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夜と星空の異世界冒険譚  作者: 麻渚
第二章『フォンティア王国』編
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第七話「失踪」

王城へ続く大きな橋へ差しかかった、その時。


「──止まってください」


二人の兵士が四人の前へ立ちはだかった。


「え?」


ソラが思わず足を止める。


「現在、王城へ立ち入る者全員の身元を確認しています」


兵士の一人が真剣な表情で言う。


「お名前と、ご用件をお聞かせください」


その言葉に、ヨル達は思わず顔を見合わせた。


(まさか……)


(異世界から来たことがバレた……?)


ヨルの背中を冷や汗が伝う。


ホシも小さく息を呑み、ソラも表情を強張らせた。


すると。


「失礼します」


ニクスが一歩前へ出る。


首から下げていた、小さな青緑色の宝石が付いたペンダントを兵士へ見せた。


中央には、フォレシア王国王家の紋章が刻まれている。


「私はフォレシア王国第一王女、ニクス・リア・フィールです」


「この三人は私が保証します」


兵士達の表情が変わる。


「……失礼いたしました!」


二人はすぐに姿勢を正し、深く頭を下げた。


「王女殿下とは気付かず、大変失礼いたしました。」


「構いません」


ニクスは穏やかに微笑む。


「お務めですから」


兵士達は安堵したように息を吐く。


「ご協力、ありがとうございました」


兵士達が道を開ける。


四人は再び王城へ向かって歩き始めた。


「焦った……」


ヨルが小さく呟く。


「一瞬、全部バレたのかと思った……」


「私も……」


ホシが胸を撫で下ろす。


「びっくりしたぁ……」


ソラも苦笑した。


「皆さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


「今は王城の警備が厳しくなっているだけだと思います」


しかし、その理由を四人はまだ知らなかった。


やがて四人は王城へ辿り着く。


重厚な扉が兵士によってゆっくりと開かれた。


四人は城内へ足を踏み入れる。


「わぁ……」


ソラが思わず声を漏らした。


広々とした城内には、透き通る水路が廊下に沿って静かに流れている。


床や柱は白と青を基調とした美しい造りとなっており、天井から差し込む光が水面へ反射し、幻想的な景色を作り出していた。


壁には海や波を描いた装飾が並び、水の国らしい落ち着いた雰囲気が広がっている。


「フォレシア王国とは、また全然違うね」


ソラが辺りを見渡す。


「……綺麗」


ホシも静かに見入っていた。


ヨルも城内を見回し、小さく息を吐く。


「同じ王城でも、国によってこんなに違うのか」


そんな三人の様子を見て、ニクスは微笑む。


「フォンティア王国は、水と共に歩んできた国ですから」


四人は水のせせらぎを聞きながら、謁見の間へと向かった。


やがて、謁見の間の大きな扉の前で兵士が立ち止まる。


「少々お待ちください」


兵士は扉越しに声を掛けた。


「フォレシア王国第一王女、ニクス・リア・フィール様と、その御一行をお連れしました」


「……入れ」


落ち着いた低い声が返ってくる。


重厚な扉がゆっくりと開かれた。


四人は謁見の間へ足を踏み入れる。


「……」


ヨル達は思わず息を呑んだ。


広々とした謁見の間は白と青を基調とした造りとなっており、左右には澄んだ水が静かに流れている。


奥には豪華な玉座。


その背後では、一枚の薄い水の幕が静かに流れ落ち、光を受けて幻想的に輝いていた。


その玉座へ腰掛けていたのは、一人の男性。


銀色の髪に、整った顔立ち。


優しさと威厳を兼ね備えた雰囲気を纏っていた。


しかし、その表情には隠しきれない疲れが浮かんでいる。


「お久しぶりです、オセアス様」


ニクスが丁寧に一礼した。


「久しいな、ニクス」


オセアスは穏やかに頷く。


その声は落ち着いていたが、どこか覇気が感じられなかった。


「そちらの三人が、アルヴァン殿から聞いていた冒険者達だな」


そう言って、オセアスはヨル達へ視線を向ける。


「初めまして」


ヨル達も揃って頭を下げた。


「天ノ川 夜(ヨル)です」


「天ノ川 星(ホシ)です」


「天ノ川 空(ソラ)です」


オセアスは三人を見つめ、小さく頷く。


「遠路はるばる、よく来てくれた」


「本来なら歓迎したいところなのだが……」


そこで言葉が止まる。


ヨルは街へ入ってからの出来事を思い返していた。


街にいた兵士の数。


突然の身元確認。


そして今、目の前にいるオセアスの疲れた表情。


その全てが一つに繋がる。


「……何か、あったんですか?」


ヨルの問い掛けに、謁見の間は静まり返った。


オセアスはしばらく俯いていた。


やがて、小さく息を吐く。


「……隠していても仕方がないな」


そう呟くと、ゆっくりと顔を上げた。


「実は、一週間ほど前」


「私の娘である第一王女、ヘリア・ノア・フォンテが突然姿を消した」


「……!」


ヨル達は息を呑む。


「最初は城のどこかにいるものと思っていた」


「だが、どれだけ探しても見つからなかった」


「城内はもちろん、王都の隅々まで兵士達に捜索させた」


「しかし、一週間経った今も行方は分からない」


オセアスは苦しそうに目を閉じる。


「生きているのかさえ……分からぬ」


重苦しい空気が謁見の間を包む。


ホシは言葉を失い、ソラも俯いた。


ニクスも胸元へ手を当てる。


「そんなことが……」


オセアスはゆっくりと頷く。


「街に兵士が多かったのも、王城へ入る前に身元確認をしていたのも、全てヘリアを捜すためだ」


「王女が姿を消したことは、まだ国民には公表していない」


「城の兵士達だけで、密かに捜索を続けている」


ヨルは静かに頷いた。


「……事情は分かりました」


オセアスは静かに目を閉じる。


「父親としても、王としても……」


「何もできていない自分が情けない」


ヨルはオセアスを見つめる。


本当は、この場で自分達が異世界から来たことを話し、元の世界へ帰る方法について聞くつもりだった。


だが、今その話を切り出すべきではない。


そう感じた。


「今日は、これで失礼します」


ヨルがそう言うと、ホシとソラも静かに頭を下げる。


ニクスもオセアスへ一礼した。


「お時間をいただき、ありがとうございました」


オセアスは静かに頷く。


「……ああ」


四人は静かに謁見の間を後にした。

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