恩
#日記:地球歴 残存記録 第196日
#場所:南部方面軍旗艦インペリアル・シールド 機体格納庫
ついさっき、ここを飛び出していったように思えるのに、部隊は半数まで減っている。
というか、俺なんて16日前までは、奴隷部隊の前線基地いたってのに。今や、精鋭部隊の隊長とは。俺だけのことを考えていれば良い立場てはなくなっている。それも自分の上官を救いに行くのか。
つい半年前までは、自転車で大学に通って、サークルの友人達と毎晩のように飲みに行ってたのにな。あぁ…大好きだったアイドルの音楽聴きたい。
そんな俺に敵陸上戦力制圧を担当するルーク上級曹長が話しかけてきた。俺はふとそんな思いの丈を話した。
「この戦争が終われば皇帝陛下からの温情できっと故郷に帰れるさ」と安心させてくれた。そして、俺の肩に手を置いて、共に仲間を救おうと言ってくれた。
そして俺達『スカイタロン』のパイロット一同は搭乗し、大気圏へ突入した。仲間を救うために。
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突入の衝撃は、全身の骨が軋むような重圧だった。インペリアル・シールドの機体格納庫の静寂は、今、灼熱のオレンジ色の光と、大気との摩擦で発生する轟音に置き換わっている。コックピット内は至って平穏なのだが、よくもまぁ壊れないものだと感心する。
視界の端が歪み、コックピットのハッチは高温で濃いオレンジ色に染まっていた。
「全機、ルーク最上級曹長周辺に密集隊形!敵部隊のレーダーシグナルを確認!奴らもこちらの接近には気づいているはずだ。」
俺の声は、自動的に増幅され、各パイロットのヘッドセットに届く。自分の声が、こんなに冷たく、命令的な調子で響くことに、まだ慣れていない。半年前、大学の講義でぼんやりと未来を夢想していた頃の自分とは、まるで別人だ。
ルークさんの機体が、俺の左翼に位置を取る。彼の実戦経験を物語るように、機動が滑らかで無駄がない。俺にはまだここまでの機動再現できない。
「エドワード、下層雲を抜けるぞ。救援目標地点まで、三分。」
彼の報告は淡々としているが、その背後には、捕らわれた実兄と他への焦りが滲んでいる。俺も同じだ。奴隷部隊から這い上がったこの16日間、俺を人間として扱ってくれたのはザビーダ大尉だ。意見の不一致はあったが、彼への恩は返せていない。
雲層を突破した。眼下には、敵基地と荒野がその周辺を囲んでいる。基地周辺を敵軍が囲んでいる。兵器も見える。相当な数の兵士も確認できる。ザビーダ大尉は数え切れない敵機に追われている。助けねば!!
「敵部隊、確認!」
レーダーが警告を発する。敵の大型の砲台がこちらを向いている。鈍い銀色の光を放ちながら、ゆっくりと旋回している。
「ルーク最上級曹長、残存部隊を率いて敵地上部隊殲滅をお願いします。私は総司令閣下のご命令通り、航空優勢を確保した後、救助用輸送機のカバーに向かいます。」
「了解。十二分に気をつけろよ?」
「そちらもお気をつけて!」
計画は単純だ。あまりに単純だが、成功率は五分にも満たないかもしれない。なにせ、敵部隊は想像以上だ。逆によく持ちこたえたもんだ。
だがまぁ、奴隷として前線基地で死を待つよりも、仲間のために戦うこの瞬間には、ある種の「自由」がある。皇帝陛下の温情が本当にあるのか、故郷に帰れる日が来るのか、俺にはわからない。
しかし、ルークさんが俺の肩に手を置いたとき、そこにあったのは偽りの安心ではなく、共有された「決意」だった。
エンジンに全出力をかける。エルド大尉が万全に整備した機体が軽く唸る。突入の熱は消え、代わりに緊張感が漂う。
俺はザビーダ大尉の後方に付いた。




