299.頼りになる便り 1
基本的には棚上げばかりだけど、みんなで話すことで大事なことにも気づけた。
もちろん考えなければいけないこともたくさんあるけど。
でもきっとみんなからすれば、私が勝手に動かないことが一番大事なのだと思う。出来るからやる、といって突っ走ってはダメなのだから。そりゃあね、突っ走っていた自覚もあるといえばあるのよ。だけど出来ることはしたいし、自分がやるべきだとも思っていたから。
王族とは責任のある立場だし。
説明されてダメだと言われても、理解と感情は別だった。出来ることをやってダメって言われるのはなんとなく納得も出来なくて……代わりにならないといけないのにって。
そこも変えていかなければいけない。線引きを上手くできるようにならないと、きっと自分が苦しくなるばっかりだ。出来ないことだけを嘆いて、ただただ突っ走るのでは意味がない。学びも、成長もない。
「ルーぅちゃーん! 私もー一緒に、パジャマパーティーしたいなぁー」
「いいの!?」
「もっちろーん!」
くふくふと笑いながら、寝間着姿のカティア将軍が提案してくれる。そういえば、前に将軍の家にお泊まりしたときは部屋は別だった。ステラさんと将軍で言い合いになっちゃったのよね。そして最終的に一人ずつ、ということになったのだ。メルゼさんが二人を正座させて怒っていたのを思い出す。
一緒にベッドに入り、ちょっとだけ明かりを落とす。そしてカティア将軍に色々な話を聞いた。リリや、他の子たちがカティア家の治める領地でどうしてるかも気になったし。
「リリたちは元気よ。姉上も鍛えがいがあるってにっこにこしてたもの」
「そっか……お願いした手前、私に出来ることないし丸投げにしちゃったなって心配していたの」
「いいのよ。ルーちゃんは私たちに提案しただけ。それを受けるかどうかは、私たちの問題。私たちはそれでいいと思ったんだから、丸投げじゃないのよ」
「そういうもの?」
「そうよ。だって自分で関わったものをぜーんぶ最後まで面倒なんて見られないわよ?」
そんな人間がいたらものすごい超人だ。そういわれて、そんなものなのか……と感じてしまう。全部できなくてもいいのかな。もちろん必要だと言われていることは、出来ないと拙いと思うけど。
「――――……適材適所も、線引きも、難しいわよね? だけど、ルーちゃんが背負う必要のないことはたくさんある。そこを間違えちゃダメよ?」
「うん……」
「難しく考えなくて良いのよ。これはイヤ、って拒否して良いんだから」
「でも簡単にできないのよ?」
「良いのよ簡単にして。だって向こうはルーちゃんを侮っているのでしょう? だったら優秀なご自分でしたらいかが? っていってやんなさいな」
「それは、たしかに」
私を侮るフィルタード派閥の貴族たちは多い。それは親がそういう方針だから、子供もそう。というだけ……そう思おうと思っていたけど、世の中にはリリア嬢のような子もいるものね。王族よりも自分の方が偉いと思っている子が。
だけどあの縦ロールは凄かったな……そんなことを思い出して、ちょっと笑ってしまった。
「なあに? なあに? どうしたの??」
「ラステア国に行く前に、凄い子がいたなって思い出したの」
「凄い子?」
「ものすごーく勘違いしていた子なんだけど……もうカレッジを辞めさせられちゃったから、会うことはないかな。ある意味、親の影響を受けすぎてしまった気の毒な子なんだけどね」
リリア嬢の話を聞かせると、カティア将軍は「なんて子なの!」って怒ってくれる。だけど私はもう彼女の顔さえ思い出せない。ただ縦ロールが凄かったなぁ……あと強烈な性格だったなって思い出すくらいだ。
そんなことを熟々と話していると、徐々に眠くなってしまった。
***
目が覚めると、隣にカティア将軍の姿はない。ユリアナに聞くと、朝の鍛錬に行ってしまったそうだ。
「起こしてくれれば良かったのに……」
「ルティア様がよく眠られていたので、そのままで、とのことでしたから」
「それじゃあ朝食も?」
「朝食は鍛錬が終わってから、と仰ってましたが……騎士団の寮で召し上がるとのことでした」
「騎士団の? あ、そういえば……昨日ロイ兄様の宮から帰るときに何か話してたかも」
「ではそのときに何か決めていたのかもしれませんね」
「そうね」
一人の朝食は、大勢で食べることになれた今はちょっと寂しいけれど仕方ない。畑に行ってから、騎士団へ向かおう。そうしたらお昼は一緒に食べられるかも? そんなことを考えていると、ロビンが手紙を携えてやってくる。
「姫さん、おはようございます。侍女長には試しましたか?」
「いやあね。試さないわよ。カフィナに怒られるのイヤだもの」
「別に怒られることしなくても、競争してって頼めば良いじゃないですか」
「そ、その手があったわね……でもやっぱりいいわ。普通に「姫様のされることではありませんよ!」って注意されると思うもの」
チラリと側にいるカフィナを見る。するとカフィナは「少しぐらいは平気ですよ?」とすました顔でいった。
「え? 本当に??」
「昔のように逃げ回ったり、ではないのでしょう?」
「そりゃ、そうだけど……でもやっぱりいいわ。私が走り回れるって、知られてない方が何かあったときに相手を騙せそうだし!」
「何かないようにしていただきたいのですが……?」
「不測の事態は起こらないように頑張るけど、それでも起きるときは起きるもの」
「ま、そこまではね……姫さんの責任じゃないですしね」
「でしょう?」
私が肩を竦めれば、みんなも仕方ないという表情になる。私だって面倒事を起こしたいわけじゃないのよ。これからは特に。でも線引きをしたことによって引き起こされる面倒事もある。それはもう仕方ないと諦めるしかないのだ。
気をつけていても転ぶことはある。それと一緒だ。
「それより、手紙って? もしかしてアリシア??」
「ええ。さすがにクアドに持たせるには、普通の手紙ではちょっと難しかったので短いですけどね」
そういってロビンは丸まっている小さな紙を私に手渡してきた。くるくると丸まっているのは、クアドの足についている筒に入れるためだろう。クアドは魔鳥だから、普通の鳥が付ける筒よりは大きなものをつけているけれど。それでも普通の手紙は持ち運びが難しい。
これはやっぱりクアドたちが持てるサイズのマジックボックスを作らないとね。
小さな斜めがけタイプとかどうだろう? ちょっと可愛くなったクアドを想像してしまった。良いかもしれない。
手紙を広げれば、アリシアの綺麗な文字で「薬草たくさん育ててますよ!」と書かれていた。ファーマン侯爵領なら、トラット帝国からも近いし薬草を早く届けられるだろう。
たしかトラット帝国の中でもレナルド殿下の領地と隣接してるはずだしね。ファーマン侯爵領的にも、トラット帝国から疫病に罹った人たちが押し寄せられても困る。
薬で安全が買えるなら、領民たちからも文句は出ないだろう。特定商品の輸出規制はあるけれど、一応作物などの輸出規制はそこまでない。ただファーマン侯爵領の領民たちはあまりトラット帝国と関わってほしくないだろう。
これはちょっと難しい問題なんだけど、豊かになってきたからこそ奪われないか? と懸念してしまうのだ。相手が相手だけに。
「……そういえば、アリシアの手紙が来たってことはファーマン侯爵から回答が来たの?」
「侯爵の手紙には、出力を弱めて広げてみては? と書かれてましたね」
「出力を弱めて、広げる?? 矛盾してない??」
「そうですよねぇ……。ロイ様はなんか、こう、わかった! って顔してましたけど」
「ロイ兄様は……私たちとは別の場所を生きてるもの。兄妹なのに頭の出来だけは、私たち全く似てないのよね」
「ロイ様は学者肌ですからね。姫さんは直感派だし」
ロイ兄様が持っている記憶力。それを少しで良いから分けてもらいたい気分だ。
それにしても、出力を弱めて広げるってどういうことだろう? そもそも、魔力過多の畑は魔力がたっぷり含まれた状態。それをそこそこ、に下げるには一〇〇ある魔力を五〇ぐらいまで下げるということではないのだろうか?
いや、通常の畑がどれぐらいの魔力量を含んでいるかわからない。トラット帝国の土地がゼロであろうということは、わかるのだけど……
「うーん……さっぱりだわ」
「これに関しては俺もですね。おかしいな……俺もロイ様と一緒に学んでいるのに」
「ロビンも学んでるって……どんなことを?」
「ロイ様が学んでいること全部ですよ。基本的な勉強から、気になりそうなところまで幅広く。それができる従者ってもんですからね!」
さっと胸に手を当てつつ、どやっとした表情を見せる。それが凄いことは十分わかるのだけど、あれ? もしかしたらリーナも? リーナもそうなのだろうか??
パッとリーナに視線を向けると、ロビンに対して若干引いた目を向けていた。そして私と目が合うと、小さく頭を左右に振る。
つまりロビンが特殊なだけ? 私は未だどやっとしているロビンに苦笑いを浮かべた。
ま、ロイ兄様の側にいるのだし? 必要なのかも、しれない。




