286.収穫と相談と 1
食事が終わり、リーナがロイ兄様の小離宮から戻ってくる。ネイトさんの部屋を用意して待っています、とのことだったのでこちらも問題はなさそうだ。
「そういえば、今日はどうするの?」
「今日は畑にいって収穫作業をしようかなって。薬用に場所も確保しなきゃいけないから」
「それなら私も手伝うわ」
「そうですね。実際に薬がどんなものなのかも知りたいですし」
「わかったわ。弟のライルそれと幼馴染みの子、三人も一緒なの。あとカーバニル先生もね」
「弟君とは初めましてね。それと幼馴染みの子は……シャンテ君以外の子?」
「ええそうよ。みんな良い子だから大丈夫だと思うわ」
私がそういうと二人とも楽しみだと言ってくれる。食後のお茶を飲んだら、着替えて移動になるのだが……二人の着替えはどうしよう? 二人が着れるような汚れても平気な服は用意がない。手伝ってくれる気満々な二人に、やっぱりちょっと……というのも気が引ける。
そのことを二人に話すと、上着を脱げば大丈夫だと言われてしまった。どうやら訓練をするときも上着を脱ぐだけなのだとか。そういえば、向こうで訓練していたときも袂の長い上着を脱いで訓練していたような? それならば遠慮なく手伝ってもらおう。
「しかし魔力過多の畑は楽しみですねぇ」
「ネイトさんは見るの初めてだったかしら?」
「私はー何回かあるもんねー!」
「そうですねぇ。将軍が抜け出さないように見張ってましたからね。実は初めてです」
ジトリとした目でネイトさんに見られ、カティア将軍はそっぽを向いた。アレは逃げてきていたのか。苦笑いを浮かべながら、日頃のネイトさんの苦労を慮る。
「そういえば……今回は急に決まったでしょう? 大丈夫だったの??」
「だーいじょうぶよ~」
「ほ、本当に?」
私は軽い調子のカティア将軍に思わずネイトさんを見てしまう。だって暫くファティシア王国にいるわけだし。引き継ぎとか、それ以外にもあるのではなかろうか?
いくらコンラッド様がOKを出したとはいえ心配になってしまう。
「今回はまあ、一応……王弟殿下の要請なので。一応、本当に一応ですけど、大丈夫なはずです。急ぎの仕事は出てくる前に片を付けてきたので」
「それならいいのだけど……でもカティア将軍にお願いしたのは、やっぱりレイドール領とのことがあるからかしら?」
「そのようですね。初めは国同士の施策として、徐々に民間に移行できればと。そのためにはすでに飛龍便を取り入れているレイドール領を参考にするために、将軍に要請が来た形です」
「そうなのよ! だからルーちゃんが心配しなくても大丈夫よ!?」
「普段が普段だから心配されるんですよ……」
もう少し、普段から真面目に仕事してればそんなことはないんです。滔々とネイトさんが話しだす。カティア将軍は肩を竦めて私にペロリと舌を出した。
***
荷物を乗せる都合上、畑に行くには馬車になる。
三人で馬車に揺られながら、移動するのはなんだか新鮮だ。向こうでは馬で移動することはあっても、馬車に乗ったのは行き帰りぐらい。あとは飛龍に乗って移動することが殆どだった。
「いやぁ、新鮮ですね。馬車に乗るのは」
「やっぱりラステア国だとあまり馬車に乗らない?」
「乗るのは大体、深窓のご令嬢くらいですよ。殆どのご令嬢は飛龍を操りますからね」
「そっかぁ」
「ですがファティシア王国の馬車は乗り心地が違いますね。座席がうちの国より柔らかいような……?」
「それファーマン侯爵考案なの。長時間乗ってると、体が痛くなっちゃうから。それに悪路とかね……本当に大変だったの。すらいむの魔術式を応用して、振動を吸収して程良い柔らかさを可能にしたのよ!」
すらいむの魔術式はどんどん改良されて、今や夏場の水やりだけではない。馬車の座席や、赤ちゃんのベッド。それに義手や義足の緩衝材としても使われている。あと冬場の行火にも! 行火は温かさも朝まで続くし、重宝している。
五年前のアリシアの思いつきからはじまったわけだが、今やファーマン侯爵家がいつ新しい魔術式を発表するのか……と沢山の家が興味津々だ。
とはいえ、アリシアは「お父様がちーとなだけです」と言っているのだけど。アリシアの興味が赴くまま、楽しんで作ってもらえたら私としても嬉しい。
「これ、クッションにほしいですねぇ。座り仕事だと腰がね……」
「クッションもあるわよ。あとで作ってあげるわね」
「ルーちゃん私も~」
「将軍はクッション必要ないでしょ。逃げ回る人には必要のないものです」
「そんなことないわよ! 私だってルーちゃんが作ってくれたクッションがあればちゃんと仕事しますー!」
二人して言い合いを始めるので、私は二人に作ります。と宣言するしかなかった。
そうこうしているうちに畑に着く。馬車を下りれば、ライルたちがすでに来ていた。側にはベルもいる。みんなに向かって手を振ると、ライルが軽く手を振り返してくれた。
「時間大丈夫だったのか?」
「どうして?」
ライルの側に行くと、そう問いかけてくる。どうやらロビン経由で私が朝からお父様の元へ行っていたのを聞いていたようだ。私は問題ないわ、と答えると少しホッとした表情になる。
最近のライルはちょっと紳士的になったようだ。もう少しでカレッジに入学するわけだし、徐々に子供っぽさが抜けてきたのだろう。なんだか不思議な気分だ。でもきっと良い傾向なのだろう。内心で頷き、私はカティア将軍とネイトさんを紹介することにした。
「ライル、こちらラステア国のカティア将軍と将軍付の文官でネイトさんよ」
「初めまして、ライル殿下。ご紹介にあずかりましたラステア国将軍、リオン・カティアです。どうぞお見知りおきを」
「私は将軍付の文官、ルシアン・ネイトです。どうぞよろしくお願い致します」
「ご丁寧にありがとうございます。僕は、ライル・フィル・ファティシア。ファティシア王国第二王子です。よろしくお願いします」
ライルはそう挨拶をすると、ジルとリーンを二人に紹介する。シャンテだけは再会の挨拶をすると、最後に私がベルを紹介した。
これで全員紹介し終わった……が、おかしい。今日はカーバニル先生も来る予定なのだ。あと時間が合えばロックウェル魔術師団長も。それなのにいないなんて……
「ねえ、ライル。カーバニル先生は?」
「あーそれが来てないんだよ。来るって話だったよな?」
「ええ、そうよ。収穫が終わったあと、また種まきしないといけないし……手の空いてる人を連れてくるって話だったの」
「魔術式研究機関は忙しいんじゃないのか? 人って……俺たち以外に来るのかな??」
「そのはず、ではあるわね。さすがに魔術式研究機関の畑までは私たちだけじゃ収穫できないわ」
「だよな……」
最初の頃に比べ、かなり、いやとても、もの凄く広くなった畑。
気がつくと森も整備されて、小さくなっている。それぐらい畑は広くなった。その収穫をこの人数だけでやるのは無理だ。魔力過多の畑にし、均すのことはできるけれど収穫だけはどうしたって人海戦術が必要になる。
「どうしたのかしらね?」
「先に、姫殿下の畑から始めますか?」
「そうね。私の畑から始めましょうか。新しい種も植えたいし」
ベルの言葉に私は頷くと、カティア将軍とネイトさんに手袋の予備を渡す。収穫する薬草や、果物を伝えれば二人は張り切って収穫作業をしてくれた。そんなに最初から飛ばすと疲れてしまうのでは? とちょっと不安になったけど、普段はもっと動いてるものね。たぶん大丈夫なはず。それにネイトさんもいるし。
私たちは各々別れて畑に散った。
「なあ、ルティア。シュルツ卿は、まだファティシアにいるのか?」
「そうね。ウロウロしてると思う」
「たしか、カレッジに妹がいるんだろ? あんまりいい噂聞かないけど……大丈夫か?」
「平気よ。その辺は、ね」
ちょっと含みのあるいい方をしておく。気になればライル自身がアッシュにどういうことだ? と尋ねるだろう。いや、そうでなくてはいけない。不審なことをそのままにしておくことは、後々問題が発生するからだ。
気になって、アッシュに確認する。アッシュはそこからロビンに話を持っていく。自分で調べてもいいのかどうか。そこでロビンからネタばらしがあるかもしれないし、ないならないでロイ兄様の意向ということになる。調べて、事実を探す。噂だけを鵜呑みにしない。
私たちに求められている見る力、だ。
そんなことを考えていると、畑の入り口が俄に騒がしくなってきた。入り口を見れば、馬車と馬に乗った人たち。その多さに目を瞬かせた。
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