第九話「激闘」
「ソラ!」
地下空間へヨルの声が響く。
「全員にブーストだ!」
「えっ……!」
突然の指示にソラは一瞬戸惑う。
その隣で、ニクスがすぐに声を掛けた。
「ソラさん! ロア・ブーストです!」
「ロア・ブーストなら、この場にいる全員を強化できます!」
「……分かった!」
ソラは右手に持ったステッキを胸の前へ構える。
肩までの髪がふわりと揺れる。
風の魔力がソラの周囲へ集まり始めた。
「――ロア・ブースト!」
優しい緑色の風が地下空間を吹き抜ける。
四人を包み込んだ風は身体へ溶け込むように消え、それと同時に身体が軽くなる感覚が走った。
ヨルは剣を握り直す。
(動ける。)
身体が軽い。
力も自然と湧き上がってくる。
「行くぞ!」
ヨルだけが地面を蹴り、一気に男達へ向かって駆け出した。
その背中を見送りながら、ニクスは左手にはめた緑色の魔法石の指輪へ魔力を流し込む。
魔法石が淡く輝いた。
「――ロア・ヴァイン。」
足元へ緑色の魔法陣が広がる。
ゴゴゴゴ……
地下が小さく揺れた。
「なんだ……?」
男達が足元を見る。
次の瞬間。
バキィッ!!
木の床を突き破るように三本の巨大な蔦が勢いよく飛び出した。
薔薇のような鋭い棘を纏った蔦は、生き物のようにうねりながら男達へ襲い掛かる。
「うわっ!」
一本目の蔦が男の身体へ巻き付き、そのまま強く締め上げた。
「ぐぁっ!」
二本目は逃げようとした男の足へ絡み付き、勢いよく地面へ引き倒す。
三本目は別の男を壁際まで押し込み、逃げ道を塞いだ。
鋭い棘が食い込み、男達は苦痛の声を上げる。
さらに蔦は、拘束した男達から少しずつ生命力を吸い取っていく。
「ホシ!」
「うん。」
ホシは一歩前へ出ると、杖を静かに掲げた。
「――レア・ノヴァ。」
杖の先から六つの光球がゆっくりと浮かび上がる。
六つの光球は標的を捉えると、一斉に飛び出した。
「やめ――」
ドドドドォォン!!
六つの爆発がほぼ同時に起こる。
木の床が激しく揺れ、土煙が一気に舞い上がった。
その隙を逃さず、ヨルは右手を前へかざす。
「――ルア・グラトニー。」
黒い魔力が煙の中を駆け抜け、拘束された男達を包み込む。
「な、何だこれは……!」
男達の身体から力が抜けていく。
腕に力が入らない。
視界も徐々に暗くなっていく。
レア・ノヴァの爆発。
ルア・グラトニーによる弱体化。
二つの魔法が同時に襲い掛かり、男達は次々と意識を失って倒れていった。
やがて土煙がゆっくりと晴れていく。
「……こんなもんか。」
低い声が静かに響いた。
「!」
四人は同時に視線を向ける。
そこには、一人の男が静かに立っていた。
足元には倒れた部下達。
しかし、その男だけは蔦に拘束されたまま、傷一つ負っていない。
男は身体へ巻き付いた蔦へ視線を落とした。
「――ロア・ブレイズ。」
ボォッ……
次の瞬間、三本の蔦は激しい炎に包まれ、一瞬で燃え尽きた。
「そんな……!」
ニクスが思わず声を漏らす。
ヨルは剣を構えたまま男を見据える。
「……お前は何者だ。」
男はゆっくりと巨大な斧を持ち上げる。
「ガルド・ヴォルク。」
それだけ告げると、左手を斧の刃へ添えた。
ゴゥ……
赤い炎が刃を包み込む。
「何、あの魔法……。」
ソラが思わず呟く。
ホシはガルドから視線を逸らさない。
「……炎属性の魔法。」
ガルドは炎を纏った斧を肩へ担ぐ。
「これは俺だけが使える固有魔法――獄炎斧という技だ。」
ヨルは剣を握る手に力を込める。
(ここで倒す。)
(王女を助けるためにも。)
ヨルは一気にガルドとの距離を詰めた。
ガキィィィン!!
剣と炎を纏った斧が激しくぶつかり合う。
火花が飛び散る。
ヨルは必死に踏ん張る。
だが、その力は徐々に押し返されていく。
(重い……!)
ブーストで強化されているはずなのに、それでも押し返される。
ガルドはヨルを見つめ、小さく鼻で笑った。
「……フッ。」
その瞬間。
ガルドは大斧を力強く振り抜く。
ドゴォォォン!!
「がっ……!」
ヨルの身体は勢いよく吹き飛び、木の壁へ激突した。
鈍い音と共に壁が大きく軋み、木片が辺りへ飛び散る。
「「お兄ちゃん!」」
ソラとホシが同時に駆け寄る。
ニクスもすぐにヨルの元へ駆け寄る。
「――レア・フローラ。」
柔らかな緑色の光がヨルを包み込む。
傷付いた身体が少しずつ癒えていく。
ヨルは荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと立ち上がった。
視線の先では、ガルドが炎を纏った斧を肩へ担ぎ、静かにこちらを見据えている。
(正面からじゃ勝てない……。)
ヨルは剣を握り直し、突破口を探すように静かに思考を巡らせた。




