第八話「追跡」
四人は静かに謁見の間を後にした。
王城を出た後も、ヨルは先程の出来事を頭の中で整理していた。
(結局……元の世界のことは何も聞けなかったな)
王女が突然姿を消した。
そんな状況で、自分達の事情を話すことはできなかった。
「お兄ちゃん?」
ソラの声で我に返る。
「ん、あ……ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫?」
ソラが心配そうにヨルの顔を覗き込む。
「ああ、大丈夫だ」
「それで、これからどうするの?」
ヨルが少し考え込んでいると、ニクスが口を開いた。
「ひとまず、この国の冒険者ギルドへ行ってみませんか?」
「情報も集められますし、依頼も受けられます」
「そうだね」
ホシも静かに頷く。
ヨルは三人を見て小さく笑う。
「よし、行ってみるか!」
四人はフォンティア王国の冒険者ギルドへ向かった。
――――――――
ギルドへ入ると、多くの冒険者達で賑わっていた。
ヨル達は依頼掲示板の前へ向かう。
「レベルも上がったし、中級くらいの討伐依頼なら受けられそうだな」
ヨルが依頼書を見渡していると、不意に近くの冒険者達の会話が耳へ入った。
「また女の子がいなくなったらしいぞ」
「最近、多すぎないか?」
「夜は出歩かない方がいいって噂だ」
ヨルは思わず耳を傾ける。
(物騒な話だな……)
すると、ホシがそっとヨルの隣へやって来た。
「お兄ちゃん」
周りに聞こえないほど小さな声で囁く。
「……もしかして、王女が失踪したことと関係があるんじゃない?」
ヨルは小さく頷いた。
「俺もそう思った」
「少し街を見て回ろう」
ニクスとソラも事情を聞き、四人はギルドを後にした。
――――――――
大通りを歩いていると――
ふとヨルの視線が、大通りから少し外れた薄暗い路地裏へ向く。
その瞬間。
黒いフード付きのマントを羽織った三人組が、何かを担いだまま路地裏を走り抜けていく姿が一瞬だけ目に映った。
「……!」
(まさか……!)
ヨルは振り返る。
「ソラ!」
「任せて!」
ソラはすぐに両手を前へかざす。
「ルア・ブースト!」
淡い緑色の光がヨルを包み込む。
身体が一気に軽くなる。
ヨルは地面を強く蹴り、一人で三人組を追いかけた。
「ホシ!」
ソラが声を上げる。
「分かってる」
ホシはすぐに状況を察した。
「ニクスさん、私達も追いましょう」
「はい!」
三人もヨルの後を追いかける。
――――――――
ヨルは黒いマントの男達を見失わないよう距離を詰める。
やがて男達は街外れに建つ古びた小屋へ駆け込んだ。
「ここか……」
ヨルは息を整えながら、小屋へそっと近付く。
音を立てないよう扉を開き、中へ入る。
「……誰もいない?」
室内には家具もほとんどなく、人の気配もなかった。
「どこへ消えた……?」
警戒しながら中を歩いていると――
「これは……」
床の一角に、不自然な継ぎ目を見つける。
慎重に手を掛けると、床が静かに開いた。
地下へ続く隠し扉だった。
その時。
「お兄ちゃん!」
ソラ達三人が小屋へ駆け込んでくる。
ヨルはこれまでの経緯を手短に説明した。
「地下へ続いてる」
ニクスは階段の先へ視線を向ける。
「この先は暗そうですね」
そしてホシを見る。
「ホシさん、光属性には周囲を照らす魔法もありますよ」
「杖を持って『レア・ルミナ』と唱えてみてください」
「……うん」
「レア・ルミナ」
杖の先から複数の光球がふわりと浮かび上がり、地下への道を優しく照らした。
「すごーい!」
ソラが目を輝かせる。
「これなら進めそうですね」
ニクスが微笑む。
四人は警戒しながら地下へ足を踏み入れた。
螺旋階段をしばらく下る。
やがて少し開けた空間へ辿り着く。
周囲に人影はない。
しかし――
奥の方から、何者かの気配を感じる。
ヨルはそっと拳を握り、三人と目を合わせた。
四人は息を潜めながら、その気配のする方へゆっくりと歩き出す。
薄暗い地下通路を慎重に進む。
ホシが放つ光球だけが辺りを優しく照らし、静まり返った通路には四人の足音だけが小さく響いていた。
やがて。
ヨルは足を止め、後ろの三人へ静かに手を向ける。
四人は息を潜め、その場で耳を澄ませた。
「……話し声だ」
奥の部屋から男達の笑い声が微かに聞こえてくる。
四人は互いに頷き合い、物陰へ身を隠しながら少しずつ近付いていく。
通路の先には木製の扉が半開きになっていた。
ヨルはそっと扉の隙間から中を覗く。
そこには五人の男達がいた。
机を囲み、酒瓶を片手に騒ぎながら笑っている。
机の上には金貨や袋が乱雑に置かれており、その様子だけでもまともな集団ではないことが伝わってきた。
「今日も良い女が入ったな!」
一人の男が酒を飲み干しながら笑う。
「ああ、最近は若い女がよく売れる。」
「金には困らねぇな!」
男達は下品な笑い声を上げた。
ヨルは思わず拳を握り締める。
(こいつら……)
その時、一人の男が酒を注ぎながら口を開いた。
「そういや、この前捕まえた王女はどうなった?」
その一言で、ヨル達の表情が変わる。
別の男が面倒くさそうに肩をすくめる。
「最初は暴れてうるさかったが、今じゃすっかり大人しい。」
「抵抗する気力もなくなったんだろ。」
「ははは!」
すると。
部屋の奥に座っていた大柄な男が、静かに口を開いた。
「勘違いするな。」
その一言で、男達の笑い声が止まる。
「王女は商品じゃねぇ。」
男は酒を机へ置き、椅子にもたれ掛かった。
「王女が姿を消したままなら、オセアス王は国を守れない王だと思われる。」
「民も貴族も王を信用しなくなる。」
「それが俺達の狙いだ。」
一人の男がニヤリと笑う。
「なるほどな。」
「王様が失脚すれば、この国も俺達の思い通りってことか。」
大柄な男は満足そうに笑う。
「ああ。」
「その時が来るまで、王女は生かしておけ。」
「死なれちゃ意味がねぇ。」
ヨルは静かに息を吐いた。
(やっぱり……。)
(王女の失踪は、ただの誘拐じゃない。)
ゆっくりと三人へ視線を向ける。
言葉は交わさない。
しかし。
ホシも。
ソラも。
ニクスも。
ヨルの視線だけで、その意思を理解した。
全員が静かに頷く。
(ここで全員倒す。)
ヨルは剣の柄へ手を掛けた。
そして――
勢いよく扉を蹴り開ける。
「そこまでだ!」
突然の大きな音に男達が一斉に立ち上がった。
「誰だ!」
「侵入者か!」
ヨルは剣を抜き放ち、男達を真っ直ぐ見据える。
「お前達の悪事もここまでだ。」
「全員まとめて捕まってもらう。」
男達は一瞬だけ驚いた表情を見せる。
だが。
部屋の奥に座っていた大柄な男だけは、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。
巨大な斧を肩へ担ぎ、ヨル達を見下ろす。
「ガキが四人で乗り込んできたのか。」
「面白ぇ。」
「返り討ちにしてやるよ。」
地下室に張り詰めた空気が流れる。
次の瞬間。
ヨルは地面を蹴り、一気に男達との距離を詰めたのだった。




