緊急ブリーフィング
#日記:地球歴 残存記録 第196日
#場所:南部方面軍旗艦インペリアル・シールド ブリーフィングルーム
帰還したその夜、静まり返った艦内全域を切り裂くような不慣れな警報が鳴り響いた。
飛び起きて壁を見つめていると、ドアが勢いよく開き、隣室のルーク上級曹長が乱れた髪のまま入ってきた。
「エドワード!緊急ブリーフィングだ。五分以内にブリーフィングルームに来い」
彼の声からは、いつもの余裕が微塵も感じられなかった。俺は壁にかけておいた制服に飛びつき、未だ慣れない帝国空軍の軍服に腕を通す。
繊維が皮膚に密着する時の微かな振動は、いつもなら落ち着くはずのリズムとは明らかに違う。何かが、根本的に狂っている。
ブリーフィングルームは冷たい光に満ちていた。正面の巨大スクリーンに、血のように赤く染まった二つの作戦名が浮かび上がる。
その場にいたエルド大尉から聞いた話だけど、案の定ザビーダ大尉から救援要請が来たらしい。だから言ったのに…
『オペレーション・ロストシェパード』——エレーナ星系のガデール共和国首都近郊に取り残された味方部隊の救出。
ザビーダ大尉とスカイタロンの生き残った陸軍精鋭部隊。陸軍の英雄らしいエルシャル大佐の弔い合戦だと命令違反で残った人達だ。恐らく、敵からの攻撃に晒されて援軍要請を出してきたんだろうな…
そして、『オペレーション・ロイヤルブラッド』——首都の敵司令部にいたとされるマリーク第二皇子の確保。
総司令閣下の声は無機質だった。
「スカイタロン残存部隊は、ロストシェパード作戦に充当される。エドワード二等軍曹。君には航空優勢の確保を最優先にしてもらう。そして、ルーク最上級曹長。君は残存部隊を率いて、敵陸上戦力を殲滅せよ。現在、敵航空機は少数と聞いているが、さらなる増援も予想される。彼らの救出後、折を見て即座に離脱せよ」
「「承知」」
スクリーンが切り替わり、第二作戦の説明が始まる。そこに映し出されたのは、まさに子供の頃に見た古い星戦争映画の歩行兵器——全地形対応戦術攻撃兵器『AT-TA ベヒモス』の巨大なシルエットだった。複数門の大型レーザー砲を搭載し、敵拠点制圧の為に開発されたらしい。
無数のそれらが、艦隊から降下していく映像。そして動力は不明だけど、浮いている大型戦車。陸軍専用の敵拠点制圧用爆撃機。ヘリ部隊。
「ロイヤルブラッドは、陸軍選抜部隊が実行する。首都地区の制圧を併せて行うため、全面降下作戦となる。民家人がいたとしても容赦する必要はない。皇女殿下を誘拐したうえでこちらに宣戦布告してきた連中だ。徹底的に作戦を実行せよ。」
隣でルーク曹長が低く呟いた。
「あの街を、跡形もなくする気だな」
俺はスクリーンに映るガデール共和国首都の空中写真を見つめた。「銀河の宝石」と呼ばれているという、螺旋状の超高層建築群が見える。企業連合による資金力をバックにした民主主義国家であるが。その国を帝国の皇子が独立星系連合…企業家達と結託して支配しようとしているのか…
ブリーフィングが終わり、通路を歩きながらルークさんが言った。
「お前はまだ三回目の実戦だ。実力は十二分に理解しているし、お前の実力を疑っているわけではないが、親父も言ってたけどお前は優しさが出てしまうときがある。今回は、それを無くせ。それが軍人というものだからな」
俺はうなずきながら、自分の手のひらを見た。微かに震えている。この震えが、恐怖からなのか、それと武者震いからくるものなのか、自分でもわからなかった。
俺は自分の部隊の救出任務に向かう。だが、スクリーンに映し出されたベヒモスたちが街を踏み砕く光景が、頭から離れない。俺達が仲間を救う一方で、別の部隊が、街そのものを、そしておそらくは中にいる無数の人々を、消し去ろうとしている。
ブリーフィングルームを出る時、ふと振り返った。あの血のように赤い作戦名が、まだスクリーンに消えずに浮かんでいた。まるで、俺の未来を暗示しているかのように。




