274.王子と王女のお茶会 2
「フィラスタ伯父様が殺されたのは、自分たちに都合が悪いから?」
「父上は、国王になる気がなかったからその辺の勉強はしていなかった。つまりそれを知っていたのなら、自分にとって都合の良い傀儡にすることが出来ると思っても不思議はないよね?」
「でもそうなるとどうしてお母様が狙われるの?」
「そこがね、不思議なんだよね。もちろん母様が邪魔なのはわかる。でもリュージュ妃がライルを産んでいる以上、側妃である母様を殺す必要はない。たとえ僕がいたとしてもね」
そこで私は首を傾げた。側妃といえども、正式な夫婦であったお父様とお母様の間に生まれた子供だ。王位に就いたのはそのあと。
「ロイ兄様は長男なのに?」
「でも後宮では側妃の子。父上は自分を繋ぎの王だと認識していたからこそ、王位をライルに委ねることにしていた。だから僕を継承一位にはしなかったんだと思う。でももしかしたら……気がついているのかもね。ライルの出自に」
もしもロイ兄様が王位継承一位で、ライルが二位だった場合。ライルの出自を知っているのであれば、それの事実を取引材料としてライルを王位に就けさせることができる。
ある意味、ライルは不義の子。
たとえフィラスタ伯父様とリュージュ妃が愛し合って生まれたとはいえ、フィラスタ伯父様は王位をきちんと継ぐ前に亡くなっている。それなのにライルは現国王の子供として、認められているのだから。
お父様とお母様、そしてリュージュ様だけの秘密であったなら――――
蒼い瞳は王族の証。だから誤魔化せる。三人ともそう思ったからこそ、ライルをお父様の子供として育てることにしたのだ。フィラスタ伯父様の子供を身ごもったまま、新しい国王に嫁いだら大問題だもの。それこそフィルタード侯爵家だって連帯責任を負う側になるだろう。
「ライルの出自は、諸刃の剣……ってことね?」
「そうだね。父上たちだけが知っていたなら……問題なかったんだろうけど。でも不思議なんだ。この件で口外する人は誰もいない。なのにライルの出自に気がついた、となると誰か内通してる人が居ないといけない」
「でも気がついてない可能性もあるでしょう? 可能性の話なら……」
「可能性の話なら、いつだって最悪を考えておくものだよ」
「そういうもの?」
「そう。あらゆる事態の最悪を考えておく。そしてどんな手を打てるかもね」
知られてないなら、良かった。ではダメと言うことなのだろう。なかなか難しい。
私はサーブされたケーキを口に運ぶ。真っ赤なイチゴがのったケーキはとても美味しい。紅茶を一口のみ、ふうと一息つく。テーブルの上にはケーキと紅茶のセットの他に、いつものようにチェス盤が置かれていた。
「お母様が亡くなって喜ぶ人って、誰かしら?」
「そもそもそこからなんだよね。母様が亡くなって喜ぶ人間って、そういないから……だって社交界に顔も出さない側妃だよ? 値踏みしようにもできないだろ」
「それもそうね。社交界でどんな噂が出回っていても、直接参加しないなら嫌味のいいようもないわ。それに耳に入れるにしても、知り合いが殆どいないなら……知り合いってお母様と仲のいい人、でしょう?」
「そうなるね。母様の知り合いぐらいしか、後宮には顔を出していない」
「お母様の知り合いというと……ロックウェル魔術師団長?」
「うん。彼女もそうだけど、ヒュース騎士団長の奥方が良く訪れていたみたいなんだ」
「ヒュース騎士団長の? アカデミーで一緒だったのかしら??」
「そうでもないみたいなんだよね。学年が離れているし」
ロイ兄様が調べたところによると、ヒュース騎士団長の奥様。ティアナ・ヒュース夫人は騎士団長よりも四つ年下で、政略結婚だったそうだ。ヒュース夫人の実家はポラテット男爵家。この家はフィルタード派だと兄様が教えてくれる。
つまりヒュース騎士団長は、王家派や中立派からでなくフィルタード派と婚姻を結んだことになる。一体なぜ? 騎士団長に上り詰めるような人ならば、若い頃から注目されていただろう。たとえ王位に就かなかったとはいえ、第二王子の友人であったわけだし。
「どうして……フィルタード派の人と結婚したのかしら?」
「うーん……政略結婚、とはいっているけど夫人がヒュース騎士団長にずっと思いを寄せていたみたいなんだよね。それにヒュース騎士団長は騎士団長の職についたことで陞爵したけど、元々は男爵家の出身だし身分的にはあまり変わらないからね」
「陞爵したならなおさら、伯爵家から嫁いできてくれる人いそうなのに」
「そうだね。両家の間にどんなやり取りがあったかはわからないけど、ヒュース騎士団長と夫人の仲は良好みたいだよ」
ヒュース騎士団長が騎士団長の任に就いたのは、フィラスタ伯父様がまだ生きていた頃。国王であったお祖父様の代理で、騎士団長に任命している。そしてその頃に夫人と結婚したそうだ。つまり陞爵する前からの付き合いとなる。
貴族社会の面倒なところの一つに、自分の家より家格の高い家と繋がろうとする傾向が強い。フィルタード派に属する男爵家の娘との結婚。たとえ相手側が熱望したとしても、ヒュース家としてはあまり関わりたい相手ではないはず。なにせ第二王子の幼馴染みで友人なのだ。その繋がりで王太子からの覚えもめでたい。
リスクをとる必要が、ない。
「……お父様とお母様やロックウェル夫妻ならわかるの。恋愛結婚だもの。ヒュース家はどうしてフィルタード派と繋がったのかしら? それとも気がつかなかった??」
「それはないんじゃないかな。ただ、騎士団長の性格を考えると……夫人と結婚することに利点を見いだしたわけではないと思う。それに夫人は母様の元によく通ってきていたから。何かあれば後宮に出入りなんてさせないと思うんだ」
「それも、そうね……じゃあ政略結婚だけど、夫人はヒュース騎士団長が好きでそれを騎士団長も受け入れた形なのかな?」
「そうかもしれないね」
ヒュース夫人はまだ会ったことはないけれど、リーンの話からすると甘いものが好きな優しいお母様というイメージだ。リーンもとてもいい子だし、家庭内に問題があるようには見えない。アリシアの話の中のリーンは亡き騎士団長の願いと、自分の進みたい進路の違いで悩んでいたという話しだし。
「……そういえば、前にロイ兄様は悩みだって言ってたわよね?」
「うん?」
「ほら、アリシアの話では謎解き、でしょう? でもライルたちの話はみんな悩みだねって言ってたじゃない!」
「そうだね。彼らのルート、というのかな……それぞれの話は謎ではなく悩みだった。今現在、彼らがその悩みを抱えているようには見えないけどね」
「じゃあ、謎はなくなったと思う?」
「それと謎は別かな、と思っている」
「どんな謎があるの?」
「うーん……ライルに関して言うなら、自分の出生にまつわる謎かな。父上と母様が死んでるのなら、その秘密を知るのはリュージュ妃だけだ。ライルの悩みは僕を押しのけてまで、自分が王位についていいのか? 実は自分を王位に就けるためにリュージュ妃が父上を殺したのでは? と疑っている部分だしね」
となると、ライル以外の三人もそれぞれ別に謎を抱えていることになる。謎解きだし。ロイ兄様の謎は、もしかしたら……というのがある。
「あのね、ロイ兄様の謎は……もしかしたら流行病に倒れたことになってるけど、実は呪いをかけられていたんじゃないかって思ったの」
「呪い、そうか……継続的にかけていれば五年もの間、伏せっていたことにも頷けるね」
「そうなの! シュルツ卿から聞いた疫病の症状と、ロイ兄様の症状って何か違うのよね。似てはいるんだけど。それに五年も王族を放置するなんて、普通有り得ないわ」
「リュージュ妃が敵でないならなおさらだね。リュージュ妃なら、神官を派遣してくれるはずだ。なにせ僕は即戦力になる」
悪戯っぽく笑い、ロイ兄様は私にそういった。私が考えたように、兄様も思いついたのだろう。兄様が病に伏せったままのメリットとデメリットを。それに情報が加われば、導き出される答えも違ったものになる。呪いはその際たるものだ。
ウィズ殿下とサリュー様の質の違う二つの呪い。即効性のあるものと、持続性のあるもの。即効性のものなら神官たちによって治せた。でも持続性のあるものは、呪いの元を絶たなければいけない。
聖なる乙女、つまりヒロインがロイ兄様の呪いを解いたのであれば……ロイ兄様の部屋に呪いの元があったことになる。サリュー様の場合は形代の人形が元となっていたから、多少距離があっても平気だったろうけど。普通なら直ぐ側に置いてあるはず。それとわからないように。
「……念のため、ロイ兄様になにかプレゼントがきたら教えてね? もしかしたら呪いを送りつけてくるかもしれないし」
「そうだね。気をつけるよ」
「本当に気をつけてよ? 聖なる乙女の予言というのを本当にしようと、フィルタード派が動いてるんだから」
念を押すようにそういうと、ロイ兄様は心得たように頷いてくれた。




