書店
王女殿下がどうして顔を真っ赤にしたのかは分からない。ただまぁ、理由を挙げるとすれば女の子だから……だろうか?
女の子は随分と気分が変わりやすい人種だ。
記憶に新しいところで言えば、ティティとの一件からもそれが分かろうものである。
いくらお酒が入っていたとは言え、僕を襲うなんて行動にティティは出た。
それは恐らく、僕を襲いたい気分になったから、なのだと思う。
王女殿下も似たような感じで、僕に何かキツい言葉を浴びせたい気分になったとか、そういう心境なのだろう。
そして、それはそのうちに落ち着いて元に戻るハズだ。
つまり、気にするだけ意味が無いことだろうと、僕はそう結論づけた。
※※※※
さて――学校から出た僕は、セミナー会場があるとされる路地裏へと向かっていた。
ひとまず、路地裏のへの入り口を確認しつつ――けれども、僕はすぐには路地裏へ入る事はしなかった。
会場へとたどり着いても、セミナーが開く時間が夜ということもあって、それまでは待ち続ける必要があったからだ。
会場の前でずっと突っ立って待っているのも、それはそれで、関係者から不審がられる。
ということで。
僕は、どこか時間を潰せそうなところが無いかを探すことにした。
すると、近くに書店が見えたので、そこで立ち読みをして待つことに。
手に取ったのは、ふと目に止まった定期テストの対策本だ。一学年の人数が万単位ということもあり、この手の物も売られているらしい。
頁をめくる。
色々と有用そうな情報も乗っている。
けれども……買うかどうかは微妙かな。
内容がどうこうではなく、そこまでお金を持っているわけではないからだ。
地味に対策本の値段は高かった……。
「……あっ」
と、横から驚いたような声が飛んで来る。なんだろう、と思って振り向くと、そこには書店員の格好をしたミアがいた。
「ミア?」
「は、はい」
「……ここで働いてるの?」
「はい。私は平民の一般家庭の出なので、仕送りとかもあんまりなくて……ここでアルバイトしてます」
やるしか無いから、という理由ではあるのだろうけれど、随分しっかりしていると思った。
僕は父上から仕送りは貰っている。
贅沢が出来るほどでは無く、普通に日常生活を送るには不足が無いくらいだけれど……しかし、こうして働いているミアを見ると、そんな自分が少し恥ずかしくなってくる。
「……僕も何かお金を稼ぐ方法を考えようかな」
自分で使うお金くらい、自分で稼ぐべきだと思うのは、おかしいことだろうか? いや、そんなことは無いハズだ。
「え……?」
「自分で使う分は自分でどうにかしたいしね」
「でも、確か貴族って……」
「男爵家だから、そこまで裕福じゃないんだ。……ミアは立派だよ。見習わないと」
僕は肩を竦める。すると、ミアが嬉しそうに笑った。
「どうしたの? 僕なにか変なこと言った?」
「ち、違います。ただ、そんなに遠い人じゃないんだなって思ったら、それが、少し嬉しくて……」
そういうことか。
僕が貴族だから色々と違いも多いと思っていたけれど、実際はそんな事がなくて安心したといった感じのようだ。
気持ちは分かる気がする。
僕も生前であれば、貴族と自分に似た部分があれば、少し嬉しくなったと思う。目線が近いと好ましく思えるものだ。
「そういえば、何の本をお探しですか……? 言って貰えば、すぐに見つけます!」
「別に今すぐ欲しい本があるわけではないんだ。ただ、少し寄って見ただけというか。……ごめんね。売上に貢献出来なくて」
「そんなことは……」
「それより、仕事は良いの?」
「――け、検品がまだでした」
ミアは「それでは」と言って頭を下げると、ぱたぱたと店の奥へと走って行った。
どうでも良いことだけれど……ミアは小柄ということもあって、その後ろ姿だけを見たならば、同い年には全く見えない。
※※※※
だいぶ日が落ちて来た。
そろそろ、セミナーが始まる時間である。
僕は本を棚に戻すと、そのまま店を出て、路地裏へと入って行った。
赤ずきんちゃんはいない。
だいぶ慣れては来たようだけれど、相変わらず人混みが苦手のようで、「まだ無理」と言って部屋に閉じこもっているからだ。
僕一人での潜入になる。
路地裏の角を曲がって別の路地裏に入り、それから更に奥に進む。まもなくすると、突き当りに会場が見えて来た。
王女殿下「……いつか私も男の人あんなことするのかしら」




