これは…
日記:地球歴 残存記録 第180日
場所:アルカディア帝国 前線基地「セクター7」航空部隊倉庫**
俺は倉庫に入った。カビと悪臭、それにガソリンや鉄の匂いが混ざり、鼻が曲がりそうだった。
仕方なく一旦引き返し、基地内に転がっていた酸素マスクを装着して再挑戦。このマスクは旧式で視界が狭いが、無いよりはマシだ。
航空部隊が全滅してから、ここには誰も足を踏み入れていない。埃が積もり、無人の静けさが重くのしかかる。期待はしていなかったが、奥へ進むしかない。生き延びるために、何か使えるものがないか探していく。
そして…ついに見つけた。倉庫の最奥、防水シートに覆われた…一台の機体が残されていた。
だが、側面に刻まれた文字を見て、私は呆然とした。
**「試験機体」**
どうして私に文字が読めるのか? ここへ連行される途中、輸送機の中で謎の装置に繋がれ、頭に言語を無理矢理インプットされたからだ。今では日本語と同等の知識を持っている。あの時の痛みと熱は今でも忘れられない。
プレートの文章を訳してみた。
**【試験機体。エネルギーは充填済み。操縦は完全マニュアル。パイロット達に非難されたが知ったことか。こいつを飛ばせるパイロットがいるのなら、そいつはきっと帝国の英雄になるべき人材なのだろう。これを読んでいるものがそんな男であることを切に願う。】**
…皮肉なことに、この機体の技術者は、パイロット全滅後に整備士たちから責任を問われ、袋叩きに遭い、死亡したらしい。基地の記録に残っていた。
確かに、帝国の航空機はほとんどが自動操縦かAI搭載機だった。人間の腕がものを言う時代は終わったと思っていた。だが、この機体は違う。操縦桿と計器類が剥き出しで、古い戦闘機のようだ。全てが手動…パイロットの技量が全てを決める。
私は思わず笑みが漏れた。
俺は奴隷になる前、戦闘機シミュレーションゲームに没頭していた。操縦席を完全再現したセットを十万円近くで購入し、実家の空き地にゲーム室をバイト代全額をはたいて支払った。何百時間も飛び続けた。世界大会にも出場し、特に乱戦では誰にも負けなかった。あの没頭した日々が、今、こんな形で役に立つとは。
この機体に乗り込む。座席は硬く、計器の灯りがぼんやりと揺れる。エンジン始動の手順を頭の中で反芻する。かつてのゲームの記憶が、今、現実の手順として蘇る。
外では、敵の偵察機が低空で飛び交う音が聞こえる。帝国は崩壊し、この基地もいつ陥落するかわからない。だが、少なくとも私は、もう隠れて生き延びるだけの日々には戻れない。
最期なら、この手動の鉄塊で、空に大きな花火を打ち上げてやろう。かつてのゲームのように、自由に、狂ったように。
エンジンが唸りを上げた。震動が全身に伝わる。さあ、飛ぶ時だ。




