている。


「ど、どうしてですか⁈ メイちゃんは!」


 相手は神官様と大聖女様。失礼だと分かっていても、私は声を張り上げて、そう聞いた。だけど答えはもらえず、神官様は目を伏せる。


「…まさか…死んだのか?」


「死んでいません!メイちゃんが死ぬわけありません!」


 ギルマスが想像したくもない最悪の発言をし、私は声を荒げた。メイちゃんは世界で2番目に強い。スキルを使えば、1位(カーラ)を倒すことも可能。そんな娘が簡単に死ぬはずない。そう分かっていても、ランキングから消えているという事は、まぎれもない事実。


 心では否定しつつも、頭ではメイちゃんが死んだのではないかと考えてしまい、思わず涙が溢れてくる。


「私達がやるべき事は、最悪の事態を想定して対処する事よ。今考えられる最悪の事態は、強力な魔王が誕生し、勇者が敗北。聖女が殺され、勇者と大賢者が魔王城に監禁されているという事よ」


「うっ…」


 メイちゃんが死んだと仮定された想定。だけど、それだけじゃない。カーラや大賢者様にも命の危機が迫っているかもしれない。そう考えると、私の目から溢れてくる涙は、いっそうに止まらなくなる。


「イルケードちゃんとミューリンちゃんには今、王城に行ってもらっているわ。私達も直ぐに王城に向かい、国王様達と合流。準備が出来次第、最高戦力をもって、魔王城に進軍するわ」


 王都のギルマスと称号無しで最強の冒険者、イルケード様。そして、騎士団長シュレイダー様、国王様、前国王様。その戦力に、ギルマスと神官様、大聖女様。カーラと大賢者様を除く、ランキング上位が集結する事になる。


 ……でも、たったそれだけの戦力で、状況が変わるとは思えない。


 いくら戦力を集めたところで、カーラ1人分の戦力にもならない。それが分かっているからこそ、死地に向かうような顔つきをしているのだと思う。


 例えそうだとしても、唯一魔王に勝てる可能性があると思えるカーラを救い出すしか勝てる方法はない。カーラを救い出し、生き残った最大戦力で魔王を討つ。それが今、我々にできる最善手だという考えなのだろう。


「私にも何かで…」


「サクラ!悪いけど、足手まといを連れて行く余裕はないわ」


「…はい」


 大聖女様の言う事は、紛れもない事実。この場で私だけが一切頼りにならず、比べるまでもなく弱い…。分かっていても、自分の不甲斐なさが身に沁みる。私にも関係があると言われたのは、私は勇者(カーラ)の担当受付嬢で、他のギルド職員に情報を共有させるためでしかない。


「時間がもったいないわ。ギルマスは直ぐに行けるかしら?」


「ああ、大丈夫だ」


 …私がもっと強ければ、何かできたかもしれない。でも、そんな事を考えたところで現状は変わらない。


「サクラ、シャキッとしなさい!ここのギルマスも王都のギルマスも長期間不在になるのよ。受付嬢がしっかりしないと、余計に混乱を招くわよ!」


「…っ。はい」


 大聖女様の言う通りだ。私は、私のできる事を精一杯やるしかない。メイちゃんとカーラの無事を信じて、やるべき事をしなければ。私は意思を強く持ち、そう心に誓う。


 そして私達は、ギルマスの部屋を出た。



 ♢♢♢


 

 「お待たせしました。行きましょう」


 ギルマスが数分で準備を終え、ロビーで待つ2人に声をかける。神官様は無言で頷き、ギルドの出入り口に向かって歩みを始める。


 本当に最悪の事態が起きれば、この3人と会うのは今が最後になる。そう思うと、かけるべき言葉が見つからず、声が出せない。


 …いや、この考え方はダメね。次に会う時は、メイちゃんとカーラも一緒。絶対にそうなる。


 だけど、そう思い直してギルドから出ようとする3人の背中を見ると、急に視界が歪む。


 ジリッ…ジリジリジリ…


 不穏な音と共に、ギルドの中に現れた闇。その中から現れてくる人影。


「凄いよメイ!本当にギルドに着いちゃったよ!」


「ふふっ、そうでしょう。あ、サクラさん」


「ただいま!!」「ただいまです!!」


 夢か幻か…。そんな事はどうでもいい。どちらだろうと構わない。私の前にカーラとメイちゃんが現れたのは紛れもない事実。


「おかえり、メイちゃん!カーラ!」


 私は直ぐに2人に駆け寄り、抱きついた。




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