241.たまには畑でのんびりと 1
女の子とお話するのは楽しい。知らないことを知ることも、とても楽しい。
だけど――――
「それはそれ。これはこれ。なのよねー」
私は見渡す限り、広大に広がる薬草畑に視線を戻す。
まだ小さな双子たちは危ないので、畑には来られない。だがもう何年かしたら彼らも一緒に畑仕事ができるといいなと思う。
余談ではあるが、後宮の側妃の方々もたまーに訪れては果物を強請っていくそうだ。
旬の過ぎた果物も沢山成っているので、後宮でお茶会をするときに使うらしい。もちろん個人的にも食べているみたいだけど。
アレコレと沢山植えたから、消費してもらえる分にはとても助かる。
それに側妃様たちのお茶会って、たぶんアレよね。夜のお茶会のことだと思う。
もちろん昼のお茶会で使ってもらっても問題ないのだけど……なんとなく、側妃様たちはリュージュ様のために手作りしてそうなのよね。忙しいリュージュ様にお好きな物を食べさせてあげたい、前にそういっていた。
外側から見ていてもわからないことの一つだ。
「姫殿下、そろそろ休憩になさりませんか?」
「そうね。ありがとう、ベル!」
プチプチと薬草を摘んでいると、ついつい集中して時間が経ってしまう。
そんなときは畑の管理人、ベルがタイミングを見計らって声をかけてくれるから助かる。
手と服に付いた土を払い、立ち上がるとグッと背伸びをした。ベルは相変わらずこの広大な、イヤここまで広大にする気はなかったのだが……この広大な畑の管理人だ。
さすがに一人で全部任せたりはしていない。サポート役の花師も三人いる。だが彼らがメインで見るのはどちらかというと、魔術式研究機関が育てている薬草畑。
私の方はベルが一人で見られる、というのでそのままだ。
まあ上手い具合に交替で休みを取っているそうなので、上手く回っているのだろう。ベルは直ぐに畑に出てきたがるけどね。
私は収穫した薬草の入ったカゴを持つと四阿に向かう。
側の手洗い場で手を洗い、四阿の中の椅子に座ると馬の足音が聞こえてくる。音のする方へ視線を向ければ、ライルたちが馬に乗って畑にほど近い場所に馬を止めていた。
「もしかして……そろそろ馬小屋も必要かしら?」
「馬小屋……たしかにあると便利かもしれませんねぇ」
ベルもライルたちが来たことに気がつき、私の言葉に賛同する。一緒に来るときは馬車でくるけれど、単独で来るときは馬で十分よね、と私は馬で来てしまう。
それはライルたちも同じで、馬に乗れるようになると馬車よりも便利に感じてしまうのだ。人に頼まなくて済むし。まあライルたちの場合は相乗りで来るのだけど。
ライルは私に気がつくと手を大きく振る。
私も大きく手を振り替えした。
なんだか久しぶりに四人が揃っているところを見る。
初めはシャンテとリーンがこの畑に来たところから始まったんだったわね……懐かしい、始まりの時だ。思えばあの日が起点なのだから。
ポーションという万能薬を作る――――
「ルティアも来てたのか?」
「そうよ。息抜きは必要だもの」
「息抜きなぁ……しょっちゅう抜いてないか?」
「そんなことないわよ! 最近は凄く頑張ってるんだから!!」
私がそういうと、シャンテが後ろで「ふくっ」と笑い声を上げた。
お友達大作戦中の私だが、シャンテもシャンテでお友達を作っている最中のはず……思わずジトリとした視線を送ってしまう。
その視線に気がついたライルは首をかしげた。
「……何かあったのか?」
「……あったといえば、まあ……」
「そうね。あったといえば、あったわ……」
四人も席に着き、控えていたユリアナとリーナがササッとお茶の準備をしていく。
私はティーカップを手に取り、紅茶を一口。良い香りの紅茶だし、味もとても良い。だがそれしかわからない……
「……ライルにも言っておくけれど、もう何ヶ月かするとカレッジに入るでしょう?」
「そうだな」
「お友達作るのって……大変よ……」
「俺の場合はジルとリーンが一緒なんだが?」
「私だってアリシアとシャンテがいるから大丈夫だって思ってた時期が有ったのよ。それもついこの間まで!!」
「アリシア嬢はともかく、シャンテも友達枠なのか……?」
ライルに微妙な顔をされたが、お友達をお友達と呼んで何がダメなのよ!? むしろそれ以外に呼べる枠なんてないでしょう??
思わずシャンテを見ると、学友……ですかね? といわれた。
「え、学友って学校でできた友達のことでしょう!? それより前からお友達でしょう!! も、もしかしてジルとリーンも違うの!?!?」
私がそういって二人を見ると、リーンはぶんぶんと頭を振り、ジルはキョトンとしている。
「えっと僕たちも友達でいいんですか?」
「むしろ友達以外のなんて呼ぶのよ……」
「そうだよ。俺たち五年も一緒なんだぞ?」
リーンの言葉に私はうんうんと頷く。三人だって私からすれば、大事なお友達だ。
初めこそアリシアに攻略対象、と聞いていたけれど。今では畑仕事を通じて、色々な話ができている。それなのに友達と思われていなかったのだろうか……?
「あのー……その場合は、幼馴染みになるのでは……?」
おずおずとしたベルの言葉に全員があっと声を上げた。
そうか。お友達を超えて幼馴染みなのか。たしかに頻繁に会ってるものね。幼馴染みという言葉にくふっと笑みを浮かべる。
「なんだか良い言葉ね。幼馴染みって」
「そうだな」
「で、話を戻すけど……幼馴染みとお友達はまた違うのよ」
「お、おう……」
「今それで私たちとても苦労しているの……」
「苦労?」
私の言葉にライルがキョトンとする。その次にライルがしたのはシャンテを見ること。
なぜか私の発言を本気に捉えていない。
「もう! どうして私じゃなくて、シャンテなの?」
「そりゃ、お前だから?」
「その……ライル様、ルティア様の発言は残念ながら本当です」
「えっ……」
「学園に入れば自然と友達ができると、私も思っていたの。でも違ったのよ……」
「あ、でも……ルティア様はラステア国に行ってたこともありますし……」
ジルがそうフォローをいれてくれたが、私たちにお友達がいないのはラステア国に行く前から。なんならフィルタード派子息子女の方が私たちに積極的に絡んできていただろう。
それ以外の子たちと話す機会は殆どなかった。そう正直に話すと、ライルはえーっと顔を歪める。
「なんかね、近寄りがたかったみたいなの」
「お前がぁ?」
「ライル様、基本的に王族には近寄りがたいですよ」
「ジルが言うならまあ……それは、あるのか?」
「それにアリシアとシャンテと三人で固まっていたから尚更、声をかけづらかったみたい。二人とも高位貴族だし」
「うーん……といっても、俺たちはライル様の護衛も兼ねるというか……アッシュは常に付き従うわけじゃないですよね?」
リーンがそうライルに問いかけた。すると、「そうですね!」と元気な声が急に聞こえてビクッと体が震えてしまう。ロビンもするのだが、アッシュも同じことをするとは……!!
そして猫みたいにニッと笑いながらアッシュが現れた。
「まあ完全に離れるわけではないですけど、付かず離れずってとこですね」
「リーナは……基本的に離れてるわよね?」
「そうですね。私は寮で待機してます」
「違いって何?」
思わずアッシュに尋ねると、うっかり喧嘩を買わないためといわれた。
なるほど。男の子の方が血気盛んってことかしら?
「もちろんそれだけじゃないですけどね。ほら、ロイ様もライル様も色仕掛けされたら困るでしょう?」
「それはルティアも同じじゃないのか?」
「確率の問題ですかねぇ。王配に絶対になれるなら、その手も有効ですけど」
「あー俺か、兄上だと王位に近い。たとえ正妃になれなくても、側妃にはなれるってことか?」
「その通りです。なにせ相手の女性を傷物にしたと見なされますからね」
「なるほど……そういうのも気をつけないといけないんだな」
「基本的には普通にご友人を作られて大丈夫ですよ。友人が多いと言うことは知見も広がりますからね。満遍なく、広く浅く、それでいてこちらが使われないようにって感じです」
アッシュの言葉にライルが頷いているが、それはとても難しいことなんじゃない? と思ってしまう。満遍なくってことは派閥関係なく、ということだし……
チラリとシャンテに視線を向ければ、シャンテも小さく頷いていた。
やっぱり難しいわよね…… というより、私も同じように目指さないといけないのだろう。
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キャスのセリフで誤字報告をいただきますが、キャスの言葉遣いは仕様なので(丁寧に話そうとして失敗してるだけ)そのままにしておいてください。




