275.王子と王女のお茶会 3
ロイ兄様の謎は、呪い―――― かもしれない。
ライルは出生、じゃあシャンテとリーンとジルはなんだろう?
「……他の三人の謎って何かな?」
「そうだね。リーンはもしかしたら、というのがある」
「なあに?」
「ヒュース騎士団長は、父上たちと一緒に亡くなっていたはずだ。つまりそこに謎がある。リーンは事故の原因を探るんじゃないかな」
「事故の原因? でもあれは……」
「そう。あれは故意だ。だけどそれは父上とルティアたちが生きているから、故意のものであると判断できる。亡くなっていたら、ずっと事故のままだよね?」
「それは、そうだけど……リーンが事故を故意の事件だと認識する原因はなにかしら?」
現状、あの件は事故ということになっている。ヒュース騎士団長たちが再度調べたけれど、故意であると示す証拠が出てこなかったからだ。だけど雨も降っていないのに、あの規模の地崩れは普通は起きない。
「僕は……ずっと、気がかりなことがあるんだ。もちろんこの気がかりが、気のせいであれば良いと思っているけれど」
ロイ兄様の言葉に私はハッとする。
「……もしかして、ヒュース騎士団長を疑っているの!?」
あんまりな考えに私は驚いて椅子から立ち上がってしまう。ヒュース騎士団長は、お父様の幼馴染みで親友だ。それだけでなくファティシア王国の騎士団長という重責を担っている。
お父様と幼馴染みと言うだけで、その地位に就くことは出来ない。並々ならぬ努力と研鑽を積んできたはず。
それは偏に、ファティシア王国に忠誠を誓ってくれているからに他ならない。
五年前、お父様が事故に遭ったときだって一番に探しに来てくれた。すらいむの魔術式はあの時点では誰も知らない魔法。そんな中でもお父様や私たちの身を案じて行動してくれている。それにラステア国に行く途中、フィルタード派に襲われたときだって第四と第五の騎士たちを率いて探しに来てくれた。
「よく考えてみて、ルティア。彼は護衛をしていた。つまり、彼にも地崩れを起こすタイミングは合ったんだ。なにせ一緒に巻き込まれた騎士団長を疑う者はいない。あのまま死んでいたら、事故の巻き添えとしか思われないよ」
「でも……それとリーンの謎とどう繋がるの?」
「リーンは将来、騎士と魔術師との間で悩むよね? そのときにヒュース騎士団長の遺品を見る機会があったら?」
「その中に、地崩れを起こす魔法石があってその謎をヒロインと追うということ?」
私の言葉にロイ兄様は小さく頷く。事故と思われた件が、もしかしたら自分の父親が関わる陰謀であったなら―――― その謎を解明する、というのであればたしかに謎解きになる。
「ただどうして父上を暗殺することになったのか、その理由がわからない」
「そうね。今だって二人の関係は良好に見えるもの」
「そこで出てくるのが、夫人だ」
「ヒュース夫人?」
「夫人は母様に良く会いに来ていた。でも彼女の実家はフィルタード派だ」
「つまり、お母様の死因に関係している……? でもヒュース騎士団長の妻になったのに、そんなことするかしら??」
「そこまではわからない。フィルタード派としての行動なのか、もしくは別にあるかもしれない」
「別?」
「母様は、騎士たちの憧れの存在だったみたいだから。マスト団長を見ればわかるだろ?」
たしかにランドリック団長はお母様を崇拝している。いや信奉といってもいい。
お母様を知っている騎士たちは比較的その傾向が強い。私を見ると懐かしく、それでいて哀愁を帯びた目で見てくるのだ。カティア家の教えに則った、実力主義の仲で育ったお母様は魔物討伐では先頭に立って戦ったと聞く。
普通の貴族令嬢では有り得ない。
学生の頃から討伐に参加していたと聞いている。きっと初めは馬鹿にした騎士たちもいたはずだ。それが尊敬から憧れへ。そして崇拝になったのだろう。彼らを見る限り、そんな想像ができる。
「……ヒュース騎士団長は、お母様に憧れていた?」
「母様は父上に猛アタックを受けて結婚している。その側にはヒュース騎士団長もいたはずだ。たとえ憧れや……もしくは慕情を抱いていたとしても、表には出さなかっただろうね」
「お父様がお母様を思っていたから?」
「――――これは、母から聞いた話なんですけどね。カロティナ様は、陛下からの求婚をずっと断っていたそうですよ」
「「え!?」」
ロビンの言葉に私とロイ兄様は驚いて声を上げる。いやいや、だって恋愛結婚だって聞いている。お父様が猛アタックをして結婚したのだと。だから思い合って、結婚したはず……よね?
思わずロイ兄様を見ると、兄様も目を瞬いている。初耳のようだ。私はロビンを見上げ、どういうことなのか問いただす。
「断っていたって、お母様はお父様が好きじゃなかったの!?」
「そう言うわけではないんじゃないですかね? 最終的に結婚してるわけですし」
「じゃあなんで!?」
「レイドール伯爵家的には、王家とお近づきになりたくなかったからです」
「それは……もしかして、お祖母様たちの死に関係している?」
ロイ兄様がロビンに問いかけると、ロビンは小さく頷く。
「はい。レイドール領で大規模な魔物暴走が起こったとき、王家に助力を求めたそうです。ですが王家はそれを拒否した。まあ拒否した原因はフィルタード侯爵家が辺境伯家を助ける必要はないと断固反対したせいですけどね」
「……そんな時からフィルタード侯爵家は邪魔していたの?」
「邪魔というか、旦那様が目障りだったんだと思います。フィルタード侯爵が先代の陛下の側近をしていることに異を唱えた一人ですから」
中立性、という意味ではフィルタード侯爵が側近でいるのはよくない。それはどの侯爵家からも話が出たはずだ。もちろん侯爵家以外からも。そしてレイドール伯爵家は侯爵家に次ぐ古い家柄ではあるが、侯爵家ではない。そこがフィルタード侯爵の勘に障ったのだろうか?
「フィルタード侯爵の意趣返し、ということかな?」
「でしょうね。ですが、当時のレイドール領はそれを知る立場にありません。なので王家から見捨てられた、と思ったことでしょうね。被害があまりにも大きかったので」
「そう。それなら母様が父上からの求婚を断るのは頷けるな」
「はい。だから誰もカロティナ様と陛下が結婚するとは思っていなかったんです。もしするなら王家を抜ける必要がありますからね」
「だけど父上は王家を抜けた……?」
「そこまでされて、カロティナ様も根負けしたのかと」
つまりお父様の粘り勝ち? それを間近で見ていたお母様に思いを寄せていた人たちはどう思っただろう。私なら、そこまでして一途に思い続けたお父様を凄いと思うのだけど……
「もしかして、王家に戻ったお父様を……ヒュース騎士団長はよく思ってないのかしら?」
「どうかな。父上が戻らなければ、王家は空位のままだ。それこそ国が乱れる。だから父上が戻ることに反対することは……あ」
「え、どうしたの?」
「父上は、周りにどう見られたのかな」
「どうって?」
「ほら、王位に就くと同時にリュージュ妃と結婚しただろ?」
「あっ……」
私たちはリュージュ様の事情を知っている。だけど当時はお父様とお母様、そしてリュージュ様しか事情を知っている人はいなかったはずだ。王家を出てまで一緒になった人。その人を正妃ではなく、側妃。そして兄の婚約者を正妃に。ここまでなら、王太子妃教育を受けていたリュージュ様を優先した、と思うかもしれない。
だけどリュージュ様はすぐにライルを産んだ。
形だけの正妃ではなく、しかも生まれた子供は王位継承権第一位。フィルタード侯爵家に慮った、と思われるだろう。しかもお母様はライルの乳母役も担っていた。端から見れば、王家を抜けるほど愛した人を王位に就いた途端蔑ろにしたと思われてもおかしくはない。
「ヒュース騎士団長がどんな思いを母様にもっていたかはわからない。だけど母様の扱いを見て、腹を立ててた可能性はある」
「でもそこで夫人がどうして出てくるの?」
「夫人は、ヒュース騎士団長を思っていた。それなら母様を心配する騎士団長を見て思うところがあってもおかしくないんじゃないかな」
「嫉妬、したってこと?」
「母様を殺せる人は限られるからね」
「でもそしたら、ヒュース騎士団長がお父様を狙った理由は? お母様が生きていたら、お母様を解放するためとか色々あるかもしれないけど……死んでいるのなら意味がないわ」
「そこなんだよね」
ロイ兄様はそう言うと、小さくため息を吐いた。
まだ点と点。謎は解けない。
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