愛され少女と友情
この二人の友情の原点とか、そういや書いて無かったなと、気づき、一応書くことにしました。需要があるかは、分かりません(^o^;)
『私、君のこと大嫌いだな』
その少女には、本当の友人が存在しなかった。
近寄ってくる者はいた、好意をもってくれる人もいた、環境も恵まれ、容姿にも恵まれ、親にも恵まれ、生活にも恵まれた。
しかし、我侭だった。ほんのちょっとだけ、人の気持ちを理解出来なかった。
そんな彼女は不自由で、許してくれる人間などいなかった。
「胡桃ちゃん何か大嫌い!」
「本当に最低だよね~」
泣いている少女一人と、慰めている少女が二人、その三人に責められているのは、胡桃であった。
「あ…えっと…私が悪いの?」
納得がいっていないのか、胡桃がそう答えると、一人は泣き崩れ、もう二人は一気に攻め立てた。
「そうじゃん!それって狙ってんの!?マジ可愛くねーから!」
「本当にそういう所が人を傷つけてるんだよ…マジ最悪」
何故、こんな事になったのかと言うと、少女Aには好きな人がいたが、その男子が胡桃を好きになったのだ。
少女Aがその男子Bを好きなのは胡桃も知っていた。同じグループの者として、その恋を応援していた。しかし、無常にもその男子Bが好きになったのは胡桃だった。
それだけならば、まだ少女たちは、胡桃に非はないと思うのだが
《私じゃなくて、Aちゃんにしなよ、AちゃんってB君の事好きなんだよ。それで我慢しなよ》
こんな風にして暴露してしまったのである。二人が怒っているのは、その部分である。
しかし、胡桃には理解が出来ない。自分がどうして怒られているのか、何が悪かったのか。
「ねえ、私の悪いとこって何?何が駄目だったの?」
そういって、純粋に答えを求めようとするのだが、二人にとっては挑発行為である。
「アンタのそういう所が大嫌いだったのよ!」
「少しは頭冷やしたら?」
頭に血が上った少女は、身近に有った、水の張ったバケツを胡桃に浴びせた。
「よく反省して、少しはまともになりなさいよ」
そう言って、少女たちは、胡桃を放置して何処かへと行ってしまった。
残された胡桃は、俯いて水がしたたる感覚に不愉快感を覚えながら、目元に水が溜まるのを感じていた。
「また、やっちゃった」
これが始めてではない。
昔から、胡桃には人への理解が薄く、少しだけズレている部分があった。
その為、彼女はよく人の逆鱗に触れ、怒らせ、苛立せ、嫌われるのが常であった。
しかし、同時に胡桃は魅力的な少女であった。
圧倒的に可愛らしく整った容姿と、天然無垢で純粋な、よい育ちをした者特有の雰囲気も合わさって、彼女を好きになるものは数多く居る。
しかし、許してくれるもの、本当の意味で好いてくれるものは、出会えない。
「みんな、最初は好きって言うくせに…」
ポツリと、切なく呟く。
目が少し熱くなり、心臓がムカムカしてきた。こんな自分が悪いのは分かる。けれども……
そう自己弁護と自己嫌悪に走り、一人で泣いていたとき…
『飴ちゃん食べる?』
上から、声が聞こえた。
見上げると、身長の高い生徒が右手に飴を、左手にはハンカチを持って現れていた。
『ほら、拭いてあげるから、その間に飴ちゃん舐めときなよ』
「う…うん」
差し出された飴を口に放り込み、カラコロと舐めている間に、その女子生徒は優しくポンポンとハンカチで拭いていく。
時折目が会うと、ニコリと微笑んで、何も言わずに優しく優しくハンカチで拭いていく。
『うん、粗方拭けたね』
しかし、ハンカチが拭き取れる水の量には限りがあるので、まだ少しだけ湿っている。それに気づいた、長身の彼女は、自分のジャケットを脱いで、胡桃に着せた。
「あ…ありがとう」
『気にしないで、偶々通りかかっただけだから』
そう言いながら、長身の女子生徒は、近くにあったベンチに座って、ココア缶を飲み始めた。
もう興味を失ったのか、それとも最初っからどうでもよく思っているのか、胡桃が水に濡れていた経緯を聞く事も、大丈夫?と声をかけることもせずに、ゆったりとリラックスモードに入っている。
そんな女子生徒に、胡桃は意を決して尋ねた。
「あ…あの、名前は何ていうのぉ?教えてくれないかな?」
『私?私は…』
そこで、女子生徒は言葉を止め、天を仰いで何かを考えた後、こう言った。
『私は「ちあき」よろしくね』
ニッコリと、何処か暗闇のような、掴み所のないような、不安定にも関わらず、絶対的な安心を保障する笑みとともに、そう言った。
それ、に胡桃は惹かれたのかもしれない。
「私は胡桃って…言うの!それで…その…私と…」
スカートをギュウゥッと握り、目を瞑り、必死に言った。
「私と友達になって欲しいの!」
『うん、いいよ』
胡桃の一大決心の告白のような言葉とは相対的に、ちあきの返事はアッサリと返していた。
因みに千秋は、当時まだ特別校舎の生徒でした。
ついでに「ちあき」でした。




