276.王子と王女のお茶会 4
「ひとまず、ヒュース騎士団長には父上を、夫人には母様を狙う理由があるとしよう」
「最初から疑ってかかるのはどうかしら?」
「でも選べる立場だっただろ?」
「選べるって……当時の護衛騎士のこと?」
「そう。それにね、近衛騎士の選定には彼も関わっているんだよ」
「えっと……それってライルの周りにいた、近衛騎士のこと?」
「うん。侍女や侍従たちにフィルタード派が多かったのは、リュージュ妃が正妃であったがために起こったことだけど近衛騎士に関してはハウンド宰相に騎士を推薦する立場なんだよね。ヒュース騎士団長は」
まっとうな考えを持った近衛騎士であれば、ライルはあそこまで拗らせワガママ放題にはならなかった。ロイ兄様にそう言われて、ライルの状況が故意に作られたものであるならそれも謎の一つということになるのではなかろうかと思ってしまう。
「こう考えるとたしかに謎を解いている気分になるわね」
「大元は一つなんだけど、そこに行く過程でそれぞれ謎が用意されているんだよ。その大元に向かうための。僕らはそれを逆から解いている感じかな。謎を提示されているわけじゃないから」
「たしかに、そうなるわね?」
「全部の謎を解くと全容が明らかになる。たとえば僕に呪いをかけるなら、フィルタード侯爵家が絡んでくるだろう。だけどそこにはトラット帝国も絡んでくる。僕が国政に携わると不正をしにくくなるとかね」
「ジルの場合はその不正を見過ごしていたハウンド宰相に対する謎があるのかしら?」
「ハウンド宰相が不正を見過ごすとは思えない。だけど見過ごさざる得ない、何かがあってそれを使って脅されていたとしたら?」
「……もしかして、ヒュース騎士団長のことかしら?」
「ジルもシャンテもリーンも幼馴染みだ。彼らの繋がりを通じて謎を解く。その中でもリーンの謎が一番重要とかね」
アリシアは攻略対象には難易度がある、といっていた気がする。一番攻略がしやすいのはシャンテだったと言ってはいなかったか? そうなるとシャンテはリーンを通じて、謎を解く形なのかも。もちろんジルもそうだろうけど、ジルの場合は進行形で父であるハウンド宰相が不正を見過ごしているのなら……その不正解明も謎の一つに加わるわけだし。
「そうか。ライルに会わないとロイ兄様に会えないのなら、ロイ兄様を攻略する難易度は他の攻略対象よりも上よね」
「呪いという、不可思議な現象もあるしね」
ということは難易度的にシャンテ、ジル、リーン、ライル、ロイ兄様となる。そして全員攻略後に、隠しキャラが出てくるらしい。アリシアが唯一、知らない相手。
もしも攻略対象になるなら、誰だろう? 私は思わずロビンに視線を向けてしまう。ロビンは私の視線に小さく首を傾げた。
「……もしかして、ロビンが隠しキャラ?」
「僕と会うと会えるわけだから隠れてなくない?」
「それは、たしかに?」
「隠しキャラは俺じゃあないでしょうねぇ。もっと意外性のある、それでいて真相に近づくために必要な人間じゃないですか?」
「真相に近づくために必要な人……?」
そんな人が私たちの周りにいるだろうか? ヒロインが攻略対象たちと協力して謎を解くわけで。ヒロインに協力できる人でないとダメなはず。
ロイ兄様を初めとした、ライル、シャンテ、リーン、ジルは親世代の話がそのまま引き継がれている。つまり隠しキャラも親世代からの縁がある人? だけど私たちの周りにそんな人はいないはず。いたら顔を合わせてそうだし。
私が悩んでいると、ロビンが「一人いるでしょう?」と謎かけのように言ってきた。一人、いる? 私たちの周りに?? ロイ兄様の顔を見れば、にこりと微笑んでいる。つまり答えがわかっているのだ。
「……隠しキャラ、なのよね? つまり隠れている人?」
「ゲームのシナリオ上、隠れているというだけで僕たちからしたら隠れているわけじゃないよ。この世界はゲームではないしね」
「それはそうよ。ゲームじゃない。えっと……それで隠れているわけでもなく、私たちの知っている人物よね? その隠しキャラって」
「そうなるだろう、という人物はいるよ」
「私も知っている?」
「もちろん」
私が知っている、そして親世代から縁のある人。誰だろう? 私の知り合いはそう多くはない。親世代、といわれればもっとだ。親、親が関わっている。お父様の事件に。
「あっ……!」
目の前が開けたかのように、ある人物の顔が思い浮かぶ。でも、彼は……隠しキャラと言うにはあまりにも、あまりにも――――
「隠しキャラ、らしくないと思うのだけど」
「そうだね。アリシア嬢も知らない隠しキャラ。だけどもしもヒロインが知っていたら? 前にカーバニル先生が話していたよね。フィルタード侯爵家に出入りしている下位貴族の令嬢がいるって」
「もしかして、その子がヒロイン!?」
「可能性の話だけど、たぶんそうだと思う。ただアリシア嬢の話に聞く容姿とはだいぶ違うのだけどね」
「ロイ兄様はその子を調べていたの?」
「お祖父様に頼んで、ちょっとだけね。なにせあのフィルタード侯爵家だよ? 下位貴族がそう頻繁に出入りさせてもらえるような家じゃない」
そういえば、カーバニル先生も不思議がっていたな。頻繁に呼ばれているようだったって。どちらかの婚約者候補なのかも、って言ってた気もする。
それにフィルタード侯爵家では令嬢は可愛がられているけど、令息……つまりエスト・フィルタードは父親と祖父からはあまり相手にされていないという話ではなかったか?
「もしも……アリシアの話の通りに進んでいたのであれば、今のエスト・フィルタードはもっと違った性格だったかもしれないってこと?」
「エスト・フィルタードはフィルタード侯爵家の罪を暴ける立場だ。全ての謎を明らかにするには侯爵家の中に手伝ってくれる人物が必要不可欠だよね? だって僕らは侯爵家に出入りは出来ないのだから」
「そう、ね。たしかにそうだわ。私たちじゃ真相の一番大事な部分。証拠を入手できない。フィルタード侯爵家が何をしたのか、その証拠はきっとあの家にあるはずだもの」
「フィルタード侯爵家は他家の弱みも握っているはずだからね。自分たちの手元に大事なものは置いているはずだ。それを持ち出せるのは、エスト・フィルタードのみ」
「だから全員を攻略してからじゃないと、隠しキャラといわれる彼のルートは見ることが出来なかったのね?」
「たぶんね」
なるほど。フィルタード侯爵家の悪事を全て明らかにするための協力者。そう考えれば、全員の謎を解かないといけないのも納得だ。全員の謎が解明された先に、フィルタード侯爵家があるのだから。
そもそも私たちはフィルタード侯爵家が黒幕だと思っている。だからエスト・フィルタードも私からすればやっかいな相手でしかない。だけどヒロインの視点で考えれば、そういったマイナス面の情報は何もないのだ。兄妹間で格差があり、家を継ぐための道具としてしか見られていない。
いや、フィルタード侯爵家が王家に成り代わるのなら……エスト・フィルタードが王位を継ぐことはない。むしろ邪魔なくらいだ。たしか妹の、エメルダをライルの正妃にすればいい。そして彼女はフィルタード侯爵家で甘やかされて育っている。フィルタード侯爵家では自分こそ正しい! そう育っていてもおかしくはない。
邪魔な兄を排除しようとする可能性もある。
「もしかして、ヒロインは……エスト・フィルタードに同情してしまったのかしら?」
「男爵家の令嬢は、普通に考えれば王家と繋がりは持てない。だけどフィルタード派閥の集まりであれば、下位の令嬢も出入りできる。同じ派閥で顔を繋いでおく必要があるからね」
「そこでエスト・フィルタードと出会った?」
「アリシア嬢のようにお人好しな令嬢ならば、彼に言って「事故」を止めさせようとしたかもね。エストはライルの従兄弟だし」
「でもエスト・フィルタードはそうしなかった?」
「さすがに「貴方の父親や祖父が黒幕で、国王を暗殺しようとしている」 ……なんて言っても信じてはもらえないだろうしね」
僕たちだって半信半疑だったろ? と言われれば頷くしかない。最善を尽くしたからこそ、生き残れたわけだし。アリシアの話を夢物語と拒絶していたら、お父様もマリアベル様も生きていなかった。そして双子たちも。
「あっ……」
思わず声を上げた私に、ロイ兄様とロビンの視線が刺さる。
私はどうしてヒュース騎士団長がお父様とマリアベル様を殺そうとしたのかわかってしまった、と一言告げた。




